葵桜団の敗北

2-4

「助けてくれーなんでも言うよ。許してください」
 口が利けるようになった彼は大声で叫んだ。この機会を逃したらまた延々と地獄がづづ
くと思ってるんだろう。
「それで、何を教えてくれるの」
 彼の宙に浮いた腹に座って、郁子が問い掛ける。
「ホモ狩りしていたのは、小坂って言う不良をリーダーにしたグループなんだ。俺はたま
にパシリをさせられるだけで、ホモ狩りには参加してないんだ」
「それで、その連中の溜まり場は?」
「よく国道沿いのレインマンっていう喫茶店にいるけど」
「学校はあんたと同じ高校なの?」
「ああ、あいつは三年四組だよ。不良の溜まり場だ」
 さて、これで情報収集は完了だ。
「じゃあ約束どおりあんたを解放してやるけど、今のが嘘だったり、ちくって裏切ったり
したら、今のがすんごく楽だったって位のお仕置きが待ってるから忘れないようにね」
 あたしは彼の目を睨んで念を押すと、右京に解くように指示した。
 郁子と深雪はまだ物足りなさそうだったけど、今日のところはここまでだ。
 まだ大仕事が待ってるんだから。

 レインマンという喫茶店は隣町の国道沿いにあるマンションの一階の小ぢんまりとした
店だった。あまり不良の溜まり場には見えない。
 あたし達がよくいく『赤いジャングル』と比べたらごく普通の外見だ。
「さて、いきなり五人で乗り込むのはどうかな。罠がはってあるかもしれないし」
 路上に五台のスクーターを並べて、バス停の影であたし達は会議を始めた。
「誰か二人くらいで様子を見てみるのはどうですか。もしもの時も人数少ないほうが逃げ
やすいし、あと、携帯でSOSメールすぐ出せるようにしておくとか」
 郁子がサングラスを外しながら言った。
 さすがに夕暮れを過ぎた時間だとサングラスしたままでは無理があるようだ。
「しかし、人数が分断されるのも敵にとっては好都合かもしれませんよ」
 右京は心配顔で言う。はなから夕方締め上げた男がちくっていることを想定してるよう
だ。相手が何人いるのかわからないまま突撃するのはやはり無謀だろうな。
「でも、さっきから見張ってるけど客はあまり入ってるように見えないんですよね。駐車
場にも三台しか車止まってないし」
「でも三台なら最高十五人乗れるしなあ」
 深雪と夏海の意見もあまり参考にはならない。
 
「わかった。ここはあたしが行くよ。総長の責任ってもんだ。郁子の提案どおり携帯SO
Sをワンタッチで出せるようにしておくから。それと、十五分たって出てこなかったら罠
があったと思って。後は郁子に任せるよ」
 あたしは感動的な台詞を言って颯爽と仲間のもとを後にしたわけだけど、実は罠が這っ
てあるなんてほとんど思ってなかった。
 夕方いたぶった男にそんな度胸があるようには見えなかったのだ。
 あたしらの怖さをたっぷり意識下にも植え付けてやったつもりだった。
 だから店に入って、適当な席に座り、ウエイトレスに快晴高校の小坂君来てる?って聞
くだけでいいと思っていた。小坂の顔を確認したら、まずいコーヒーのいっぱいも飲んで
店を出ればいい。
 そして外で待ち伏せるのだ。
 しかし、あたしのその考えはちょっと甘かった、というのが、店の扉を入るなりわかっ
た。
 いきなり横から男が殴りかかってきたのだ。
 反射神経には自信のあるあたしも右腕でかわすのが精一杯だった。
 ずきんとした痛みが走る。戦闘用の肘と前腕をガードするラバープラスティックをして
いなかったら簡単に骨が折れていただろう。
 特殊警棒の二撃目をかわして、その男の股間を蹴り上げた。男がおうっと声を上げて前
かがみに崩れる。
 すぐに次の男がナイフを突き出してきた。
 まったく人殺しになりたいのかよ。不良にしても限度があるだろ。
 ナイフを叩き落してジャンプ一番その男の顎を膝で割ってやった。男がひっくり返って、
テーブルのコップが派手な音を立てて割れた。
「お見事だねえ。さすが葵桜団総長だけあるぜ」
 奥のボックス席であぐらを組んでいる男はタバコをくわえたまま拍手してきた。
 一般客は誰もいないようだった。全員この店の中の連中は小坂の仲間だ。
「あんたが小坂って言う悪ガキかい?」
「その通りだけど、何か文句があるのかな」
「ホモ狩りの件であんたたちに鉄槌を下しにきただけさ。そっちがこないのならこっちか
らいくよ」
「馬鹿が。女の癖に身のほど知らずって言うんだよお前みたいなのをな」
 小坂が合図すると、右から左から屈強な男達が現れた。
 出口も二人で固められた。これでは身動きができない。
 一対一の喧嘩ならよほどの男にも負けない自信があるけど、これだけの男達に一斉にか
かられては堪ったもんじゃない 。
 仕方なくポケットの中の携帯のボタンを、服越しに押した。
 右京は当てにならないけど夏海と深雪が来てくれればこの場はなんとか逃げる事ができ
るだろう。
「ほら、こないのかな。こないならこっちから行くぜ、裸にひん剥いて天上から吊るして
やるぜ」
 スキンヘッドでピアスを光らせたでかい男がのっそりと近づいてくる。
 その時、後ろのドアが開いて夏海が入ってきた。
 友軍現るだ。そして深雪と郁子も続いて入ってくる。
 でもその後が悪かった。最後に入ってきた右京の首筋には敵と思われる男のナイフがぴ
ったし張り付いていたのだ。
「たった五人で俺達に歯向かうなんてあきれた連中だぜ。おまえらが通りに来たときから
こっちはわかってたんだ」
 小坂が立ち上がった。
「場所替えだ。この店をめちゃくちゃにするのはマスターに悪いからな」
 カウンターの中のマスターを見ると、こっちを見ないようにして皿磨きの最中だった。
「これはさっきのお返しだ」
 さっきあたしに吹っ飛ばされた男からボディにきつい一発を浴びた。
 吐き気がしてあたしはその場にうずくまる。
 両腕を引っ張られてたたされた。
 店を出てぞろぞろと歩いていった先は、近くの公園だった。
 人通りの少ない裏通りに面した公園は暗くなった今の時間誰もいなかった。
「ようし。葵桜団の皆様を裸にして鉄棒にぶら下げるぜ」
 小坂の号令であたし達は服を剥ぎ取られていった。
 逆らうわけにはいかない。右京を人質に取られているのだ。
 人質の右京を除いて全員が素っ裸にされた。
 屈辱よりも怒りが勝っていて恥ずかしいなんて思わなかった。
 男が十五人もいながら人質をとって女四人を暴行しようとしているのだ。
「こいつかわいいよな。達郎が鼻の下伸ばしていくのも無理ないぜ」
 スキンヘッドの男が夏海の両足を広げさせてにやけていた。
 夏海はすでに両手首を縛られて、鉄棒にぶら下げられていた。
 深雪を見ると両手両足縛られて砂場に放置されている。
 右京を見ると、目に涙をためて惨状を見守っている。
 まだナイフは右京の首にぴったりついていた。
「いいかげん右京を開放したらどうなの。あたし達は皆縛られてるんだから。それともこ
こまでしてもだあたし達が怖いの?」
 小坂に向かって言ってやったら、お返しにベルトの鞭が背中に撃ち下ろされた。
 喧嘩なれしてるから痛みには我慢強いと自負してるあたしだけど、助かる見込みの無い
状態でのこれは結構こたえる。
 夏海と郁子は男達に足を抱えられて犯され始めていた。
 あたしには小坂が近づいてきて、ビンタを一発をされた後両足を膝でくくって、下ろせ
ないように鉄棒に縛られた。両手と両足をつられてなんとも破廉恥な格好だ。
 怒りで忘れていた羞恥心がここになって湧き上がってきてなんとも居たたまれなくなる。
 敵を甘く見すぎだった。
 もっとしっかり調査してから乗り出すべきだったんだ。総長失格だな。
「へへへ。いい格好だぜ。朝までたっぷりいたぶってやるからな。ビデオにも撮ってネッ
トで流してやる。今夜は葵桜団解散の夜だな」
 小坂の左手がズボンのチャックに伸びてずり下ろしていった。
 そしてカチカチになったペニスを引き出す。
 涙が出そうになるのを懸命にこらえる。総長としてそれだけはできない。
 開き直るしかないのだ。
 小坂の先っぽがあたしの割れ目を押し広げようとしたとき、原付スクーターの排気音が
近づいてくるのが聞こえた。
 小坂が一瞬いぶかしげに道路のほうに注意を向ける。
 あたしもそっちを見たかったけど首が回らなくて無理だった。
 排気音はまっすぐ近づいてくる。タイヤが公園の砂利道に入る音が聞こえてきた。
 その一台の後にまた数台の音が聞こえてくる。
 まぶしいヘッドライトがぐんぐん小坂に近づき突っ込んでくる。
 ブレーキをかける気配も無かった。
 小坂が身体を避けて後ろの芝生に尻餅をついた。他の男たちも何が起こったのかと、動
きを止めて注目している。
 スクーターから飛び降りて来たのは先日ホモ狩りの公園で会った高校生だった。
「助けに来ましたよ」
 彼はそう言ってあたしの縄を解こうと近寄ってきた。
 そのすぐ後に3台のスクーターが同じようにしてやってきた。
 でも四人しかいないんじゃ飛んで火にいるなんとやらだ。
「敵は十五人いるんだぞ、いいから逃げろよ馬鹿」
 小坂たちも始めの驚きが消えて威勢が戻ってきた。
「まったくだ。ついでにおまえらも袋にしてやるぜ」
 小坂がナイフを抜いた。
「僕らはホモだけど馬鹿じゃないですよ。たった四人で来るわけ無いじゃないですか」
 高校生が公園の外を指差した。
 そこにはぐるりと公園を取り囲むように屈強な男達の影が立っていた。そして輪を縮め
るようにして砂利道を踏みながらザックザックと近寄ってくる。
「携帯でホームページに書き込んだんですよ。仕返ししたいやつら集まれって。襲われる
ときは弱いけど、僕らは皆男ですよ。戦争になれば力を合わせて戦えるんです」
 小坂がナイフを捨てて降参した。他の男たちもそれに習う。
「この間はどうも」
 先日高校生の相手をしていたサラリーマンが会釈をしてきた。
「あ、あなたも来てくれたんですか。救援感謝します」
 右京が握手しながらはしゃいでる。
 公園の周りには百人位男が集まっていた。その半分くらいはバットとかの武器を携えて
いる。
 完全に形勢は逆転した。不良高校生たちは土下座して皆に謝っていた。 
 しかし、散々痛めつけられたホモの皆さんの怒りが収まるまでに、彼らは何度もオカマ
を掘られて激痛に涙を流さなければならなかった。

「ちぇ、かっこよく啖呵きった割には終わりは情けなかったな」
 あたしの言葉に高校生が首を振って言う。
「そんな事無いですよ。おかげで敵の首謀者がわかったんだし。葵桜団の人たちには皆感
謝してるんですよ。これからも悪を懲らしめてやってください」
 高校生に慰められるようじゃ総長失格かなやっぱり。

 結局、右京が高校生に事前に連絡を入れていたのだった。まさかの時のために強そうな
人を集めてくれとメールを送ったそうだ。
 敵の基地の場所と、殴りこみの日時を添えて。
 まあ、人質になった間抜けさとそれでパーパーって奴だ。
「今回はあたしらの負けだね。さて、撤収しようか」
 身づくろいをした皆に向かって言う。
「でも助けに来るのもう少し遅くてもよかったのにな」
 そんな事を言ってるのは夏海と郁子だ。Mの毛もあったのかなこいつら。
「あたしは全然ですよ。縛られてほったらかしにされてたんだから。右京が余計な事する
から……もう」
 深雪は欲求不満のようだ。
「ぐだぐだ言わないの。行くよ」
 五人で公園を後にする。
 砂利を踏んで歩くあたし達の後ろの公園内では、まだ十五人の悪党どもがホモ軍団に責め
られて苦悶のうめき声を上げていた。
 

                                             葵桜団の敗北 了





 総長 なんかすっきりしない終わり方だよね
 右京 無理やり敗北させられたって感じですよ
 夏海 だいたいラスト考えないでタイトル決めるからこんなことになるんですよね
 深雪 あたしは欲求不満足だ−
 郁子 絞めますか?
 総長 とりあえずVを書いてもらおうじゃないの、絞めるかどうかはそれ次第ね
 放射朗 え、まだ続くんですかこのシリーズ? これで終わりのつもりだったんですけど

 全員 しばかれたくなかったらさっさと書かんかい! 




 Vへつづく・・・・・・かもしれない