無題 その1


 彼は多忙でした。  そんな彼の口癖はこれです。
「ああ、1日が48時間あれば…」

「そんなあなたにはこれをどうぞ!」
「な、なんですか、あなたは?」
「ショートショートでの無駄な説明は致命的なのです。単なる通りすがりのセールスマンと思っていただいて結構」
「はぁ」
「ともかく、そんなあなたはこれを飲みなさい」
「なんです、これは?」
「1日が48時間になる薬ですよ」
「本当ですか?」
「そういう無駄な会話も致命的なので、私はこれで」
 謎の男は去っていきました。
 残された彼は少々戸惑いながらもその薬を飲みました。
 するとどうでしょう。
 セールスマンの言った通りに1日が48時間になったです。
 お日様はゆっくりと昇り、時計の進みも半分になりました。
 ただ、回りの人々の早さは2倍になっていました。
 つまり他の人々は1日を24時間で動いているのです。
 数日後、彼はのろまを理由に会社を解雇されたのでした。

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