放送を語る会

~全戦線にわたって崩壊―テレビ制作現場~
個人加盟のジャーナリスト・ユニオンそしてジャーナリスト教育を!

 3月27日、「危機にあるテレビ制作現場」のタイトルで放送を語る会主催「第36回放送フォーラム」が開催された。1月下旬、放送を語る会が刊行したブックレット「NHK番組改変事件」出版記念を兼ねた集会だったが冒頭、アジアプレス・インターナショナル代表野中章弘氏が強い危機感を込めて「いまテレビ制作現場で起こっていること」を基調報告した。野中氏はNHKでETV特集なども数多く手がけた経験を基に、先ず「メディア産業の危機」と「ジャーナリズムの危機」が区別されずに議論されている混乱を指摘、メディア産業低落期の今こそジャーナリズム再生の可能性があるはずだがテレビ制作現場は全戦線にわたって崩壊し内部からの改革は不可能にみえると厳しい見方を示した。

 民放の報道番組制作現場では働く人の88%が制作会社所属。使い捨ての雇用形態が常態化、キー局社員も含めて多忙な中でひた走り、疲れて意欲が低下し考える力を失っていると指摘、「あるある」「バンキシャ」問題など不祥事が相次ぐ異常事態だが、表に出るのはほんの一部で問題は日常茶飯に起こっているという。制作現場ではジャーナリズムとしての内部的基準がなく、記者として取材経験のないまま現場に行かされるようなことが平気で日々行われているとも。


 処遇の面での格差も紹介され参加者を驚かせた。野中氏の調査では、キー局社員(40歳前後)が年収1500万円前後に対し、制作会社社員(26歳)340万、契約社員300万。一方、生涯賃金で見るとキー局社員は62200万~55500万。これに対し、日本の男性の正社員の生涯賃金は23500万、非正規社員13500万。それがテレビ番組制作現場ではフリーや制作会社の契約職員はおそらく一億円前後から1億数千万に過ぎず格差は歴然、フリーの番組制作者はワーキングプアすれすれという驚くべき数字だった。氏が教鞭をとる大学のジャーナリズム演習でも近年は志を持ってフリーのジャーナリストを目指す学生はゼロだという。メディア現場の悲惨な実態が心ある学生たちの希望を失わせているのだ。
 では、こうした「ジャーナリズムの危機」「メディア産業の危機」をどのように乗り越えるのか?

 野中氏は、現場の制作者たち自身が当事者として闘ってこなかった問題点を指摘した上で、次のように提言した。
 一つはジャーナリスト教育の必要性。番組制作において守るべきことは何か、ジャーナリストの倫理をテレビ局・制作会社を問わず現場制作者が学ぶシステムをつくること。大学メディア学科やメディア企業の横断的機関によるジャーナリズム教育、緊急相談窓口として制作現場労働者のための「相談ホットライン」などの設置を具体的に提案した。
 もう一つは個人加盟のジャーナリスト・ユニオンの創設。既存のメディア産業労組には期待できず変革の主体が見えてこないが賃金・労働条件のような構造的問題は構造的解決が必要と提起し現場から立ち上がることを呼びかけた。

 第二部の討論では、野中氏の問題提起を受けて会場からの発言、ブックレット「NHK番組改変事件」の感想も交えながら議論を交わした。
 松田浩氏は戦後のジャーナリズム運動がメディアの企業内労働組合と日本ジャーナリスト会議などを軸に展開してきた歴史を紹介するとともに、「20年来『ジャーナリスト・ユニオン』の必要性が議論されてきたがどこから運動を起こすか、担い手は誰か、とっかかりが見えないまま今日に至っている」と振り返った。

 NHK元プロデューサー永田浩三氏は、NHKでも現場の制作体制の転換とともに現場が尊重されない傾向が強まっていると指摘、「ベルリンの壁が崩壊した1989年ごろから制作現場も転換期を向かえ、番組の大型化とともに取材が一人のディレクターだけでは対応できなくなり多くのディレクターの取材をプロデューサーがまとめる方法に変ってきた。同時に現場を直接取材するディレクターの意見が尊重されずプロデューサーによる番組管理が強まってきた」と語った。「ETV2001」改変事件でも現場取材は制作会社のディレクターに任せ、プロデューサーの永田氏は一度も女性国際戦犯法廷の現場に足を運ぶことができず番組改変の修羅場で「足腰が弱くて頑張れなかった」と自戒をこめて語った。現場に根ざさない制作体制が「政治介入」への抵抗力を弱めジャーナリズムを衰退させる一因であることを実感させる発言だった。

 野中氏の提言を受けて、個人加盟のジャーナリスト・ユニオン、ジャーナリスト教育のシステムをどのように作っていくのか、私たちはいま厳しく問われていることを実感した。              (放送を語る会 小滝一志)



第36回放送フォーラム・アンケートのまとめ

1.    この集会をどこでお知りになりましたか?

   1) 放送を語る会や協賛団体からの連絡 10
  2)各種メーリングリストの情報     2
  3)友人・知人からの紹介        2
  4)新聞、雑誌、インターネットなどメディアからの情報 1

  2.本日の集会の内容についてのご感想、ご意見、放送を語る会への提案など

「内容のある集会で大いに勉強になりました。私は『慰安婦』とされた被害女性が一日も早い解決を得られるよう支援を続けているものです。メディア関係のみなさん、引き続きよろしくお願いいたします」

「日本人『慰安婦』問題で自治体に要請する運動をする中で『番組改変事件』にも関心を持ってきました。私は日頃NHKを中心にしたテレビを視聴していて、テレビなしでは人生楽しめないと思っているものです。だから、何故改変問題が起こるのか、現場はどうなっているのか?頑張ってほしいと考えます」

「ジャーナリストも市民も自らの足元をみつめ深める議論ができて本当によかったです。足場を固めるための出発点です」

「大変面白く、思いは同じようなところにあると感じました。具体的な話が出て判りやすくリアリティがありました」

「より幅広い方々の参加でひろがりを感じる集会でもありました。外からの力と内からの力の連帯の大切さを感じとりました。現役の人は力になってくれそうですが表に出られないところはOBの連帯で新鮮力を」

「一視聴者として疑問、日放労への働きかけは意義があるのでしょうか?」

「冒頭の今井氏の今回のテーマの解説、問題提起の視点と内容は適確で鋭く判りやすく出色でした」

「松田氏のコメントから民主党放送政策への不安を強くした。戦後60年目の放送への権力排除の闘いはこれからとの思いを強くした」

「松田先生のお話で放送の法体系の問題についてよく知らなかったことが如何に大事な問題かわかった。民主党政権の中で意外な動きだと思った。ジャーナリズムとメディア産業とのかかわりも難しい問題で今後の課題として考えてゆきたい」

「野中氏の講演で現状、問題点、打開する方向性、ジャーナリストの責務など大変整理されたお話を伺うことができ、ありがたかった」

「野中氏のレポートは、氏のTVへの改革の情熱と放送ジャーナリストとしての見識が感じられた。問題の根幹がTV局内部(現場)の問題意識の希薄なこととの指摘は、今の最重要課題と思いました」

「野中さんのジャーナリスト・ユニオンの確立、メディアにいる若者へのジャーナリスト教育の二つの提言は興味深かった」

「野中さんの話の中での民放の社員の生涯賃金と制作会社現場の人たちの賃金比較には驚いた」

「制作会社、孫会社の給与・労働条件の劣悪さはジャーナリスト育成にならず、番組の中味が劣悪化するばかり。メディアの器より中味の充実のためには、若い人たちのメディアリテラシー・ジャーナリストの育成、現場尊重がポイントと思う」

「ユニオンの問題をどう考えるか、どのように作るか、大変勉強になりました。日放労が御用化されていった経過についても聞きたかった」

「野中さんの講演、メモを取るのに少々手古摺りました。レジメがあればもっと楽にメモが取れたと思います」

「第二部シンポは定型を崩し会場の空気を反映しようとの試みが意外に重要でよかった」

「永田さんの誠実な語り口にはいつも感銘を受けます。番組制作現場の危機の問題はさまざまな側面があり今後とも考える機会を設けていただきたいと考えます」

「永田さんがかかわってこられた番組名を聞いて、やはりいい番組を作ってこられたのだなと感心した。それゆえに現場から外されたくないという気持ちにも共感した」

「永田さんの当時のプロデューサーとしての立場でのジレンマ、苦悩の日々の激白は強く心に残りました」

「永田さんのお話で、上司からの圧力に対して抵抗はしてもやはり現場での限界があると思った。勇気はとても素晴らしいことではあったと思います」

「私は会社員ですが、永田さんの話では自分の会社の中と同じと感じました。松田さんの話から組合潰しも自分の会社と同じ。自分の会社は電気会社の工場、私はエンジニアです」

「松田さんのジャーナリズムの変遷の話は勉強になった」

「今や放送を語る会は全国レベルで認知された存在になっています。いつもタイムリーな企画、メディアの世界で不可欠な組織になっていると思います」

「語る会はもっと若いジャーナリストにこのような会のPRをしてはいかがですか」

「院内集会をやってください。①放送法改悪反対、②NHK番組改変問題、と二つに分けて。国会会期中、議員会館前での街頭宣伝、チラシ配り、議員たちへのチラシのポスティングなど。(在日外国人への参政権・民法改正反対の右翼共は毎日昼12001300やってますよ)月一回でもやりませんか」

3.「NHK番組改変事件・制作者9年目の証言」についての感想・ご意見

「改変の内容については『語る会』の集会に参加してかなり詳しく知っていましたが本を読んで改めて驚きました。特に政治家と局の担当者との具体的やりとりはみんなに読んでもらいたいと思いました」

「記者会見の席でトップの意見をさしおいてNHK官僚が意見を出されたという部分、それが何者か出席記者も問いたださないという部分、驚きでした!」

「目下、読んでいる途中。NHKOB(大阪)の販売経験の説明は手応えの強さを伝えてくれたので更なる連帯の強化へ励みを感じました」

「NHK現場のドラマ番組OBから3000円カンパ、現役労働者、OBそれぞれから5,000円カンパ、『坂の上の雲』担当者からは永田・長井両氏の勇気をたたえる声が寄せられています。私信で購読の訴えを郵送したが、直接代金を届けてくれる労働者がたくさんいました。『興味なし』と返送してくる人も勿論いましたが」

「これから少し本腰を入れて売りにかかりたいと思っています」

「今まで断片的にしか伝えられていなかった制作現場での改変の実態を知ることができたのが最大の収穫だった」

「当事者である永田・長井両氏が『放送を語る会』の集会で発言されただけでなく、それを再録、活字にして証言として発表された勇気に改めて感銘を受けました。放送内容を決めるのは『誰か』という編集権の問題をクロ-ズアップしたブックレットだったと思います」

「永田さん、長井さんが結局退職せざるをえなかったことを風化させないことが大切だと改めて感じました」

「未だに明らかになっていない事実(最後の3分間のカットは本当は誰が発案し指示したのかなど)もあるが、ブックレットでの発言やこれまでの公表資料でほぼ9割方の事実は明らかになったと言える。問題はこれをちゃんと教訓化できるかという読み手の問題にかかっていると思う」

「この本の出版はメディアのあり方、『歴史の真実とは』を求める者への大きな問いと共感を広げるきっかけになっている。労働の現場もきっと心ある人々がいると思う。引き続きこの取り組みに期待します」

「内容の深い記録をこれだけでしまっておくのはもったいないです。第2弾の検討が始まることを期待します」

本書を読んで、どうしても改変前と後の映像を見たいと感じました。ところがNHKは見せないということのようです。これでは全く一般市民は疑問があっても議論したり意見を述べることができません。本日配布された二つのシナリオである程度は分かりますが映像に優るものはないと思います。一体、NHKはどういう根拠で見せないということができるのでしょうか? また二つを比べる形で再放送をやる手立ては何かないのでしょうか?」

「大変まとまった本ですので民放や新聞で働く方々にぜひ広めてゆきたいと思います。そこがやれれば『検証番組を』という声につながっていくように思います」