ラブレター


「先輩、私の気持ちです」
 放課後、突然現れた彼女は俺に1通の封筒を手渡してきた。
 いきなりの行動で俺はついその封筒を受け取ってしまった。
 僕が封筒を受け取ったことを確認すると、「明日、ここで待ってます」とだけ言って、彼女は走り去った。
 またか……。
 こう言ってはなんだが、俺はもてる。
 サッカー部の主将で、身長もある。顔やスタイルにもそれなりに自信がある。
 事実、俺は毎週のようにラブレターをもらっている。
 今回もそんな中の1つに過ぎない。
 でも、今回の子は割と上玉だった。
 あの子だったら、軽く付き合ってやってもいいだろう。
 数回デートして、飽きたら捨てちまえばいいだけのことだ。
 俺はひとまず家へと戻ってから封筒を開けた。
 中には1枚の紙が入っていて、こう書かれていた。

 あなたに逢いたい
 何度思ったら
 魂に届く?
 我慢ができない
 全てを愛した
 気持ちは見殺し?
 出逢えたあの頃
 捨てたくない過去

 まるで詩のような手紙。こんなのは初めての経験だ。
 しかし俺は何度も読み返し、この手紙に隠されたメッセージに気づいた。
 何てことはない。この手紙の文章の頭を読んでみればいいだけだ。
『あ・な・た・が・す・き・で・す』
 手の込んだことをするもんだ。
 素直に「好きです」と書けないぐらい純情だとでも言いたいのかね。
 まあいい。手紙の真相も分かったことだし、明日さっそく彼女をいただくことにしよう。

 翌日。
 今日は日曜日で部活も休み。校内はがらんとして、人気も感じない。
 しかし彼女は昨日言ったとおり、俺を待っていた。
 俺の姿を見つけた彼女は、小さな声でゆっくりと「私の気持ちわかっていただけましたか?」と言ってきた。
 俺は得意の声色を使って好青年を演じてやる。
「もちろんだよ。君の僕への想い。痛いほど分かったよ」
 俺の言葉に感動したのか、彼女は笑顔で俺を見つめる。ちょろいもんだ。
 そして彼女は俺の元へと走り寄ってくる。ここで軽く抱きしめてやれば終了だ。俺は両手を軽く広げて、彼女を迎えてやる。
 一瞬、彼女の手のひらが光ったように見えた。
 彼女は勢いよく俺の胸に飛び込んできた。
「うっ」
 俺はうめき声を上げた。
 腹の辺りが熱い。
 視線をゆっくりと下げると、眩しいぐらいの赤が飛びこんできた。
 俺はただ口を鯉のようにパクパクとさせることしか出来なかった。
 スローモーションで倒れていく俺に彼女は冷たく言い放った。
「女を食い物にするようなあなたには、女の本当の気持ちなんてわかるはずがないわ。女の気持ちが知りたかったら、裏を読まないとね」
 俺は彼女の真意を知ることなく、絶命した。


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