m a k e s h i F t
thEatricals2003.03.06
中村有志 ソロ・ライブ
「愛とバカ ユージ」

2003/03/01 @ ラフォーレミュージアム原宿



雨が強く降りしきる中、私は原宿駅前に立っていました。
渋谷と並んで私にはふさわしくない街であります。
私の記憶にある原宿。それは10数年前に妹に無理やり連れていかれた竹下通りであります。
そして今私の目の前に広がる風景は……雨と暗闇でよくわかんねぇよ。

中村有志さんといえば、パントマイムという印象が非常に強い私であります。最近はTVチャンピオンのレポーターの印象の方が強いですけど。
ですが、その印象を大きく変えてくれたのが、去年見に行ったシティボーイズのライブでありました。
企業へのクレーマーという役柄で登場した中村さんは全身にオイルを塗りたくり、バスタオルを腰に巻いたお姿。その第一印象だけで大笑い。
そんな中村さんが2年半ぶりにソロライブをやるということで、定価以下でオークションで落札したチケットを握り締め、ラフォーレ原宿へと向かったわけであります。
今回のステージは全席自由でありました。一応入場番号がチケットに明記されていますが、開場15分前で既に大行列。まあ、開場していないんだから当然か。客層はかなり幅が広いです。年配の男性グループなんて、普通の演劇なんかではあまり出会わない組み合わせです。
ステージの両脇には花輪が並べられ、ステージ上に服を着せられたマネキンが置かれています。(マネキンといっても、頭や手足などは付いていない非常にシンプルなもの)
座席は前3列分が桟敷。その後ろにパイプ椅子が約10列。私は前から8列目のパイプ椅子に腰掛けました。
ひな壇の高さがあまり高くないので、前の人の頭が気になりましたが、幸いにも座高が高いので、鑑賞に堪えられないほどではありませんでした。

以下は、ライブの覚えている限りの詳細の内容です。つまりほぼ完全なネタバレです。文章だけでどこまで伝わるかは疑問ですが、そこはニュアンスで感じてください。私の筆力のなさを、あなたの想像力で補うのです。あなたと私の愛の作業。そんなレポート。


オープニング
まずは全裸(一応パンツははいてます。でも黒のTバック)にバスタオル1枚の姿に笑顔を浮かべて登場。
音楽にのり、ステージを右へ左へ。
しばらくすると股間の辺りが盛り上がってくる。
慌てて静めようとする。一旦収まるが再び盛り上がる。
それを何度か繰り返しているうちに、バスタオルの上に銀色のボールが登場。
よくある手品です。ボールは再びバスタオルの中に消え、何度も暴れながら、ボールに引っ張られるように舞台袖へ。


一応手品ですけど、いきなり下ネタです。R-15の片鱗を早くも垣間見せてくれます。


一人夫婦漫才
自分の右腕をマネキンが着ている着物から出し、一人二役での漫才。パントマイムでは割とよく見られるやつです。
結婚なんて糞くらえ! という掛け声で漫才のスタート。
旦那がある日、自宅に嫁さんの女友達が泊まりに来ていたエピソードを話します。が、嫁さんは旦那の胸や股間をまさぐり邪魔をする。それを制止しながら話を続ける旦那。
明け方目が覚めると女友達はあられもない姿でいる。股間や胸から視線がはずせない旦那。すると、友達が目を覚まし大声で叫ばれたからさぁ大変。慌てて電話の受話器をつかみ、大声で話す振りをする。目を覚ました嫁さんは、小さな声で電話しなさいとたしなめ、再び眠りにつく。それを聞いた嫁さんは、扇子を振り上げ旦那を殴る殴る。


細かい手の動きが見事で、本当に隣に人がいるかのようでした。うん、熟練の技。


クリスマス3部作
その1。
お昼の定職屋は大忙し。カウンター側で働く板前は、次々とくるお客さんの注文にてんやわんや。席は満席でお客さんも待っている。そんな中カウンターに座る女は、先日家に来たフガフガ話す男の話を友達にしている。女は家に上がらせたくないのだが、男はドラマが見たいからとかなんとか理由をつけて、家に上がりこむ。しかし男はドラマを一向見る気配がない。話のオチを話す前に、時間に気がつき席を立とうとする女たち。ありがとうございましたと声をかける板前。しかし先ほどの話をちゃっかり聞いていた板前は、ついフガフガ話す男はその後どうなったのか聞いてしまう。
その2。
クリスマスケーキを食べたことのない男の子が母親にねだります。しかし、母親はクリスマスケーキなんてろうそくの味がするんだなどと嘘をついて適当にあしらおうとします。それでもクリスマスケーキが食べたい男の子。とそこにクリスマスケーキをお土産にお姉さんが帰ってきました。大喜びの男の子。そこに現れた父親。せっかくのクリスマスケーキを床にたたきつけ、こんな夜遅くまでどこに行っていたのかと怒ります。お姉さんは交際中の男と結婚をすると答えます。その言葉に怒った父親は鉈を振り上げ、お姉さんに振り下ろします。間一髪それを避けたお姉さんは、家を出て行ってしまいました。ぐちゃぐちゃになったクリスマスケーキを貪り食う男の子。そのおいしさと、出て行ってしまったお姉さんへの悲しみと、怒っている父親への恐れと、目の前に刺さっている鉈への恐怖感でぐちゃぐちゃになる男の子でした。
その3。
ストーリーはまんま賢者の贈り物です。ただ、彼女がものすごく髪を切られてしまうのです。


明確なオチが存在しないお話でした。しかし、ここの登場人物の何気ない仕草や動きにくすりとさせられてしまいます。


インターバル その1
大きなサングラスにピンクの白衣という出で立ち。
R−15でお送りしております。
イギリスのとある生物学者の研究に非常に興味深いものがあります。檻の中に二匹の鼠を入れると、盛んにセックスを行います。しかし一定の期間が経つとセックスの回数が減っていく。そこで雌の鼠を取り出し、別の雌の鼠を入れてみる。すると再びセックスの回数が高水準に達するのであります。別の動物でもやってみました。檻の中に二羽の鶏を入れると、盛んにセックスを行う。しかし一定の期間が経つとセックスの回数が減っていく。そこで今度はもう一羽別の雌の鶏を入れます。つまりこの檻の中には一羽の雄と二羽の雌の鶏がいる状態です。すると再びセックスの回数が高水準に達するのであります。猿でもやってみました。凄いことになりました。フランス人でもやってみました。物凄いことになりました。中国人でもやってみました。とんでもないことになりました。そして、日本人でもやってみました。ところが。話は続きます。


仁義なき三姉妹
広島に住む三姉妹のお話。ある日長女がとある義理から猫を買わなければならないと妹たちに告げる。しかし世話なども大変だからと飼わない方がいいと次女。しかしどうしても義理を立てなきゃいけないと長女は懇願する。それに折れる形で、家に雄猫がやってきた。ユキオと名づけられた。
しかし実際に世話をするのは次女ばかりで、長女はやれ部屋が汚い、臭いと文句をいうばかり。
「いいかユキオよ。お外ではな、狙われるもんより狙うもんが強いんじゃ」
やがて長女はユキオを大人しくさせるために去勢手術を受けさえようとする。それを拒否する次女。
「ユキオのタマ、取られるわけにはいきませんのや」
ある日、次女が帰宅するとぐったりとしているユキオが。慌てて近寄ると既にユキオは息絶えていた。
「なんでユキオが死んどんじゃい!」
どうやら、長女と三女が無理やりユキオを獣医に連れて行き、去勢手術を行おうとしたのだが、突然ユキオが暴れだし、手術は失敗。それが元で死んでしまったようだ。
葬式だけは盛大に行おうとする長女。
「ユキオ、こげなことをしてもろうても嬉しうないじゃろう。わしも同じじゃ」
ゆっくりとユキオの亡骸を抱き上げ、次女は部屋を出て行こうとする。
「ヒロコ、おどれは腹くくってやっちょるんか」
「オオコ姉さん。タマはまだ残っとるがよ」
チャララ〜チャララ〜♪(仁義なき戦いのテーマ)


分かる人には分かると思いますが、まんま「仁義なき戦い」です。
割烹着姿で、長女が金子信雄、次女が菅原文太、三女が田中邦衛の声真似で、仁義なき戦いの台詞を元に話が進んでいきます。ただ、仁義なき戦いを見ていないと面白さは明らかに半減でしょう。私もその一人です。これを見終えた後にネット上で「仁義なき戦い」の台詞集を見て、なるほどこういうことかと、ようやく詳細の部分まで分かった次第です。


インターバル その2
その1と同じ科学者らしき人物。再び講釈を。
精子戦争というのをご存知でしょうか。その名の通り、精子同士の戦いです。ある統計によりますと、恋人のいる女性が浮気をするのは、恋人との性行から1週間以内が非常に多いということです。普通、精子の寿命は1週間といわれておりますが、早く死ぬものは3日で死にますし、長生きするものは10日以上生きるものもおります。となると、浮気をした女性の子宮内では複数の男の精子が同居する可能性があるわけです。
一概に精子といいましても、全てが全て卵子に向かっていくわけではありません。あるものはブロッカーとなり他の精子の侵入を防ごうとします。あるものはキラーとなり他の精子を殺そうとします。そしてキラーに守られるような形でゲッターが卵子に向かっていくわけです。つまり女性の子宮内では精子同士の戦い、精子戦争が行われているわけです。
これはより強いDNAをという女性の本能のようなものでありまして……。


サラリーマン狂言
スーツ姿のサラリーマン。腰を下ろして、すすすとステージ上を歩く。どんどんどん、どんどんどん。このあたりのものでござる。正確には営業の田中というものでござる。いざいざ、いざいざキャバクラへ〜!
しかし、生憎と手持ちのない二人。ならばコンビニ強盗だとばかりに近くのコンビニに脅し入るが(凶器はネクタイ)誰もいない。無用心だと、文句をいいながら外へ。おっと、ちょうどいいところにショベルカーが。しからばこれでATM強盗だ。見事に成功し、大金を手に入れる二人。しかし、これではキャバクラどころではないぞと、おっぱいパブへと豪勢に行こう!


全編、バカがあふれる狂言話。ありとあらゆる言葉と動作が狂言そのもの。狂言自体が昔のお笑いのようなものであったことを考えれば、意外としっくり感じたのも気のせいではなさそう。ただ、やっぱり独特の言い回しは狂言をよく知っていないと面白さも半減してしまったのではないかしら。そんな印象。


呪いのカピタンサンダル
カピタン、カピタン、カピタンと歩くたびにお殿でサンダルを履く女。その音がうるさいと文句を言う彼氏。その言葉にキレてしまう彼女。そんな彼女をボッコボコにしてしまう彼氏。倒れている彼女からサンダルを奪い取ると捨ててしまおうとするが、突然身震いをすると、自分の履いていた靴を放り捨てそのサンダルを履いてしまう。
カピタン、カピタン、カピタンと音をさせながらバスに乗る彼氏。そこで携帯電話が鳴り、話を始める彼氏。それに注意をする正義感あふれる男。その注意にキレてしまう彼氏。そんな彼氏をボッコボコにしてしまう男。倒れている彼氏からサンダルを奪い取ると捨ててしまおうとするが、また身震いをすると、自分の履いていた靴を放り捨てそのサンダルを履いてしまう。
カピタン、カピタン、カピタンと音をさせながらバスを降り、町を歩く男。そこで犬を連れたおばさんと肩がぶつかる。危ないじゃないのと文句を言うおばさん。その言葉にキレてしまう男。人ごみの中を逃げ出すおばさん。人ごみを掻き分けながら必死の形相でおっかける男。なんとか男を倒し、男からサンダルを奪い取る。するとまたまた身震いをして、自分の履いていた靴を放り捨てそのサンダルを履いてしまう。
カピタン、カピタン、カピタンと音をさせながら歩くおばさん。その音に反応して吠え続ける犬。やがてその犬にキレてしまったおばさんは犬を踏みつけ殺してしまう。ここでハッと我に返ったおばさん。サンダルを脱いで、まじまじとサンダルを見つめる。あ、このサンダルは、履くと我を忘れてキレてしまうという呪いのカピタンサンダルではないか。昔、祖父に聞いた話を思い出すおばさん。このサンダルの呪いを消すには恐山に行くしかない。おばさんはこのサンダル呪いを消すために恐山へと向かう決意をする。でもその前に銀行に行ってお金をおろさなきゃ。え? キャッシュディスペンサーが故障中でお金を下ろせない? あ、ダメよ。サンダルを履いてはダメ。履いたらキレてしまう。ダメ、ダメ。しかし、ついに履いてしまうおばさん。サンダルの呪いでキレてしまったおばさんは銀行にガソリンをまき、火をつけてしまう。なんと恐ろしき呪いのカピタンサンダル。もう私の手には負えないと判断したおばさんはカピタンサンダルを力の限り放り投げた。
ピューっと、サンダルの飛んだ先は某国家主席の元。その国家主席もサンダルに魅せられ、履いてしまう。受話器を取り上げ、どこかに電話をする国家主席。どうやら引田天功に求愛をしている様子。しかし、見事に断られる。それにキレてしまった国家主席。ついにはミサイルを打ち上げてしまうのであった。赤く染まる空に向かって国家主席はマンセー、マンセーと両腕をあげた。


今回のタイトル通り、ものすごいお馬鹿なお話。しかし、最後にはしっかりブラックな部分を見せたりしつつ。今回の中では一番のお気に入りです。


インターバル その3
再び科学者。
男は無意識のうちに射精する精子の量をコントロールしているのです。
先ほど精子戦争の話をいたしました。いつも性行を行っている相手、つまり恋人や奥さんなどに対しては、相手の子宮内には自分の精子しかいないという安心感があります。ですから、精子戦争をする相手もいない。すると無意識の内に射精される精子の量が少なくなります。
ところが、普段から性行をしているわけではない相手、つまり浮気相手などに対しては、相手の子宮内には誰の精子が存在するかは分かりません。つまり精子戦争が発生する恐れがあるわけです。となると戦争に勝つため、無意識の内に大量の精子を放出しようとするわけです。
そうなのです。無意識の内に精子の量をコントロールしてしまっているのです。あくまで無意識の内です。恋人や奥さんのことは愛しています。当然です。しかし、無意識の内に体はコントロールをしてしまうのです。違う相手を求めてしまうというのも無意識の内にコントロール……


長々と講釈をたれた結果は男の浮気は自然現象だという薄っぺらいものでありました。しかし、この案にうなづいた男性は多かったはず?


エンディング
黒いドレスでどこの言葉ともわからない言葉(しいて言えば朝鮮系?)で熱唱。ステージの両サイドにある送られてきた花をちぎっては客席に投げる。


ここまで内容を書くのが大変だとは思いませんでした。
書き始めて1時間もしないうちに後悔をしたことを報告しておきます。
さて、全編を見終えての感想としては、非常に大人なライブだった印象が強いです。
明らかに年齢層を高めに設定してある話の数々は少々敷居が高く感じられる部分もありますが、そんな小難しいことを考えずに、中村さんの動きと台詞に笑っていればよかったのかもしれません。
そこまで素直になれなかった私には、ちょっと笑いの量が少なく感じられたライブでした。
ただ全編にちりばめられた「愛」と「バカ」にはうなずかざるをえませんでした。


バカ笑いというよりもしっとりとした笑い ★★☆☆☆


− 公演データ −

中村有志 ソロ・ライブ
「愛とバカ ユージ」

2003/02/28〜2003/03/01@ラフォーレミュージアム原宿
2003/03/10〜2003/03/11@近鉄小劇場(大阪)
全席自由(大阪は全席指定) 前売3800円 当日4000円
R-15(中学生含・15歳未満入場禁止)

- STAFF -
作・構成・演出:中村有志
舞台監督:比嘉正哉 照明:黒田耕一郎
音響:眞澤則子 美術:松本英明
衣装:山本有子
チラシデザイン:50 BAN GRAPHICS 写真:平間 至
公演協力:ラフォーレ原宿、ラップネット
後援:ニッポン放送

- CAST -
中村有志
 

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