m a k e s h i F t
thEatricals2003.04.02
PARCOプロデュース
「オケピ!」

2003/03/30 @ 青山劇場



3月30日、日曜日。
私にとっての日曜日の日課は1週間分たまった洗濯と掃除。
その日もお昼過ぎにゆっくりと起き上がり、顔を洗い、濡れた顔をタオルで拭きながらたまった洗濯物を洗濯機の中に放り込んでいきます。もちろん、今顔を拭き終わったタオルも投入。
洗濯が終わるまでの間に、流しにたまった食器を片付けます。
それが終わったらたまりにたまったゴミを捨てに外へ。その足で近所のスーパーに行き、クリーニングに出しておいたワイシャツを受け取ります。
戻ってくると洗濯が終わっているので、洗濯物を干していきます。
ここまで大体1時間半。この後はゆっくりと家で休日をのんべんだらりと過ごすのです。
が、今日は観劇に行かねばなりません。
一通りの用事を済ませた私は電車に乗るべく、駅までの道のりを自転車で走り出します。

関係のない前書きは置いておきまして、今回見る「オケピ!」は人気脚本家、三谷幸喜が作・演出を手がけている作品であります。
私は三谷作品を舞台で見たことがありません。彼のテレビ作品は結構見ていますので、その独特の笑いのセンスには非常に興味がありました。しかも今作はミュージカル。生でミュージカルを見るのも初めてです。否でも応にも期待感は募ります。
ちなみに私のミュージカル経験はビデオで松尾スズキ作の「キレイ」を見たのみ。そういえば「オケピ!」の初演と同じ2000年に上演された作品だそうで。
というわけで、この「オケピ!」は今回は再演であります。初演時には真田広之、松たか子主演で話題になりました。
実は今回も真田広之さんが出演するという話だったのですが、スケジュールの都合で急遽初演にも出演していた白井晃さんが代役として主演をすることなったそうです。ちなみに初演で白井さんが演じたサックスは三谷作品ではおなじみの相島一之さんが。他に今作から出演しているのは寺脇康文さん、岡田誠さん、温水洋一さんと曲者ぞろい。結果的にキャストを見た限りでは、初演に比べて渋みが増して、大人向けという印象が強くなっている気がします。
舞台は青山劇場。これまた初めて行く大劇場であります。オペラグラスの有料貸出をしているところを見て「ああ、オペラグラスを使わないと辛いほど大きいのね」と妙なところで感動を覚えたりも。
ちなみに私はオークションで大金を叩いたおかげで10列目という素晴らしい席をゲット。オペラグラスなどなくても役者の表情が分かります。日ごろの行いのおかげですね。いいえ、お金のおかげです。
舞台の下には本物のオーケストラピットとの姿も。初めて見るので、私も他のお客さんに混じって覗いて見ました。あんな感じになっているんですね。さっぱり伝わらないと思いますが。
開演前には注意事項に関するアナウンスがあったのですが、これは三谷氏本人がミュージカルらしく音楽にのせて朗々と歌い上げておりました。ただ残念ながら、少々音量が小さかったせいか、高音域などはほとんど聞き取れませんでした。もう少し発声から練習した方がいいです。

ミュージカルの舞台の下で演奏を行うのがオーケストラピット。通称「オケピ」だ。
今日も評判がイマイチなミュージカルのオケピの面々が集まってきた。
今回のメンバーは以下の通り。
思い込みが激しいポジティブシンキングが信条のギター(川平慈英)。
オケピの面々をまとめあげるコンダクターの女房役ヴァイオリン(戸田恵子)。
細かいことが気になって仕方ない主婦のチェロ(瀬戸カトリーヌ)。
いい人なんだけどどうも印象の薄いビオラ(小林隆)。
腕はイマイチだし人の話を聞かないピアノ(小日向文世)。
男性と屈託なく付き合える性格から勘違いされやすいハープ(天海祐希)。
自分のテリトリーに厳しく、人付き合いを好まないベテランオーボエ(布施明)。
ジャズ出身でわがまま放題のトランペット(寺脇康文)。
いくつもの楽器をこなす凄腕ミュージシャンながら、心配の種は宇宙の崩壊というサックス(相島一之)。
脂肪肝でダイエットを余儀なくされているファゴット(岡田誠)。
音楽よりも営業に躍起になっているドラム(温水洋一)。
オケピに初めて参加することになった学生パーカッション(小橋賢児)。
そしてそれらをまとめるコンダクター(白井晃)。
コンダクターはプロデューサーが急に出してきた注文に答えるべく譜面に向かっていた。しかし気になるのは2人の女性のことだった。1人はトランペットに寝取られ2ヶ月前に家を出た妻のヴァイオリン。もう1人はどうも自分に気があると思われる美人のハープだ。
いつも通り一番にやってきたオーボエは今日も静かに爪を研ぎ始めた。
次にやってきたのは今回が初参加というパーカッション。期待に胸を膨らませ目が輝いている。
次にやってきたのがヴァイオリン。コンダクターはどうしても家に戻ってきて欲しいと懇願するが、ヴァイオリンは昨晩の飲み会の会計計算で頭がいっぱいの様子。
やがてぞろぞろと他の面子も集まり始める。
サックスはフルートなど4種類の楽器を携えての登場。ドラムは来るなり早速コンダクターに怪しげな漢方薬を宣伝する。買い物帰りだというチェロは大きな買い物袋を下げてやってきた。ピアノはなにかしら大きな箱を持ってきている上、いきなり今日は鼻が痒いので演奏に集中できないなどと言い出す。トランペットは二日酔い。
そんな中、麗しのハープを見つけたコンダクターは昨晩考えた新しいハープの譜面を手渡す。ソロの部分にアレンジを加えたものだ。ハープは見せ場をもらって大喜び。実はこれが彼の女性を落とすテクニックなのだ。
やがて舞台は開演。順調に演奏をこなす中、次々とトラブルが発生する。
ギターがいきなりハープとの交際関係を発表し、そこからさらにコンダクター、ヴァイオリン、トランペットなどを巻き込みどんどん多角形化していく人間関係。ピアノがこっそりつれてきたウサギの「ショパン」が巻き起こす騒動。演奏の合間に食事をしたため突然深い眠りに落ちるファゴットのせいで、パート変更を余儀なくされる面々。そのときに心無いコンダクターの一言で落ち込んでしまうビオラ。それを慰めようとするが、どうしてもビオラの名前が思い出せない。皆の不真面目な態度に、理想とのギャップを感じ、腹を立てるパーカッション。20年ぶりに再会することになった一人娘の来場に動揺を隠せないオーボエ。次から次へと連鎖的に起こるトラブルにコンダクターはどう対処していくのか!?

結論から言って、非常に面白かったです。
休憩の20分を含めて3時間半の大作だったのですが、全く時間を気にすることなく楽しめました。
三谷作品に良くある、その場しのぎで場をつなげる展開はくだらなくも圧巻でした。次から次へと鎖のようにつながりつつ、もつれていく人間関係も、それぞれのキャラクターの個性で見事に消化されていくのがお見事でありました。
ミュージカルを皮肉った内容かと思いきや、最後ではそれでもミュージカルはいいものなんだよと、独特の説得力。そりゃ、いきなり歌がはじまってしまうミュージカルに対しての違和感は消えないんだけど、それはそれでありなんだと思わせる、訳のわからないパワーがこの作品にはありました。
ストーリーだけを追っていけばどうってことのない話なんです。特に心に響くような展開があるわけでもないし、何かを提示してくれるような暗示もない。ただただ、オケピの中で繰り広げられる人々の非現実的なドタバタ模様を見せられているだけなんです。それでも見終わった後には、素晴らしいエンターテイメントを見せてもらった満足感が残る。いやはや感服するのみであります。
カーテンコールが終わり、出口が混まないうちに外へ出ようと急いで出口に向かっていると、再び三谷氏によるアナウンスが。
「これ以上待っていても、何も面白いことは起こりません」
おいしいところはしっかり持っていかれるんですね。周りの人と同じように、私も笑顔で劇場を後にしました。

白井晃さん。見た目の印象と違う気が弱くなさけないコンダクターを熱演。ただ、一番最近見た白井さんの姿はドラマ「HR」の中だったので、他人に振り回されるキャラクターはそのままっていう印象も強かったですが。
天海祐希さん。さすがは元宝塚、歌がうまいです。自然体ながら、かっこいい女性を演じておられます。ただ外見のイメージとのギャップがポイントの今作では、若干あっていないような気も。
戸田恵子さん。2人の男の間でゆれながらも、自分の幸せを見つけようとする姿は印象的でした。初演ではもっとしっかりしたタイプだったようですが、個人的にはちょっとしたことでパニックになってしまう今回のキャラクターのほうが好きですね。
瀬戸カトリーヌさん。関西人の血が前面に出ているキャラクターが結構好きなんですが、今作の中でもパワフルな女性を演じていらっしゃいます。思ったよりも歌がうまかったのは意外でした。また演技もどうなんだろうと思っていたんですが、舞台を縦横無尽に走り回る熱演は印象的でした。
小林隆さん。イメージどおりというか、この人が持っている雰囲気がそのまま現れていたような印象。落ち込んでいるときの姿、素晴らしかったです。見習いたいです。
川平慈英。とても40歳とは思えない。歌にしてもダンスにしても素晴らしいです。こういうかっこいい大人になりたいです。
小日向文世さん。今回の裏のMVPですね。おとぼけキャラが愛しかったです。2幕直後で見事に台詞を忘れていたのもキャラクターに合わせた演技だったのでしょうか? それで観客は大笑い。他の役者さんたちも素で笑いをこらえているを見て、楽しい現場なんだろうなぁなんて思ったりしました。
布施明さん。貫禄ですね。歌に関しては文句なし。しびれました。個性が強すぎるキャラクターの中で、抑えた演技ながらしっかりと存在感を見せ付けていました。
寺脇康文さん。ワイルドながら自然体といういそうでいないキャラクター。どうもこの人にはとことん悪い人間か、逆に極端にギャップを感じさせるいい人間かっていうのがしっくりくるような。今作でもワイルドなイメージと自然体なイメージのギャップをもっと大きくしていた方がよかったかな。
相島一之さん。僕にとって一癖ある役といえばこの人だったんですけど、基本的にいい人な職人肌という今回のキャラクターは今までの印象とはちょっと違って新鮮でした。「ブラックホール」という掛け声がちょっと聞き取りづらかったです。
岡田誠さん。前に出てくる機会が多くないので、1幕ではあまり印象に残らなかったのですが、2幕最初の歌でビックリ。見事なテナーでした。こういうのを後半まで隠しておくとは憎いなぁ。
温水洋一さん。相変わらずの曲者ぶりであります。歌やダンスは苦手なのでしょうか、あまり前には出てきてませんでした。でもしっかりとおいしいところはチェックしてるんですよねぇ。
小橋賢児。これだけの面子の中に入れば、嫌でも若さが前に出てきます。そういう意味でも今回の役にはピッタリ。ハキハキとした動きには素直に好感が持てました。


ミュージカルだからといって毛嫌いできない作品 ★★★★★


− 公演データ −

PARCOプロデュース
「オケピ!」

2003/03/07〜2003/04/20@青山劇場(03/07,08,10はプレビュー公演)
2003/05/01〜2003/05/09@厚生年金会館(名古屋)
2003/05/16〜2003/05/30@大阪フェスティバルホール
全席指定 前売・当日 SS席12600円 S席10500円 A席8400円 B席6300円

- STAFF -
作・演出:三谷幸喜 音楽:服部髞V
振付:上島雪夫 美術:堀尾幸男 照明:服部基
衣裳:黒須はな子 音響:松木哲志 ヘアメイク:河村陽子
声楽監督:北川潤 稽古ピアノ:國井雅美
演出助手:小川美也子 演出補:白井美和子 舞台監督:松坂哲生
宣伝美術:高橋雅之 宣伝写真:細川晃 製作:伊東勇
プロデューサー:佐藤玄 制作:毛利美咲、小久保貴子ほか
企画協力:(株)コードリー 企画製作:(株)パルコ

- CAST -
白井晃/天海祐希
戸田恵子/川平慈英/小日向文世
寺脇康文
小林隆/ 相島一之/温水洋一
小橋賢児/瀬戸カトリーヌ/岡田誠
布施明

− 演奏曲一覧 −

第一幕
M1 オケピ! (全員)
M2 序曲 彼らはそれぞれに問題を抱えて演奏する (全員)
M3 ミュージシャンのタコについての考察 (コンダクター、ハープ)
M4 乾燥機はあなた次第 (コンダクター、ヴァイオリン)
M5 くたばれ!ミュージカル (トランペット)
M6 ミュージシャンのタコについての考察2 (ギター、ハープ)
M7 パーカッションの理想と現実 (パーカッション)
M8 恋のSAPOTA (コンダクター、ハープ、ヴァイオリン)
M9 It's My Life (オーボエ)
M10 気になって気になって演奏どころじゃない(サックス、ピアノ、チェロ、ドラム)
M11 Who Are You? (ヴィオラ、チェロ、全員)
M12 ポジティブ・シンキング・マン (ギター、全員)
M13 ハーピストの理想と現実 (ハープ、トランペット)
M14 オケピ! (全員)

第二幕
M15 アントラクト 俺たちはサルじゃない (ファゴット、パーカッション、全員)
M16 オーボエ奏者の特別な一日 (オーボエ)
M17 劇伴 サックス奏者の活躍 (インストゥルメンタル)
M18 私を愛したすべての人へ (ハープ)
M19 サバの缶詰 (ヴァイオリン)
M20 ポジティブ・シンキング・マン リプライズ(ギター、全員)
M21 倍テンポのダンスナンバー (インストゥルメンタル)
M22 ただひとつの歌 (全員)
M23 オケピ! (全員)
M24 俺たちはサルじゃない(インストゥルメンタル)
 

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