お菓子の家


 今年小学校に入学したブン君と幼稚園の年長さんのキリちゃんは仲のいい素直な兄妹です。
 そんな兄妹が好きだったのはお母さんの話してくれるたくさんのお話です。
 中でも好きだったのは「ヘンゼルとグレーテル」というお話です。
 そのお話に出てくる「お菓子の家」が気になって仕方がなかったのです。
 本当にお菓子の家があるのかどうかお母さんに聞いても、やさしく微笑むだけでした。
 そんな優しいお母さんが病気で亡くなったのは2年前のことです。
 寂しくて悲しくてどうしようもない毎日でしたが兄妹はお父さんと助け合いながら仲良く暮らしていました。
 そんなある日、お父さんがある女性を家へとつれて帰ってきました。
 お父さんはその女性を兄妹に新しいお母さんだと紹介しました。
 兄妹はとても驚きましたが、反対することもできずその場を受け入れることにしました。
 それから4人の生活が始まりましたが、兄妹はなかなか新しいお母さんとなじむことができませんでした。
 やはり、死んだお母さんのことが忘れられなかったのです。
 それを気に病んでいた新しいお母さんはお父さんにどうすればいいかを相談しました。
 そこでお父さんは兄妹が「ヘンゼルとグレーテル」というお話が好きだということを教えてあげました。
 特にお菓子の家が気になっているということも。
 それを聞いた新しいお母さんは自慢の料理の腕でミニチュアサイズのお菓子の家を完成させました。
 学校と幼稚園から帰ってきた兄妹はそのミニチュアのお菓子の家を驚きと喜びの表情で見つめています。
 それを見た新しいお母さんは嬉しそうに、本物のお菓子の家もあるのよと兄妹に話します。
 本当に?と興味津々の兄妹の表情を見た新しいお母さんはもったいぶった口調で自分が持っているのと答えました。
 兄妹はあまりの驚きで声も出ません。
 新しいお母さんはそんな兄妹の様子を見て作戦成功と声には出さずにつぶやくのでした。
 また今度も作ってあげるから、どんどん食べて大きくなってね。
 新しいお母さんは兄妹の頭をなでながら言いました。
 あ、雨が降ってきたよ。
 ブン君の声に新しいお母さんは洗濯物を取り出すために慌ててベランダへ飛び出します。
 それに続いてキリちゃんもベランダに出ます。
 あら、手伝ってくれるの?
 新しいお母さんは自分の作戦が早速きいているのねと大喜びです。
 じゃあ、そこの奥のを取り込んでねとキリちゃんに言うと、洗濯物を取りこみ始めました。
 キリちゃんに新しいお母さんが背を向けた瞬間、なんとキリちゃんは力を込めて新しいお母さんの背中を押したのです。
 新しいお母さんはそれでバランスを崩し、5階建てのマンションから落ちてしまいました。
 それを確認した兄妹は笑顔でガッツポーズです。
 そうです。新しいお母さんは大事なことを忘れていたのです。
 お菓子の家に住んでいたのは兄妹を食べようとした悪い魔女だったのですから。


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