かれこれ3時間は経っている。 しかし、列に動き出す気配はない。
僕はに列に並ばなければよかったと悔やんでいた。
後ろを見るとこれまた結構な人数が僕の後ろについて並んでいる。
ここまで並んでいる以上今更やめるのももったいなかった。
他の人たちは僕と違ってきょろきょろすることもなく、ただじっと待っている。
ただ並ぶ前に何の行列かぐらいは確認しておけばよかったなと今日何度めかの後悔をする。
僕は気が弱い人間だ。
ただ前の人に「これは何で並んでいるんですか?」と聞けば済むことなのに、その一言が言い出せない。
おまけにもし聞いて「アンタ、何も知らないで並んでるの?!」なんて馬鹿にされるのはもっと嫌なのだ。
僕は気が弱い以上に見栄っ張りだった。
更に1時間が経った。
あいかわらず一歩も列が動くことはない。
空には夕闇が迫ってきていた。
僕は無性にトイレに行きたくなった。
でも、トイレに行っているうちに列が動き出したら、と考えているととてもトイレになど行けなかった。
更に1時間が経った。
辺りは既に暗くなっている。
もう列の最後尾も僕からは見ることが出来なくなっていた。
列はやはり動かない。
ただ、それ以上に並んでいるほかの人も動かない。
みんな待つのに慣れているのだろうか?
その忍耐力に僕はただ感心するばかりだった。
もう何時間ぐらい経ったのだろうか。
既に街に明りらしき物は見えない。
完全なる深夜である。
その時、突然列の流れが動きはじめた。
といっても、僕が気付いたのではなく後ろにいた人が僕を押したためだ。
慌てて前に続いて歩きだす。
列は途中、数分ほど止まっては歩くという機械的なリズムを刻んでいく。
もう1キロ近くは歩いただろうか。
やがて大きな建物、といってもシルエットしか見えないのだが、そこに皆に続いて入っていく。
そして何やら部屋の中へと入っていく。
部屋の中は油臭く、あまりのひどい臭いに鼻を曲げた。
僕が部屋に入っても列の流れは止まらず、続々と人々が部屋に入ってくる。
大して広くはない部屋に朝のラッシュ時の電車の如く人々が詰め込まれたところで扉がしまった。
もう僕は膝を曲げることさえ出来ない。
一体この部屋では何が行われるというのだろう。
途端部屋中で耳をつんざくような電子音が響き渡った。
そして回りの人々の目から精気が消えていった。
僕は思い出した。
今日は5年に1回のアンドロイドの集団破棄日だ。
政府はアンドロイドの需要とともに飛躍的に増えた個人や企業が行うアンドロイドの無差別破棄を防止するためアンドロイドの破棄は国が指定する日、場所で行わないと厳罰に処すという法を発表した。
それ以後、故障したりして不要となったアンドロイドは国が指定する破棄日にある場所へ自動的に向かうようプログラムをすることが義務付けられたのだ。
あの列はそれを待つアンドロイドの列。
そしてここはそのアンドロイドを破棄する場所。
冗談じゃない。
俺はこんな所でアンドロイドと共に死にたくはない。
そうだ、助けを求めれば大丈夫。
助けを求めるただそれだけだ。
そう、ただそれだけ。
それだけ……
…………
…………
僕は人間のくせにアンドロイドの破棄の列に並んだなんて言えなかった……