「なんだ、随分寒いな」
 下界に下りた五蔵の周囲には歓喜にむせぶ羽虫ではなく、細かい雪が舞っていた。
 下界が冬だとは知らなかった。こんなことなら僧衣の上からダウンジャケットを着てくるんだった。
「法師様が寒いなどと情けないですな。心頭滅却すれば火もまた涼しではないのですか?」
 うっすらと雪の積もった荒野を素足で歩きながら九戒が茶化した。
 五蔵は馬に乗り、その馬を九戒が引いている。
 だいたい三蔵法師の居場所がGPSで分かっているのならその場に下ろしてくれればいいものを
こんな何もない荒野におろすなんて、お釈迦様は何を考えているのだろう。
 不審に思った五蔵は渡されたGPSのスイッチを入れてみた。
 てっきり地図が現れて、三蔵法師の居場所が点滅する点で現されるものと思っていたら、そこに
浮かび上がってきたのは磁石のような指針だけだった。
 矢印が岩山のほうを向いているだけだ。
「なんだこれ。GPSなんて嘘じゃないか。これじゃただの磁石と変わりない」
 あきれる五蔵の声に、九戒もそれを覗き込む。
「本当ですな。でもまあお釈迦様は最初に三蔵様が行方不明だとおっしゃってましたし、そんなもの
でも何もないよりマシでしょう、では、矢印の方向に進みましょうか」
 落胆する五蔵を元気づけてくれる九戒に、五蔵は微笑んでひとつうなずいた。
「これも修行のうちでしょう。九戒、行きましょうか」

 雪が降り続ける中を進んでいると、身体がすっかり冷え切って五蔵はたまらなくなってきた。
 歩いて身体を動かしているだけ九戒の方が身体が温まっているに違いない。
「おい、馬に乗ってじっとしていては凍えてしまう。ちょっと降りるから手をかしておくれ」
 やはり念じただけで寒さがなくなるわけはない。もしそうなら暖房器具を造っている会社は全部つ
ぶれてしまうではないか。
 しょうがないなあと投げやりに言いながらも九戒は五蔵が降りるのを手伝ってくれた。
 しかし抱きかかえられたまま一向におろしてくれない。
「うーん、やはり五蔵様はいい匂いだ。それにお尻も柔らかでいかにも美味しそうですな」
「馬鹿、離せ。あん」
 快楽のつぼを心得ているのか九戒に刺激されて五蔵はつい声を上げてしまった。
「風が強くなってきましたよ。嵐になりそうだ。遭難してはまずいですからひとまずあそこの洞穴に
避難いたしましょう」 
 快感で力が抜けてしまった五蔵は九戒の肩に背負われ、岩壁に開いた洞窟にそのまま運ばれた。
 洞窟の中は薄暗いが気温は外と比べて段違いに暖かだった。
「この洞窟、結構奥が深いようですな。それになにやら硫黄の匂いがする」
 まだ五蔵を背負ったままの九戒は力の抜けた五蔵の衣の中に手を入れて下腹部をまさぐりながら
言った。
 うっ、くっ、とつぶやく五蔵の横で馬は無関心にそっぽを向いている。馬も入れるくらいに広い洞
穴なのだった。
「馬鹿、そんなところに指を入れないで。汚いじゃないの」
 五蔵はつい女言葉になってしまう。
「五蔵様のなら全然汚いとは思いませぬよ。それに、法師様は手洗いになど行かれぬのでしょう?」
 五蔵の言葉なんか素知らぬ顔で九戒はさらに太いひとさし指を奥までねじ込む。
「ああ。いやん。ちょっと待って」
 五蔵の様子が抵抗とは違っていたからか、九戒はひとまず五蔵を地面に下ろした。
 五蔵は降り立つと、下腹部の辺りを右手のひらで数回なでるようにした。
「これでお腹の中はすっきりしました」
「ほお。さすがは難関を突破して来た法師さまだけありますな。それで浣腸の代わりになるわけです
か」
 九戒の露骨な物言いに五蔵は眉をひそめる。
「でもこれ以上はだめですよ。そんなことよりこの奥が気がかりです。もしかしたら三蔵様のてがか
りがあるかもしれません。GPSの針が洞窟の奥に向いているのですから」 
 その通りGPSの赤い指針は洞窟の奥をぴたりとさしていた。

 奥に進むにつれて少し狭くなってきたが、まだ馬も通れるくらいの穴だ。
「なんだか某オンラインゲームの洞窟みたいな感じだね。ミミズの化け物がにょっきり出てきそうだ」
「法師様でもゲームしたりするのですか?」
「そりゃまあ、たまには息抜き必要だからね。それに下界の衆とパーティー組んだりチャットで話し
たりするのは楽しいよ」
「キャラクターはきっと猫娘なんでしょうね。五蔵様の場合」
「どうして分かるのさ」
「いたずら娘っぽい感じがそっくりですからな」
 
 真っ暗な中を進むために、九戒が眼を輝かせて周囲を照らしていた。
 エッチなこと以外にも案外役に立つ奴だ。次第に九戒に好意を感じている自分を、認めたくないが、
やはり本心は偽ることはできなかった。
「硫黄の匂いがきつくなってきましたな。おお、あそこを見て下さい、湯が湧き出ています」
 本当だ。岩壁から湯気をたてながら白く濁った湯が流れ出てくぼみに溜まっていた。
「温泉みたいだね」
「丁度良い。一風呂浴びて温まっていきましょう。ほら五蔵様も脱いで脱いで」
 温度も丁度よいですぞとすでに全裸になった九戒が湯に手を浸しながら言った。
 背中にもふさふさと体毛が生えていて毛深い大男のがっしりした体躯に、五蔵はくらくらきてしま
う。
 岩のくぼみも二人でつかるのに適当な大きさだ。
「うーん。まあ先を急ぐ必要もないからいいか。でもこっち見ないでよ」
 五蔵は九戒に背中を向けて法衣を脱ぎ始めた。
 その姿を明々と明かりが照らしている。
「見ないでって言ってるじゃないか。光でおまえの見ているのは分かってるんだから、向こうを向い
ていてよ」
「そんな事言わなくてもよいではないですか。男同士なんだし、別に恥ずかしいことはないでしょう」
 九戒の視線はかまわず五蔵を照らしている。
 五蔵は諦めて下着も脱ぎおろした。
「おお、ゆで卵が二つ並んだようなかわいいお尻ですな。瞑想の中と寸分たがわない」
「やっぱりおまえだったんだな」
 思わず身体ごと振り向いた五蔵の股間に眼を向けて、九戒は笑い声を上げた。
「おちんちんは幼稚園児並ですな。いやかわいい」
 羞恥に言葉も出ない五蔵は急いで九戒の入っている湯に飛び込んだ。

「法師になると欲望を捨てるために睾丸の機能を削除するんだ。基本中の基本の技だよ。そうすると
特に若いうちに法師になった者は、そこの発育がなくなってしまうんだ」
 しばらく湯につかって気持ちが落ち着いた五蔵がポツリポツリと語った。
「それだけではないでしょう。胸は少女のように微かにですが柔らかなふくらみがありますよ」
 そう言う九戒に、後ろから五蔵は抱きしめられた。 
「こ、これは個人の趣味というか。気持ちの問題です」
「五蔵様は女人に同化したい願望があるようですな」
「お釈迦様には黙っていてね」
「もう気づいてると思いますが、何も言われないのなら容認されているのでは? 女人の気持ちを知
る上でも同化するのは悪い方法とは思えませんし」
「だといいのですけど」
 
 九戒の手がまた五蔵の尻に伸びてきた。今度は五蔵も抵抗しないで腰を浮かせてされるままになっ
た。
 尻の中心をさぐって、指がぐいぐい入ってくる。五蔵は力を緩めて九戒を受け入れた。
 湯の成分にとろみがあるのか、かなり太い九戒の指がたいした痛みも伴わずに侵入してくる。
「ああ、九戒、ゆっくり入れて……」
 五蔵はすっかり快楽のとりことなって九戒に向かって尻を向けた。
 白い湯船から形のいい五蔵の双丘が浮き上がってくる。
 その真ん中のすぼまりには九戒の太い指が根元まで押し込まれていた。
 五蔵の尻の中で、その指は腹側にある前立腺を刺激している。
 前立腺は男の快感のツボである。そこを刺激するだけでも射精に導くことができるほどだ。
 あ、あー。洞窟のなかでエコーがかかった五蔵の声が搾り出されるように響く。
 ずるりと太い指が出て行く。入ってきたときよりも五蔵は感じてしまった。
「では、本番行きますよ」
 振り向く五蔵を、紫色に艶光る九戒の凶暴な亀が睨みつける。
 五蔵は眼をつぶってさらに尻を突き出した。
 指よりも太く弾力のある温かい棒が尻の穴をどんどん押し広げてきた。
 もう限界。痛い。
 腰が逃げるが九戒の太い腕に腰骨をつかまれて、ぐいと引き寄せられた。
 裂ける! 強烈な痛みについ力を入れてしまうが、そうするとさらに痛みは増すのだ。
「大丈夫です。力を抜いて、息を吐いて、そう、息をゆっくり吸ってゆっくり吐いてください」
 九戒のいうとおりにする。
 すると、息を吸うときは九戒の動きが止まり、はく時にずいと入ってくるのだった。
 それを繰り返すうちにとうとう根元まで九戒のを入れ込まれてしまった。
 痛みはジーンと続いていたが、しばらくすると嘘のように消えていった。
「もう大丈夫のようですな」
 九戒の腰の動きがだんだんと活発になってきた。
 ぐんぐんと尻を貫かれるのが次第に気持ちよくなってくる。
 五蔵は任務のことも忘れて快楽の極みに達することに没頭した。
 女のように犯されるのは最高の快楽だった。
 抵抗するのもむなしい強い男にはわされて尻を向けさせられる。
 そして男の欲望を一身に受け止めて体内に発射されるのだ。
 もっときて。たくさん犯して。
 五蔵は薄れていく意識の中でそう叫んでいた。


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