ある一族の滅亡


 西暦2478年6月。
 いくつかの星だけがきらめく夜空の下、東京で行われている全世界超能力者評議会の会場では黙祷が捧げられていた。
 やがて、黙祷は終わり会場には重い沈黙が広がる。
 その沈黙が耐えられないのか、ある男が話しはじめた。
「我が同士を失ってしまったことは非常に悲しむべきことではあるが、この評議会場で黙祷を捧げるほどの人物ではなかったのではないか?」
 評議会一のサイコキネシストであるこの男の一言で会場内は「そうだそうだ」といった賛同の声であふれはじめる。
「まあ、私はそれ以前にあの一族を同士とは思ったこともないが」
 まだ20代半ばのその男は吐き捨てるかのように言う。
「口を謹み給え。君はあの一族が如何にすごい男であったかを知らぬようじゃな」
 議長である老人のその言葉は静かな口調の中にも凄味をにじませていた。その凄味に押されてか会場内に静けさが戻る。
 しかし男は違った。今まで溜りに溜まっていたものを吐き出したのである。
「議長!お言葉を返すようで恐縮ですが、あの一族のどこが一体すごいと申されるのですか?今まで不思議に思っていましたがいい機会です。我々に納得出来るようお話ししていただきたい!」
 会場内は再び賛同の声で沸き上がる。

 超能力者表議会はその名の通り超能力者だけで構成される会である。主に世界に起こる人災、天災などのトラブルを未然に防いだり、起きてしまった災害の被害を抑えるなどの活動をしている。その評議会の中枢を担う代表者は現在12人。そのほとんどが20代から30代の若い世代である。遺伝子工学の発達から優秀な超能力者を産むことが出来るようになったのはここ100年ほどである。特に若い世代ほど超能力の力も強く、必然的に代表者イコール能力の強いといった図式が成り立つようになっていた。ちなみにこの評議会が生まれた20世紀末にはたった2人しか超能力者が存在しなかった。評議会の創立者でもあるその2人のうちの1人が今ここで議長を務める男の子孫であり、もう1人が今回黙祷を捧げられた男の一族である。
 亡くなった男の一族の超能力は「時間停止」であった。この力の持ち主は後にも先にもこの一族だけである。ちなみに時間を扱うという超能力の中でも特殊な力は現在の科学力を持ってしても作り出すことが出来ていない。しかし、技が技だけに実際にその目で時間を止めたところを見たものは誰一人としていない。おまけに男の一族は誰もが椅子に座り1日を過ごしているだけであった。その姿は何かしら世界のためにしているようには見えなかったのである。となれば今議長を糾弾している男のように不満を持つ男が出てくるのも当然であろう。

 会場の騒然とした態度に議長は仕方ないといった表情でゆっくりと口を開いた。
「分かった。あの一族が滅んでしまった以上、話せねばならないのは仕方の無いこと。まず、彼らは君らも知っておるとおり時を止めるという超能力を持っておった。普通だと君らは時を止めるイコール自分以外のものを全て止めてしまうというイメージがあるかもしれん。しかし彼らのそれは違うのだ」
 会場内には静けさが戻り議長の深く静かな声だけが響く。
「彼らが止めていたのはある決められた場所の時だけだ。それ以外のものを止めることは一切しなかった。分かるだろうか?実はあの一族が滅びるまでの間、ある場所の時は止まっていたのだ」
 会場全体が息を飲んだ。
「で、議長。その時を止められた空間とは?」
「宇宙だ」
 議長の意外な答えに会場は再びざわめき出す。
「この宇宙の中で時を刻んでいたのは地球だけだったのだ」
「そんな馬鹿な!」
「馬鹿な話ではない。事実、月は1年に1度しか見れなくなったであろう!」
 そうなのである。超能力者評議会が生まれた直後から月が1年に1度、それも地球の半分の地域でしか見られなくなったのだ。天文学者はこぞって天変地異の前触れと恐れたがそれから数百年、大きな事故などは一切起きていない。その為今ではそれが当たり前のように変わっていたのだ。
「しかし、その月ももう見れなくなることだろう。再び宇宙に時間が流れはじめた以上地球の引力を失った月はただ広い宇宙をさまようだけ」
 会場に信じられないといった空気が広がる。だが、誰一人としてそれを否定出来るものはいなかった。
「では、一体何の為に……」
「彼が宇宙の時を止めたのはちょうど今から地球時間で言うところの479年前のことだ。宇宙に起こりつつある異変に気が付いたのは当時唯一の超能力者だった我ら2人だけだった」
「その異変とは?」
「太陽の終わりだ」
「そんな馬鹿な!太陽の寿命はまだ何千年とあるはずだ」
「それは浅はかな人間の決めたことだ。間違いなく太陽には寿命が来ていた。それに気付いた彼はいちはやく宇宙の時を止めた。そして、早く宇宙開発が進みこの太陽系を脱出出来るようにしたのだ。しかし、皆も知っているとおり宇宙への旅立ちはまだまだといったところが現状である。間に合わなかったのだ……」
「その太陽の終わりは一体いつなのですか?」
 代表者中最年少である男が震えながら聞く。
「今からほぼ1ヶ月後。宇宙時間1999年7月だ」


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