引き抜き |
「何度も言っております通り、私はこの会社に全てを捧げてきました。ですから、こんな引き抜き話を持ち掛けられても、受ける気は毛頭ない!」 握り締めた拳が喫茶店のテーブルに叩きつけられる。 その音に回りの客が驚き、喫茶店に一瞬の静寂が訪れる。 「まあまあ、そんな感情的にならないで。これほど申し上げてもだめなのでしたら、私の方にも考えがありますので。では」 黒いスーツに身を包んだ男はそう告げると喫茶店の伝票を持って席を立った。 「冗談じゃない……あの会社に私は必要なんだ……」 数日後、私は社長からの呼び出しを受けた。 「あれだけ、自主退職を拒んでいた男だったのに……いつもながら見事なもんだね」 |