ハッピーエンドでは終われない

城谷詠人
 
 
三章 別離

 12


 

 寝室に行くと、響子が自分のベッドに腰掛けて待っていた。
「明日早いんだけどな……」
 虚しい最後の抵抗だ。
「わかってるって。じゃあ仰向けになって。あ、足側を頭にしてね」
 言われたとおりに寝ころぶ。
 こうなったら、まな板の上の鯉だ。

 響子は僕の頭側にくると、肩をマッサージし始めた。
 指がぐっと入るごとに、痛みにも似た快感が湧き上がる。
 凝った身体というのは、快感の温泉みたいだ。
 ちょっと掘る度に、快楽の泉が沸きだしてくる。
 
「今度は足のほう行くよ」
 ベッドにあがると響子は僕の右横にきた。
 膝の皿を揺するように動かしたあと、太ももの筋肉をほぐし始めた。
 
 その手が時折僕の股間に当たる。
 偶然とは思えない。
 ちらちらと触るその手は、次の瞬間優しく僕のものをつかんできた。

「なんだよ、変なところ触るなよ」
 つい言葉がでてしまった。
 一切無視した方がいいと思っていたのに。
「バイアグラ飲まないといけないのかな」
 響子の手には少し力が入る。
 ずきんとくる、女は一生知ることのない痛みが走る。
 僕はたまらず身体を丸めてその手から逃れた。
「なに言ってるんだ?」
「だって、この頃ナオクンちっともしたそうじゃないしさ。立たなくなったのかと思って」
 ナオクンという呼び方で呼ばれるのは、新婚以来だ。
「冗談だろ。こっちが誘ってるのに君がずっと拒否していたんじゃないか」
「そんなこと無いよ。私は待ってたのよ」
 嘘をつくなと叫ぶ代わりに、僕は響子の胸に手を伸ばした。
 以前より少し弾力がなくなったかな。ふっくらとした乳房の感触は、それでも懐かしいものだった。
 うんっというと響子は、そのままベッドに倒れ込んだ。 

 頭がカッと熱くなっていた。
 うまくできるかも知れないとかは考えていなかった。
 考えずに行動したことがかえって良かったのだろう。

 響子のティーシャツをずりあげてその中に右手を滑り込ませた。
 滑らかな肌は相変わらずだ。
 暖房を入れているとはいえ、響子はかすかに胸元に汗をかいていた。
 電気消してという言葉を無視して、そのまま響子のパジャマを脱がせにかかる。
 響子は腰を浮かせて、ズボンを脱がせるのに協力してきた。
 下着も同時に足から抜いた。
 少し肉付きが良くなったみたいだ。 僕は響子の乳首を口に含み、舌で転がした。
 か細く泣くような響子の声がした。 片足を自分の足で止めておいて、右手で反対の足を大きく広
げる。
「恥ずかしいよ」 
 明るい部屋の中で下半身裸で股を大きく広げられた女の姿は、久しく感じなかった女性に対する欲
望を、僕に呼び起こした。
 羞恥の中に居ながらでも乳房の刺激で快感を感じている響子は、全く抵抗するそぶりはなかった。
 
 右手をはなしても足を閉じない。
 その右手を、今度は一番感じる場所に持って行った。
 そこは既に床上浸水状態だった。 本当に久しぶりの感触だ。
 ぬるぬるした肉の割れ目に、中指がするりと入っていく。
 うんっというかわいい声がした。
 口の中の乳首も心持ち固くなってきた。
 そして僕自身の股間も、男らしさを露わにし始めている。
 心配して損したな……。
 僕が自分のパジャマを脱ぐと、響子は起きあがって僕の股間に顔を寄せてくる。
 仰向けになった僕の股間のものを、彼女の口が愛撫し始めた。
 口に含まれた僕のものが舌で舐めあげられる。
 
 こんな事自分からしたことは数えるくらいしかなかったのに。
 でもやっぱりテクニック的には下手くそだ。
 荒木さんや片岡さんのテクニックには全く及ばない。
 しかし、僕を喜ばそうと、慣れないことを懸命にやっている響子に、胸が熱くなる。
 僕のものはエネルギー充填百パーセント。
 痛いくらいに張りつめてきた。
 響子の身体に覆い被さるようにして、股間をあわせる。
 きつく勃起したベニスとじっくり塗れた女の泉は、しばらく行き別れしていた恋人同士のように激しく
お互いを求め合っていた。
 先端をあわせると、吸い込まれる様に滑らかに僕のものは響子の中に入り込んだ。
 小さくあえぐ声が聞こえた。
 じんわりと腰を動かしていく。
 このまえは僕は入れられる側だった。
 こうして腰を入れているのは荒木さんだった。
 自分が荒木さんになって、僕自身を見下ろしている気分だ。
 荒木さんはどんな風に僕を抱いただろうか。
 僕は、荒木さんがしたように、腰を使いながら響子のわき腹のあたりを撫でてやった。
 わき腹の愛撫……、されたときはすごく気持ちよかったのだ。
 僕の腰の動きにあわせて響子のうめき声が上がる。
 僕自身はというと、それ程感じてなかった。
 やはり男を知ったことで、普通のセックスに対する興奮は小さくなってしまったようだ。
 でもそれはいいことだったかも知れない。
 挿入したら五分も持たなかった自分が、すでにその倍の時間をこうしていられるのだから。

「気持ちいい。行きそう……」 
 響子がこんな事言うのも初めてだ。
 少し腰の動きを激しくする。
 ああ、だめ。いっちゃうよ。
 響子の身体が伸び上がるようにして硬直すると、一度ビクンと跳ねた。

 釣り上げられた魚のようだった。




 つづく