アダルト風呂のある旅館
 カワサキKLX250のエンジンが冷気に冷やされ金属音を発していた。
 やっと休息にありつけたと、ぼやいてるみたいだった。

 初冬の夜は始まったばかりだが、バイクのヘッドライトが消えてしまうと、旅館の
薄明かりだけでは足元もおぼつかない状態だった 。
 本当は、もっと早い時間に予定していた白子温泉に着くはずだったのだが、林道
が入り組んでいて、方向感覚には自信のある俺でも道に迷ってしまった。
 迷路のような未舗装路を散々行きつ戻りつして、やっと予定外のこの旅館にたど
り着いたのだ。

 こんな山奥に一軒家の旅館があること自体不思議な話だが、俺が気づかなかった
だけで、別の道を通れば温泉街からは案外近いのかもしれない。
 体力の限界を感じた俺は、とりあえず素泊まりでもいいからこの旅館にとまる交
渉をしてみようと思っていた。

 みすぼらしい玄関を入ると、奥の方からすぐに老婆が一人出てきた。
 素泊まりでいいんです。泊めてもらえませんか。
 そう言う俺に、老婆は歯のほとんど無さそうな口を薄く開けて、どうぞ、よくい
らっしゃいました。と、思ったより愛想よく迎えてくれた。
 簡単な料理なら出来ますが、という老婆に、いえ、もう食べてきましたからと嘘
の答えを言ったのは、老婆の気味悪さが尋常ではなく、その上目使いの目つきにも
なにやら変な色気を感じてしまったせいかもしれない。

 まあ非常用にいつも用意してある携行食品がまだ残ってるし、後は缶コーヒーで
もあれば文句は無い。

 案内された部屋は、意外にこぎれいな四畳半と六畳の和室が連なっている部屋だ
った。テレビが置いてないのは、電波が弱く、普通のアンテナではまともに映らない
からだと、老婆が言い訳していた。
 でも、お風呂はいいですよ、そこの廊下を奥まで行って階段を下りたところにあ
りますから、という老婆の顔は意味深な笑みを浮かべていた。
 
 老婆が出て行くのを待って、俺は携帯食料と缶コーヒーのわびしい夕食をとった。
 食後にタオルを一つ持って風呂に行く。
 木造の旅館の廊下は、歩くとみしみし音を立てていた。
 スリッパの音をパタパタ立てながら、薄暗い廊下を突き当りまで行くと、右手に
急な階段が下りていた。

 自分の部屋は一階だったから、風呂は地下にあるのだろうか。
 洞窟風呂でも作ってあるのかもしれない。
 
 風呂場の入り口は明るかった。
 ここは作りも新しく、随分感じが違っていた。
 男湯と、女湯。その中間にもう一つ入り口があった。アダルト風呂と書いた暖簾
が下がっていた。

 お風呂はいいですよと意味深に笑った老婆は、多分このアダルト風呂のことを言
いたかったのだろう。
 俺は躊躇する事なく真中の入り口に進んだ。細い廊下を進んで、やっと脱衣所に
着いた。誰もいない。がらんとした中で、真新しい扇風機が空しく首を振っていた。

 脱衣所は別段変わった風でもない。いくつか並んだ裸婦の彫像が普通の男湯と違
うところか。白い陶器のような彫像は実物大の大きさで、その腰の線と乳房の形は
なかなかぐっと来るところがある。
 アダルト風呂といっても、まさか生身の女性が一対一でお相手をしてくれる風呂
だとは思ってなかったが、こんな風に彫像がいくつか並んでるだけじゃ期待はずれ
だ。
 追加料金なんて払う気はないからあまりサービスが良すぎても困りものだが……。

 衣服を脱ぎ、脱衣籠に入れる。
 裸にタオル一枚持って風呂場へ続く引き戸を開けた。
 浴場も明るかったが湯気でよく見えない。
 入って左手が浴槽で、右手の洗い場は低い塀で何箇所かに仕切られていた。
 熱気が溢れている。
 浴槽に水の流れ込む音がやけに大きく聞こえていた。

 俺は浴槽のお湯を汲み下半身を洗うと、少しぬるめの浴槽につかった。
 よく見えないが、別にアダルト風呂といえるような特徴はないように思えた。
 ひょっとしたら混浴風呂という意味だったのかもしれない。
 しばらく待っていれば若い女性の集団が入ってくるのかも……。
 浴場の湯気が薄れ周囲がはっきり見え始めるとともに、そんな淡い期待もしぼん
でいった。
 やはりただの浴場じゃなかった。

 まず浴槽にお湯を流し込んでいる置物。普通はライオンの顔が口をあけていてそ
の口のなかから温泉が流れ込むようになってたりするが、ここの置物はライオンじ
ゃなくて女性の下半身だった。
 壁から開脚した女性の裸の下半身が飛び出していて、その足の間から勢い良く温
泉が流れ込んでいる。足の形もヒップの丸みも最高だった。
 俺はそれを見ただけで、股間の物が硬くなった。

 しかしなんとも下品な風呂だ。いかにも通俗的で破廉恥だ。――俺は好きだけど。
 近づいて、その模造品をなでてみた。硬くて滑らかな感触を予期していたのに、
それに反して弾力があって、本物の女性の尻を触ってるみたいに思えた。
 夢中で触り、なでまわし、もんでみた。俺の股間の物は痛いくらいになっていた。
 模造品の中央部。お湯の流れ出している足の間をよく観察してみた。
 襞の様子も本物そっくりだ。
 少し広げられた感じのその亀裂から勢いよく温泉が噴出している。
 もう少し量が少なかったら、まさしく女性が小用を足しているのにそっくりだっ
たろう。

 ぬるめの湯だと最初思ったが、だんだん熱くなってきたので俺は湯船から出た。
 洗い場の方に行くと、そこにも変な模型が並んでいた。
 低い塀で仕切られた一番右端の区画には、上体をかがめて立って尻を突き出した
感じの女性の下半身が壁から生えていた。

 スポーツをしている高校生という感じの下半身だった。
 足首が引き締まり、無駄な贅肉が少しもない。それでいて筋張ってもいない。
 ふくよかな尻。肛門と亀裂も丸見えだった。
 腰骨を抱くように立ってみると、自分のと高さがちょうどいい。
 生身の腰を抱く感じに、思わず俺は自分の物を亀裂の中に挿入してみた。
 まったく、どんな素材で出来ているのだろう。本物の女性とセックスしてる感触
と少しも違わない。大人のおもちゃの素材だろうか。

 一瞬この浴場に誰かが入ってくるような気配を感じ、股間の物を引き抜こうとし
たが、根元がきつく絞められていて簡単に引き抜けない。
 焦った俺のものは、うごめく襞の快感でさらにはちきれんばかりに膨張している。

 この模型。電動で動くようにでもなってるのだろうか。
 自分は動かずにただ立っているだけなのに、心地よい刺激が膨張した物を包み込
み、あっという間に快感の嵐に遭遇した小船のように俺は翻弄され、はちきれた。
 そっくり返った自分の背中。こんなところを他人に見られるのはさすがに恥ずか
しい。恐る恐る周囲を見回してみたが、さっきの気配は気のせいだったらしく、誰
も入ってきた様子はなかった。
 誰かに見られたのではないかという不安が解消されたのと、欲望が静まった事で、
ほっとしてしまって、俺はその場にへたり込んだ。
 見上げると形のいい尻の模型の中心から、たった今自分が噴き出した白い液体が
ゆっくりと滑り落ちてきた。
 
 確かにこれはアダルト風呂だな。
 少し感心しながら仕切りを回って隣に行って見た。
 となりは50センチほど高くなったところから、掘り下げられた風呂のようだっ
た。直径1メートルくらいの穴が開いている。
 覗いてみるとその孔の横壁に無数のいぼいぼが生えているのが見えた。
 そしていぼいぼは女性の乳房の形をしていた。
 穴に入ってみると、思ったより深くて首のところまで入ってしまった。
 乳房を触ってみるとやはり本物のような感触だ。

 つい今しがた発射したばかりで、自分の物はまだ下を向いている。
 それでもこんなことしていたらまた元気になりそうな予感がしてきた。
 何かのスイッチが入ったような音がして、その乳房から乳液が噴出してきた。
 真っ白い乳液は俺の身体にまとわりつき、柔らかい泡をたてた。
 側壁が狭まり俺の体全体を挟み込む。
 そしてそのまま回転しだした。まるで洗濯機に入ってるみたいだ。
 無数の乳房が俺の腰といわず尻といわず、あちらこちらにあたり、擦れていく。
 人間洗濯機は俺の汗で汚れた身体を舐めまわすようにして洗浄してくれた。
 穴から這い上がるのにちょっと苦労した。
 ふちが滑らかで、取っ掛かりが無かったからだ。この辺は要改良だな。

 さらに隣の区画に移ってみた。
 やっぱりここは男女混浴ではないか?目の前にある模型は今度は女性ではなかっ
た。筋肉りゅうりゅうな裸の男が両手を上げた格好で座っていた。
 閉じた足の部分が座席のようになっている。
 ここに座れという事か?でもそうすると、その模型のちょこんと突き出たペニス
が自分の肛門に当たる事になる。

 なるほど、これは女性用か、それともオカマの男性用かな。
 きれいに磨き上げられた模型は不潔な印象はまったく無い。
 ちょっとした悪戯心でその椅子に座ってみた。
 突き出たペニスは小さくて肛門に当たりはするが、深く入る心配は無い。
 でもこんなに小さいペニスじゃ、女性用にもオカマさん用にもならないのじゃな
いか。
 そんなことを思ってると、俺の体重で何かのスイッチが入ったのか、振り上げら
れた腕がするりと下りてきて、俺を後ろから抱く格好になった。
 これじゃあ立ち上がれない。
 肛門に当たっていた模型のペニスが徐々にせりあがってきた。

 ぬるぬるのその先端は俺の狭い穴をゆっくりと押し広げる。
 うわあ。なんてこった。やっぱりオカマさん用だこれは。
 立ち上がろうにも立ち上がれない。先端がぬるりと入ってきた。
 不思議と痛くは無かった。
 どこまで入ってくるのだろう。初めての異物感だ。串刺しにされる感じだ。何セ
ンチくらい入ったのだろうか。感じでは10センチ前後のようだったが。この後ど
んな事になるのか不安でたまらなくなる頃、腹の中がぬるい液で満たされる感じが
してきた。

 浣腸機なのか?自動浣腸機?
 液はどんどん注入される。大腸をまわってくるのが感じられる。
 苦しくて我慢できなくなってきたころ、やっと注入は終わった。
 今度はどうなるんだ。トイレに行きたくなるのは時間の問題だ。
 早くこの機械から脱出しなければ。
 俺はどうにかして機械から抜け出そうと知恵を絞り、運動不足で固い体をひねく
ってみた。だが、どうにも抜け出せそうにない。
 冷や汗が出てきた。

 肛門に入っていた擬似ペニスの管がゆっくりと出て行くのを感じた。
 俺は漏らさないように懸命に肛門括約筋を緊張させた。
 入ってきた時と同じように管はヌルンと抜け出ていった。
 人形の腕も離れると思っていたが、依然俺の腰をしっかり抱いたままではなしてく
れそうな感じはなかった。
 早くしてくれ。放してくれ。
 そうしている間に俺の座ってる場所が大きく割れて、俺の尻はすっぽりとその割
れた穴にはまり込んだ。
 ひょっとして、このまま排泄しろということなのか?
 この状態を客観的に見ると、まさしく洋式便器に座ってる状態なのだ。
 便意がどうしようもなくたかまってきて、俺はとうとうあきらめた。
 たまっていたいろいろな物が、誇りや羞恥心と共に俺の肛門から噴出していった。
 水洗便所の水の流れる音がして、その後細い水流が俺の肛門をきれいに洗ってく
れた。
 温風までは出なかった。ここは風呂場なんだからここで乾燥させても意味ないか
らだ。やっと変な人形から開放された。体重が一気に5キロくらい減ったような気
がする。俺は震える足でなんとか立ち上がり、振り向いて人形を見てみた。
 最初に見た人形の形そのままに、再び間抜けな男に座られるのを待っている小さ
めなペニスがちょこんと立っていた。
 
 ほっとしたら、すっかり体が冷えているのを感じ、俺は湯船に入り腰をおろした。
 熱い湯が体を包みこむ。
 しばらくすると気分がよくなってきた。
 射精もして、体の隅々まで洗ってもらい、そのうえ身体の中まできれいになった。
 体全体がリフレッシュされた感じだった。
 手足が軽く、頭もすっきりしてきた。

 こんな温泉があったなんて、世の中も広いもんだ。
 体も十分に温まり、俺は湯船から出た。
 自動浣腸人形の横にはまだ試してない洗い場が二つ並んでいる。
 見てみるだけのつもりで、そっちに行ってみた。
 これ以上試してみる気はない。ちょっと覗いてみるだけだ。
 壁に穴があいていた。暗い穴が下の方に続いている。滑り台になってるみたいだ。

 どこに通じてるんだろう。穴の上を見ると、プレートが張ってある。
 それには《天国へ》と書かれていた。
 そして隣の洗い場も同じように壁に穴があいていて、そこのプレートには《地獄
へ》と記されていた。

 もうひとつ下の階にも趣向を凝らした温泉が造ってあるのだろうか。
 もう十分楽しんだから、部屋へ帰ろうかと思っていたが、天国と地獄とくればど
うにも好奇心がうずいてくる。どちらにするか。
 俺は生まれついての天邪鬼なのだ。こういう場合はどうしても地獄を選んでしま
う。決心すると地獄のトンネルに足を入れた。
 そして体を寝かせるようにして、滑らかなそのトンネルを勢いよく滑り降りた。

 真っ暗なトンネルは一瞬にして通り過ぎた。当然だ。こんな温泉宿に、そんなに
長いトンネルが掘られるわけがない。
 下り坂の角度がゆるくなると、俺の体は水しぶきを上げて温泉の中に滑り込んだ。
 上と同じような浴槽が硫黄の匂いのするアルカリ温泉を満々と湛えて、俺を迎え
入れた。
 
「うふふ、いらっしゃーい」
 元気のいい大勢の女の声が俺を歓迎して唱和する。
 ここは女湯なのか?大勢の女たちはみんな全裸で俺を取り囲んでいる。
 唖然としてる俺の横に一番若そうな女が寄ってきた。
「あたしが最初でーす。たっぷりかわいがってあげるね」
 彼女はあたりまえのように俺の股間に手を入れてきた。
「ずいぶんサービスのいい地獄なんだな。それで、天国はどういうのだったの」
 彼女の愛撫に身を任せながら俺は聞いてみた。
「天国は村で一番の美人が一人で相手することになってるの」
 それなら大勢いるこっちの方がいいじゃないか。
 俺のそんな表情を見て、彼女は付け足した。
「ここにいる全員で一回ずつだからね。あなたもがんばってね。天国は女がサービ
スする場所だけど、ここはその反対だからね」
 反対ってどういう意味だ?
 顔をめぐらして簡単に女の数を数えてみる。二十人以上はいるみたいだった。
 ひょっとしてこの女たち全員とやらないといけないということだろうか。
 いくらなんでもそれは無理だ。
 せいぜい三人位が関の山だろう。
「全員終わるまで返さないんだからね。ここが地獄という意味がすぐにわかるわよ」
 俺の後ろで背の高い筋肉質の体をした女が怖い笑顔で見下ろしていた。

 確かにここは地獄だった。
 軽く考えていた俺が泣き出すまで、一時間もかからなかった。
 上の浴場で浣腸されていた理由も思い知らされた。
 無理やり勃起させるのにはなんといっても最高の方法だからだ、前立腺マッサー
ジというやつは。

 このときほど自分の天邪鬼さを呪ったことはなかった。
 まったく馬鹿な選択をしたものだ。
 



                        アダルト風呂のある旅館  おわり






 
 
 

 
  
放射朗