身代金


 リリリリリリーン
「もしもし」
「おたくの子供を預かっている」
「え?」
「返して欲しくば身代金を用意しろ」
「ま、まさか誘拐?」
「そうだ」
「なんだって!こ、子供は無事なのか」
「今のところはな。しかし、警察を呼べば命の保証はない」
「わ、分かった。警察には連絡しない。だから子供の声を聞かせてくれないか」
「だめだ。まだこちらの要求すら話していないのだからな」
「身代金か」
「そうだ」
「い、いくらだ」
「29800円だ」
「はぁ?」
「だから、29800円だ」
「29800円?」
「そうだ」
「単位はドルなんですか?」
「何を聞いている。円だと言っただろうが」
「と、とても安いんですね」
「必要な額はそれだけだからな」
「よろしければ、何に使うのか教えてもらえませんか」
「ドリームステーションだ」
「ド、ドリームステーション?」
「そうだ」
「あの、ゲームですか」
「そうだ」
「あれだったら先月値下げになって19800円になりましたけど」
「何!本当か」
「ええ」
「じゃあ、19800円だ」
「消費税は?」
「あ、そうだな。ちょっと待て…………身代金は税込みで20790円だ」
「ソフトはどうするんですか」
「しまった。ソフトは何がいいか聞いてくるのを忘れた」
「誰かが欲しがっているのですか?」
「息子がうるさくてな」
「だったら、『ファンタジーファイト8』辺りがいいんじゃないんですか」
「何だそれは」
「大ヒットしたゲームですよ」
「それはいくらなんだ」
「なんだったら、うちに現物がありますからそれを差し上げましょうか」
「何!」
「ソフトも5、6本ありますし」
「ほ、本当か」
「ええ」
「それは助かる」
「これで息子が助かるのなら安いものですよ」
「え?」
「どうしました?」
「今、なんと言った?」
「いや、だから息子が助かるなら安いもんだって……」
「息子?」
「ええ」
「しまった……」
「どうしました?」
「俺が誘拐してきたのは女だ」
「間違いですか」
「そ、そのようだな。しかし、まいったなぁ」
「ああ、よかった」
「せっかくいい話がまとまっていたのに……」
「もしもし?」
「あ、ああ。おたくにはすまなかった」
「ドリームステーションは差し上げましょうか?」
「な、なんだって!」
「こうして知り合ったのも何かの縁でしょうし」
「ほ、本当なのか?」
「全然構わないことです。でも、本当に誘拐したのは誰なんですか?」
「西野とかいう家のはずだ」
「小学生ぐらいの娘さん?」
「そうだ」
「それなら、うちの近所ですよ」
「知り合いなのか?」
「ええ、まあ。ともかく、ドリームステーション送りますから、住所を教えてください」「本当に申し訳ない。住所は○○町5−6。石川です」
「じゃあ、すぐ届けるようにしますから」
「本当に申し訳ないです」
「いいんですって。こういうときはお互い様です」
 ガチャン

 ピッポッパッパッポッポッピッ
 トゥルルルルルルル
 ガチャ
『もしもし』
「西野さん?」
『え、ええ、そうですが』
「おたくの娘さんを預かっている」
『な、なんですって』
「居場所が知りたければ、今すぐ身代金を準備しろ」
『い、いくらですか?』
「えっと……本体とソフト代と送料だから、44215円だ!」


この作品の率直な感想を選んでください。

(5段階評価 5(面白い) ← 3(普通) → 1(つまらない))
5  4  3  2  

感想があればよろしくお願いします。

よろしければお名前とメールアドレスを教えて下さい。(省略可)

    お名前: 
メールアドレス: 

下のボタンを押してください。あとがきのページへ飛びます。