星の雨降る夜



 
 付き合い始めて四年になる彼女とは、最近会っていてもあまり話が弾まなくなっていた。
 そんな僕らが獅子座流星群の降ってくる夜に到着したのは、山の中腹にあるパーキング。
 午前一時になっていた。街の灯りからも遠く、星を見るにはいい場所だ。
 そこには先客の車が一台いるだけだった。

 外の空気を吸いたいと言った彼女の寒そうに震えている肩を僕はそっと抱き寄せる。
「寒いだろ、車に戻ろうよ」
 僕の声に答えたのは男の声だった。
「車は車でもこっちの車に乗ってもらおうか」
 振り向くと背の高いがっしりした男が二人立っていた。
 突然の事にどうしていいかわからない僕から、男達が彼女をひきはがした。
 手を離せ、と叫んだつもりだったけど、かすれた喉がきしむような音をたてただけだっ
た。
 別の男の張り手が飛んできて僕は地面に倒れた。
 跪いて見上げると、悲鳴を上げる彼女がワンボックスカーに引っ張り込まれようとして
いた。僕は夢中で立ち上がり彼らに殴りかかる。
 
「痛くない?」
 濡らしたハンカチを僕の頬に当てながら彼女が聞いてきた。
 さっきの事から一時間が過ぎている。僕なんかが三人の不良を追っ払えたことは不思議
だったけど、火事場の何とやらで案外迫力があったのかもしれない。
 今まで彼女の事をあまり深く考えた事がなかった僕だけど、あんな事があってから、や
っぱりこの娘は僕の一番大事な人だと再認識できた。
 いつも傍に居てくれるのがあたりまえのように思ってしまっていたのかもしれない。
 それが失われそうになって初めてその人の大事さがわかってくるというのか……。

 シートを倒して横になった僕らの前では、傾斜した車のフロントガラス越しに数十年ぶ
りという天空のショーが始まった。
 空が水色に染まるくらいに大きな流星がいくつもいくつも現れては消えていく。
「願い事は何にするの?」
 ようやく彼女が聞いてきた。
 僕はじらすように一呼吸おいてから言った。
「キミと結婚できますように。いい子供が生まれますように。もう一つ、キミも同じ願い
事をしますように、だよ」
 僕の言葉のあと、彼女はうれしいと一言だけつぶやいた。
 そうして、いじらしい彼女の計画は完璧に終了した。

 星を見ようと言い出したのは彼女だったし、この場所を指定したのも彼女だった。
 そしてさっきの不良の一人。どこかで見覚えのある顔だったが、今思い出した。
 以前見せてもらった彼女の卒業アルバムの片隅で笑っていた顔だったのだ。
 煮え切らない僕の背中を一押ししたかったのだろう。
 そうまでして僕と一緒になりたいというのなら僕も決心しよう。

 でも、言ってやるからな。次に流星群が来るのは何十年後か知らないけど、また二人で
見ることになるだろう。その時に。
「そういえば前回見た時のキミの願い事だけど、本当は『この計画がばれませんように』
だったんだろう」ってね。


               おわり