ダイエット薬


「博士」
「ん?どうしたのかね、助手よ」
「実は、最近運動不足でして太りぎみなんですよ」
「そうなのかね?いつも接しておるから気付かなかったわい」
「そこで相談なんですが、簡単にダイエットができる薬なんていう虫のいいものはありませんでしょうか?」
「いかんのぉ、そういうすぐ頼ろうという考えは」
「はあ、分かってはいるのですが、こうも毎日研究をしているとなかなか億劫でして」
「まあ、その気持ちもわからんではない。事実そういった薬がないわけでもないしのぉ」
「あ、あるんですか?!」
「わしを誰だと思っとるんじゃ。そういう基本的な薬を作らんでどうする」
「ああ、確かに痩せ薬っていうのもある意味王道ですね」
「一体、何の王道なのかは分からんが、いくつかあるぞ」
「いくつもあるんですか」
「色々な面から作ってみたんじゃが……」
「やはり、何かしら問題が?」
「……うむ」
「ともかくどういったものがあるのか教えていただけませんか」
「そうじゃな。まずはこの薬じゃ。最近よく言われておる体脂肪率に注目したものじゃ」
「体脂肪率というと、体の中における脂肪の割合を示すものでしたよね」
「そうじゃ。その体脂肪率をこの薬で間違いなく下げることが出来るのじゃ」
「それはすごいじゃないですか」
「確かに着眼点は良かったんじゃが……」
「あ、問題があるんでしたね」
「うむ、実はこの薬で体脂肪率を下げることは確かに出来るのじゃが、脂肪自体の量を減らすことはできんのじゃ」
「どういうことです?」
「この薬を1粒飲むと1%、体脂肪率を下げることが出来るのじゃが……試しに体脂肪率40%の100キロの男性がおったとしよう」
「体重100キロで体脂肪率40%ですから、実際の脂肪の量は40キロですね」
「そうじゃ。ここで例えば薬を10粒飲むと、体脂肪率は30%になるわけじゃ」
「でも、脂肪の量は変わらないんですよね」
「そうじゃ、だから結果的に体重は133.33キロになるんじゃ」
「増えてるじゃないですか!」
「そうなのじゃよ。体脂肪率が下がっても結果的には体重が増えてしまうんじゃ」
「全く意味がないではないですか」
「まあ、相撲取りなんかにはいいかもしれんがの」

☆ ☆ ☆

「次はどんな薬でしょうか?」
「次の薬は肥満の原因となる脂肪を燃焼させる薬じゃ」
「燃焼ですか?」
「そう、まさしく燃焼させるのじゃ。脂肪が燃えれば問題はないはずじゃからな」
「まさか、それで本当に体に火が着くなんてことはないですよね?」
「それでは死んでしまうではないか。そういう事例は最初の段階でしか出ておらん」
「出てたんですか!?」
「今は出ておらん」
「そういう問題ではない様な気もするのですが……」
「研究に犠牲はつきものじゃ」
「ともかく、死ぬようなことはないんですよね」
「今はない」
「なら、もう問題はないのですか?」
「飲んでもらえれば分かるのじゃが、この薬で体内の脂肪を燃焼させると、当然のことだが体温が上昇するのじゃ。40度を超すこともあるが、死に至ることはない」
「それぐらいの障害は仕方ないでしょう」
「体温が上昇すると体は熱を逃がそうと汗を出す」
「当然ですね」
「結果的に脱水症状を起こしてしまうんじゃ」
「やばいじゃないですか!死んじゃいますよ!」
「なに、水を飲めばいいんじゃ」
「なるほど、水を飲み続けておけばいいわけですね」
「脂肪の燃焼は大体2日ほどで終わるぞ」
「2日も水飲み続けていられませんよ!!」
「あとはそこだけなんじゃが……」
「……」

☆ ☆ ☆

「次は痩せるのに一番有効とされている運動という面に着目した薬じゃ」
「もうかなりどうでもよくなってきましたが、一応聞きましょう」
「この薬を飲むと自分の意思とは別に体が運動をしてしまうのじゃ」
「勝手にですか?」
「そうじゃ」
「それはそれでちょっと嫌ですね。勝手に体が動くというのも」
「その辺を考慮して、この薬は睡眠時間中に働くようになっておる」
「つまり、寝ている間に運動が出来るというわけですか」
「そうじゃ。これなら運動嫌いの人間でも無意識のうちに運動が出来るわけじゃ」
「それはいいじゃないですか。やはり運動不足が肥満の原因ですからね」
「実際にこれは成果も出したんじゃ。ここにデータがある」
「1ヶ月で30キロ減だなんてすごいじゃないですか!これなら商品化できるかも……」
「うむ、わしもそう考えて準備しておったんじゃが……」
「何があったんですか?」
「本来、体を休める時間である睡眠時間に運動したことがたたって、被験者が過労死したんじゃ」


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