放送を語る会


第35回放送フォーラム

 新通信・放送融合法案のねらいは何か~問われる放送の自由~

 1月23日都内で開かれた集会では、講師の須藤春夫教授(法政大)がまずこの新しい法案に至る経緯を説明した。

(1)新法案が提出されるまで
 2000年6月総務省に「通信・放送融合時代の情報通信政策の在り方に関する懇談会」が設置されたが、この「融合」という言葉が使用されたのはこの懇談会が最初である。
 2006年1月、小泉政権で「通信・放送の在り方に関する懇談会」(通称竹中懇)が設置され、経済の規制緩和路線に沿って、制度を変え、放送も政府の護送船団方式を変えるべきと提言した。
 2008年2月、経団連は情報通信法案の在り方を提言、新事業の展開を阻んでいる現行法の規制をなくすという理由から、政府の方針を支持した。
 2009年8月、民主党政権誕生、今年に入り、原口総務大臣は現在9つある通信、放送に関する法律を4つに再編する新法案の概要を発表、通常国会に提出予定である。 以上の経緯からわかることは経団連を中心とする財界主導の制度改革であること、民主党への政権交代後も、自民党時代のIT国家戦略を引き継ぐ法案であることである。

(2)この法案の背景に何があるのか
 自民党政権時代から、日本はIT国家戦略として、国民の100%が超高速ブロードバンドのネットワーク利用を可能とする、そして2011年に地上デジタル完全移行すること そして、携帯端末向け映像配信(ワンセグ)、インターネットによる映像・音声ダウンロード、プラットフォームサービス(スカパー)など新サービスを拡大させること。
IPTV(インターネット放送)の地上波テレビ放送の区域外再送信禁止の規制をなくすことなどを企図してきた このような新しい産業政策が背景にある。

(3)法案の問題点はどこにあるか
 既存放送事業者への規制強化になる(放送における番組種別の公表義務ずけ、放送中止事故の報告義務など)コンテンツ規制として、現行の放送法が適用されるので、放送事業者が問題を起すと、準則にもとずき、業務停止などの新たな介入の恐れがある、従って全体として放送の自由の危機を招く。
 経団連の要求する情報の自由な流通の促進は電気通信事業者は有利に働くものの、放送事業者はコンテンツ生産事業者(プロダクション)に役割が変化する。
 新しいメデイア環境の下での放送の果たす役割とその制度的位置ずけについての考察を欠落していて、産業振興策の側面だけが際立っている。
 国民の知る権利を保障し、権力を監視する放送メデイアが解体する危機がある。

(4)市民はどう考えていくべきか
 デジタル技術の進展によって伝送路の融合化と情報発信の大量化は進むであろうが、放送メデイアは単なる情報伝送機関ではなく、報道(ジャーナリズム)、エンターテイメントのメデイァとして複雑な社会現象を解釈し、世論を形成し、真実に近ずける営為としての存在価値を持つことを確認する必要がある。
 総務省は2009年12月、「今後のICT分野における国民の権利・保障等の在り方を考えるフォーラム」を設置し、1年間の検討を経て、提言するとしているが、市民側も放送の公共的原理とその制度的保障を考えるオルナテイブ・フォーラムを作り、提言していくことが求められている。