放送を語る会


「生きた言葉、放送したい」
 ~「ラジオの力」フォーラム~


「あなたはラジオを聴いてますか?」。
 ラジオの聴取者特に若年層のラジオ離れが顕著な昨今、ラジオの持つ利点や可能性を再評価しようというフォーラムが、9月1日東京で開かれた。
 
放送を語る会が開いたこの催しのテーマはずばり「ラジオの力」。
 ゲストは、NHKの関西発『ラジオ深夜便』に長年携わった元アンカーの西橋正泰さん、4年前NHKラジオに登場したニュース番組『私も一言!夕方ニュース』の元ディレクター・佐滝剛弘さん、それに東日本大震災で東北の民放ラジオ局などの実情を取材してきたジャーナリスト・小田桐誠さんの3人。
 西橋さんは、昭和という時代や戦争の時代を生き抜いてきた人びとの思いや貴重な体験を、インタビューを通してじっくり聞き、伝えることを信条として来たという。
 長崎の原爆の犠牲者や戦没画学生の遺族などの数多くの苦難の歴史の重みが、多くの「深夜便」ファンの心に響いたことだろう。
 また佐滝さんは、これまで放送局が取材して一方通行で放送してきたニュースのスタイルや伝え方に疑問を持ち、聴取者から寄せられる意見や情報を大胆に取り入れた新しいニュース番組の試みについて報告した。
 2人の話に共通するのは、いかにラジオを親しみやすいものにするかという熱い思いだ。
 インタビューや投稿した相手の気持ちを大事にして、編集の手を加えず生きた言葉としてそのまま放送したいという姿勢は、折角の発言の意図が、局側の意向でズタズタにされがちな今の放送のあり方に疑問を抱いているフォーラム参加者の共感を呼んだ。
 一方、小田桐さんは被災地の安否や生活情報を、細かいところまで網羅して伝えた地元ラジオ局や臨時災害FM局の苦闘ぶりを報告した。中でも注目されたのは、住民たちの積極的な協力ぶり。

 自分の携帯電話を使って身の回りの情報をラジオ局に通報し救援活動に役立てたケースも多く、小田桐さんは災害報道にとっての「ソーシャルメディア元年」だと評価。 
 
ラジオの持つ身軽さや柔軟性、親しみやすさなどの優れた特性は、今でも存在意義があるが、とかく権威主義で硬直していると批判されるテレビにも、ソーシャルメディアの影響で変化が見え始めている現在、ラジオがこれまで開拓して来た豊かな手法や特性が、今後テレビにプラスの影響を与えられるかどうか、行方を見たいものだ。

石井長世(放送を語る会会員)