調教倶楽部


 
 


 耕平が部屋から去った後、泣きじゃくっていた彼の姿から、古い記憶が呼び覚まされた。
 コーヒーを入れて、それを飲みながら、私は古い記憶を反芻してみる。
 多分私のS性が目覚めた事件だった。
 小学校の高学年の頃だったと思う。。

 小学生の頃は小柄な男の子より大柄な女の子の方が体格も良くて力も強いことが多い。
 私は中くらいだったから、私よりも弱い男の子はほとんどいなかったけど、私の友達の
沙耶子は、がっしりした男勝りの女の子だった。
 ある日、いつも掃除をサボる男の子が、注意した沙耶子に食って掛かった。

「うるせーな。掃除なんて女のすることだろ。かまうなよ」
 十センチくらい背の高い沙耶子に対して、懸命に胸を張ってその子が威嚇する。
 他の男の子たちもよってきて面白そうに見物しだした。
 私は少し離れた位置で成り行きを見守っていた。
 もし喧嘩になったら、男の子達止めてくれるのかな、と少し不安だけど自分で中に入っ
ていく勇気は無かったのだ。

「いい加減にしなさいよ。掃除しないんだったら廊下にでも出てて、邪魔だから」
 けんか腰の男子に臆することも無く余裕たっぷりの沙耶子に、その子はついに切れたみ
たい。
 ざけんなと叫んで沙耶子の胸倉をつかんだ。
 いや、つかもうとしたけど、その手を沙耶子にねじ上げられていた。
 すばやくその子の後ろに回った沙耶子。
 苦痛に顔をゆがめるだけで、声も出ない男子。
「泣かしてやろうか?」
 その頃の私にとっては信じられない言葉を沙耶子がこぼした。
 おーと言う声が周りの男子から起きる。負けるな佐藤、という声も。
 そうだ、その子の名前は佐藤君だった。
 ギャラリーの声援を受けて引き下がれるわけにいかなくなった佐藤君は、身体ごと沙耶
子にぶつかって手をはずそうとした。
 それを軽くいなして向き合った沙耶子が、右手で佐藤君にビンタした。
 鋭い打撃音が教室中に響く。
 顔を怒りか羞恥かで真っ赤にした佐藤君は、頭から沙耶子に突っかかっていった。
 掃除のために机を下げた教室は、もはや二人の戦場だった。
 佐藤君を避けて足を引っ掛ける沙耶子。
 佐藤君は見事に転がって床で前転した。
 その佐藤君が起き上がる前に、沙耶子はどっしり馬乗りになった。
 お腹に体重をかけられて身動き取れない佐藤君は、手足をばたばたさせる。
 ひっくり返った亀みたいだった。
 そんな佐藤君の頬にさらにビンタを打ち下ろす沙耶子。
 避けようとした彼の両手は、沙耶子の左手で握られて胸に押し付けられる。
 完全に無防備になった佐藤君の頬を、さらに沙耶子の平手が襲い掛かる。
 その辺りからギャラリーの様子が変わってきた。

 見守っていた男の子達は始めは面白い余興と思っていたみたいだけど、だんだん悲惨な
光景に思えてきたんだろう。熱気が冷めていくのが分かった。
 でもそんな中にも、食い入るようにそれを見つめる目がいくつかあったことは確かだ。
 そんな子達は多分自分がそんなふうにされることを想像して興奮していたのに違いない。
 自分では意識していなくても。

「ほら。謝んなさいよ。謝るまで叩くよ」
 沙耶子がさらに佐藤君の頬を掌で叩いた。
 何度目の打撃音か分からなくなってきた。
「止めろ。ぶっ殺すぞ」
 佐藤君は最後の強がりを叫んでる。
「その辺で止めろよ」
 ギャラリーの中から声が漏れるけど、積極的に割って入る男の子はいなかった。
 その先にあるラストシーンに期待感をもっているみたいだった。
「できるもんならやってみなさいよ。もっと酷い事されたいわけ」
 沙耶子の言葉はビンタよりもきつかったんじゃないかしら。
 振り上げた掌が拳になり、今にも打ち下ろされそうとしたときに、とうとう佐藤君がご
めんと叫んだ。
 周囲に安堵のため息が漏れる。
 張り詰めていた緊張感が緩和された一瞬だった。

 でも事はそれで終わらなかった。
 馬乗りになっていた沙耶子が立ち上がると、佐藤君はすばやく起き上がって後ろ向きの
沙耶子に殴りかかった。
 羞恥と怒りに完全にプッツンしていたのだ。
 それを予期していたのか、沙耶子は殴りかかる佐藤君の手をとって柔道の技で床に叩き
つけた。
 後で聞いたことだけど、沙耶子は警察官の父親から、護身術として柔道を仕込まれてい
たらしい。道場にも何度も連れて行かれてしごかれたといっていた。
 何が起こったのかわからず床に寝転んでいた佐藤君の首に、沙耶子の太い足が絡まった。
 パンツがスカートの中から見えるのもかまわず、股の間に佐藤君の頭を挟んでいるのは、
見てるほうが恥ずかしかった。
 うげっと言う佐藤君の声が漏れる。
 沙耶子が佐藤君の頭を軽く持ち上げるようにすると、頚動脈を圧迫された佐藤君の力が
徐々に消えていく。
 暴れれば暴れるだけ首に巻きついた足がしまっていく。
 一分もしないうちに佐藤君はがっくりと気絶してしまった。
 柔道で言う落ちた状態だった。半ズボンをはいた佐藤君の股間が、見る見るうちに濡れ
ていく。
 おしっこを漏らしてしまったのだ。
 技をといて離れた沙耶子が頃合を見てビンタすると、うつろな目を開いた佐藤君が寝た
ままで周囲を見回していた。
 そしてだんだん状況がわかってきたのか、その目から大粒の涙がこぼれだした。
 やりすぎだよ。という声が男の子の中から聞こえたけど、掃除サボるのが悪いんでしょ
という女の子の擁護の声が、すぐに答える。
 声を上げて泣きじゃくる佐藤君には男のプライドというのが完全に崩壊してるのを感じ
た。
 私はそれを見ていて胸が熱くなるのを感じていた。
 股の間がなんとなく湿っているのも感じた。パンツが濡れて冷たかった。
 私もあんなふうに生意気な男子を痛めつけてみたい。
 弱くて、どっちかというと男子にいじめられていた私にとって、その事件は私の人生観を
すっかり変えてしまったといってもいいだろう。
 



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