2025年第27回参議院選挙(7月3日公示 20日投開票)
テレビ番組モニター報告 放送を語る会
●モニターの期間と方法
参議院選挙の公示日 7月3日(木)~投・開票前日の7月19日(土)までの17日間。この間、番組の放送がない日曜日(6日、13日)は除くと、実際のモニター実施日は番組によって差はあるが、15日間になる。
放送を語る会のメンバー13人が期間中にそれぞれが担当する番組を視聴し、モニター票にチェックする項目を記載。そのうえで番組ごとに結果を集約して分析した。
●モニターの対象にしたニュース番組
全国系列の5つの放送局のあわせて7つのニュース番組についてモニターを実施。
▼NHKのニュースウオッチ9とサタデーウオッチ9
▼テレビ朝日の報道ステーションとサタデーステーション
▼TBSのnews23と土曜日の報道特集
▼日本テレビのnews zero
▼フジテレビのnewsαとFNN Live News イット
これまでモニターの対象にしていなかったフジテレビの番組を、今回新たに加えたのは、一連のフジテレビ問題を踏まえ、再生を図るとした同局が、どのような参議院選報道を行うのかを確認するためである。
●モニターの視点
去年の都知事選の石丸現象、衆議院選挙の国民民主躍進、兵庫県知事選などSNSの選挙への影響力が拡大、真偽不明やフェイクニュースなどが有権者の投票行動に影響を与えた。一方で選挙期間中に既存メディアの選挙報道の少なさが、こうした状況を加速させたとの指摘もある。NHKなどではこうした点をふまえ選挙報道の在り方の見直しに着手。今回の参議院選挙は、テレビメディアが生き残っていけるかどうかの試金石にもなる。
語る会のモニターの視点も、「テレビの選挙報道は本当に変わったのか、各社がどれだけ真摯な取り組みをし、それが有権者に届いているのか」が大きなポイントになった。
特に次の3点を念頭にモニターを実施した。
1)「ファクトチェック」を番組の中できちんと取り組んでいるか。 また、その検証過程についても「過程の透明化」を行い視聴者と共有できたか。
2)有権者の判断材料になるような争点や政策をきちんと伝えているか。質(内容)とともに量(時間)も十分かどうか。
3)政党の議員数に比例するように各党の時間を配分をしたこれまでのような選挙報道ではなく、新しい伝え方や企画などが出ているか。
●モニターのチェック項目
モニターの視点をベースにしたうえで具体的には、以下の点について番組ごとにチェックした。
① 選挙関連のニュースが出た順番(オーダー) その日取り上げたニュースの中での重要性がわ かる。
② 放送された時間の長さ
③ ニュースの伝え方 ストレートニュース スタジオ解説や企画
④ ニュースの内容 選挙戦について 政治の動き 選挙戦の争点や政策 情勢展望
大阪のメンバーが、放送番組の字幕を書き出せるソフトを駆使して、担当者にデータを送ってバックアップ。メンバーの総力でモニター活動を行った。
===モニターの結果について====
【参議院選挙関連のトータルの放送時間量とニュースオーダー】
▼NHK・ニュースウオッチ9とサタデーウオッチ9 4時間11分6秒 0回
▼テレビ朝日・報道ステーションとサタデーステーション 1時間48分40秒 0回
▼TBS・news23 1時間56分52秒 1回
・報道特集(土曜日) 49分50秒 1回
▼日本テレビ・news zero 1時間50分21秒 1回
▼フジテレビ・newsα 28分03秒 2回
・FNN Live News イット 2時間28分30秒
*時間数はモニター各自が計ったものを合算したあくまでも概算のデータ)
*右側の回数は、ニュースオーダー(順番)で、その日のトップになった回数。(参考)
・前回 2021年の参議院選挙での各番組の放送時間量 いずれも
▼ニュースウオッチ9 2時間9分43秒
▼news23 45分40秒
▼報道ステーション 1時間8分55秒
・前々回 2019年の参議院選挙
▼ニュースウオッチ9 1時間41分56秒
▼news23 1時間6分58秒
▼報道ステーション 1時間8分40秒
放送時間の量については、前回、前々回の参議院選挙での放送時間と比べてみると、曜日の関係で日数の違いがあるが、いずれも少しずつ増えてはいる。(NHKが4時間余と断トツに多いのは、番組の中で1時間余の選挙特番を組み込んだため)
去年の衆院選や、兵庫県知事選挙では、SNSで誤った情報などが拡散し、それが投票行動へも影響を与えたことが指摘された。これを受けてNHKを始め民放の一部が、選挙報道への取り組み強化を表明した。その結果として全体では放送量が増えたものと推測できる。
一方で、各番組がそのニュースをどのくらい重要だと考えているかを示すニュースオーダーを見ると、参議院選挙のニュースがトップになったのは、モニターした番組を合わせてもわずか3回、NHKやTBSでは1回もなかった。さらに番組で参議院選挙に全く触れなかったのも合わせて3回あった。前回の衆議院選挙でも同様の傾向で「国政の行く末を決める選挙についての各放送局・番組のニュースとしての価値判断、ひいては報道姿勢については疑問が残る」と再度指摘しておきたい
【選挙報道の内容は】
毎回のことだかテレビの選挙報道にはパターンがある。
① 各党の選挙戦 第一声 選挙街宣の声 党首討論 党首や候補の動き
② 選挙の争点・課題 各党はどのような政策を訴えているのか
③ 注目選挙区の紹介
④ 選挙の情勢分析 世論調査など
⑤ 選挙全体の課題やトピック
加えて今回は、各放送メディアが前触れしていたように
⑥ 選挙活動中に流れる情報のファクトチェックが加わった。
こうした点を踏まえて、どのような選挙報道を行ったのか、番組ごとに見ていきたい。
以下、番組ごとにモニター担当者のまとめを紹介する。
NHK ニュースウオッチ9・サタデーウオッチ9
〇モニターの視点
「有権者の政治選択に役立つ報道か」という共通のモニターの視点に加えて、6月18日のメディア総局長記者会見で明らかにされたNHK自身の選挙報道改革がどこまで実行されたかチェックすることも意識してモニターした。NHKの選挙報道改革のポイントは以下の2点である。
1)ファクトチェックの取り組み、
2)事前報道の“質”を高めて〝量“を増やす
〇 事前報道の量は増えたか
参院選の公示日(7/3)から投票日前日(7/19)まで15回の「NW9」&「サタデーウオッチ9」の放送時間は計4時間11分07秒だった。
各回の放送時間についてもネット配信と比較して短いと感じる視聴者が多いのではないか。モニター担当者からも「有権者の声も具体的な指摘でよかったがもう少し時間を割いて丁寧に扱ってもよいのではないか。各党を紹介する時間が短く早い」(7/3)「参院選関連報道が番組全体の計10分も扱っていないなんて短すぎる扱いだ」(7/4)などの指摘が繰り返しあった。
〇 参院選報道は重視されていたか
「NW9」では、公示日を除きその日のニュース項目の5ないし6番目に報道されることが多く、民主主義の根幹である選挙にしては、ニュースバリューの位置づけが低いのではないか。「毎回トップニュースで」とまではいわないが、もっと重視すべきと思う。
〇 有権者の政治選択に資する報道だったか
1) 政策報道は増えた
「参院選の争点」は「コメの価格」(7/7)、「物価対策」(7/8)、「トランプ関税への対応」(7/9)、「社会保障」(7/10)、「選択的夫婦別姓」(7/11)と5回放送された。このほか「企業・団体献金禁止の賛否」(7/14)も取り上げた。去年10月の衆議院選挙では「防衛力強化」「賃上げ」の2回だったのに比較すると、今回は政策報道にかなり力を入れていたことがわかる。
しかし、アメリカの圧力を受け台湾有事をあおり軍拡が進む情勢の下で「防衛力強化」や「安全保障」の問題が取り上げられなかったことには疑問が残る。
またそれぞれの争点について、社会の実情や、有権者の声はよく取材していたが、それに対する各党の政策が現状の改革につながるのかの検証に踏み込んでいないところ、各党の政策の単なる羅列に終わっているところに物足りなさが残る。
7/5の「サタデーウオッチ9」は、1時間20分近くを与野党の生討論にあてた。経済政策をテーマに、5年連続で過去最高を更新する税収の伸び、9年連続で過去最大を更新する国の借金(国債)をデータで提示し、出席した10の全政党政策担当者に各党の見解を問い、「直接対決コーナー」を設けて30分近くの2党間討論を設定した後、司会者から各党への追加質問するという構成。政策論議を深める有効な企画だった。今後も、経済政策だけでなく、「安全保障」や「社会福祉」など各分野でこうした政策論議を深めてほしい。放送が選挙区の勝敗予想、政治家の動向ばかりに関心を向ける政局報道から本来の政策報道に力点をおく選挙報道に転換するきっかけになることを期待したい。
2)有効だったファクトチェックの取り組み
7/4にはSNS上の偽情報やフェイク動画を取り上げた。ボールペンによる投票呼びかけや選挙管理委員会の集計をめぐる不正の動画などがフェイクであることを専門家の警告と合わせて伝えた。
7/12は「サタデーウオッチ9」が、「急増する動画 あなたもターゲットに」のタイトルで、各党が力を入れている動画の仕組みとSNSが若者の投票行動にどう影響しているかを詳しく伝えた。動画配信には、非常に細かい設定でコンテンツ配信できる「ターゲティング広告」という手法があり、表示される順番は投入される広告費によって操られているので、有権者の支持の広がりを示すものではないことが明らかにされ、「届けられている情報は、かなりフィルターがかけられていて特定の傾向を持つ情報しか目にしていないと理解することが重要」という専門家の警告と合わせて、時宜を得た貴重な情報だった。
7/16はNW9が「参院選とSNS ”外国人”投稿急増」のタイトルでファクトチェックした。「外国人が増えれば日本の治安が悪くなる」「外国人が生活保護において優遇されている」などが誤情報であることをデータを提示しながら伝えた。このような政策論争に踏みこんだファクトチェックこそ有権者の政治選択にとって役立つ情報で今後大いに力を入れることを期待されている分野だと思う。
テレビ朝日 報道ステーション・サタデイステーション
1 ファクトチェックは行われたか
局独自に取り組んだファクトチェックの事例はなかったが、間接的な形で行われた例は報道されている。
*7月16日 「宮城県知事 神谷発言に抗議」
宮城県の水道事業に対し、参政党の神谷代表が「宮城県が水道事業を民営化し、外資に売った」と発言したのに対し、宮城県の村井知事が事実ではないと反論した。
宮城県は3年前から水道事業の運営を民間企業に委託している。ただ、所有権と最終的な責任は県にあり、完全民営化ではない、しかも委託会社に一部外国の日本法人が出資しているものの最大の株主は日本の企業である、というのが村井知事の主張である。村井氏は神谷代表に抗議文を送り、速やかに謝罪訂正するよう求めた。
ファクトチェックを知事自らがやったというニュースだが、大越キャスターの後受けは一切なし。ここは一言受けるべきではないかと担当者は感想を述べている。
*7月18日「参政・神谷代表 演説で”差別的表現“」
参政党の神谷代表は、参院選候補の応援演説で党の憲法構想案への批判をめぐり、朝鮮人に対し差別的な表現を使い直後に訂正した。その発言とは、朝鮮人の別称として使われる「チョン」という言葉を口にしたもので「ごめんなさい。また言っちゃった。私が悪い言葉を使ってしまったのでそこは本当にごめんなさい」と謝罪の言葉を述べたことを指している。
このニュースは選挙戦最終盤、各党党首の奮闘ぶりを党首の短い言葉と共に紹介したのに続けて放送された。参政党党首としての神谷氏の発言も紹介されているから、あくまでも別枠である。あえてこの事実を取り上げたことに、参政党への厳しい批判と毅然とした取材姿勢が感じられた。
2 有権者の判断材料となる番組は提供されたか
7月12日「サタデーステーション」で取り上げた「物価高対策 住宅高騰 マンションも戸建ても」を挙げておく。
番組は二部構成になっており、前半はこれから家を購入しようとしている人、中古物件で我慢した人の実例を紹介する一方で、2億円のタワーマンションを代理人を立てただけで購入してしまう中国人の例も紹介されている。都心の高級マンションの購入者の2割から4割が外国人で、転売目的で購入するそれらの人の影響で、物件も高騰していると解説している。
そして後半は住宅価格の高騰に対する各党の対策を抜き出して紹介した。
最後のスタジオでの受けは柳澤キャスター。
「つまるところ物価高に見合う賃上げがない限り問題は解決しない」と述べ、「それにしても現在のように日本経済が不透明な時代にあっては、総合的な経済対策を考えないと住宅問題も解決しないだろう」と結んだ。
各党の主張も簡単明瞭でわかりやすく、現在の住宅事情の実際も示されてよかったが、柳澤キャスターの「総合的な経済対策」が具体的にどのようなものか、話にもう少し具体性があるともっとよかったのだが。
3 何か新しい企画は組み込まれたか
新しい企画というわけではないが、テレビメディアとしてSNSにどう向き合っていくかを具体的に示した点で、7月18日(金)「誤情報、偽情報の意図的な拡散」を挙げておく。
いまやメディアの主流として選挙戦でも大きな役割を果たしているSNS。しかし、なかには偽情報、誤情報を意図的に拡散し、人々の判断を狂わせる悪質なものがあるとして、その内幕の一端を暴いた好企画。
ニュース記事やSNS上の反応を取り上げてインターネットに掲載するJAPAN NETS NAVI(JNN)の記事に愛知県知事が反論したのだ。
その記事とは「愛知県のスタートアップ支援に関して19億円を外国人起業家支援に投入」というものだったが、これは真っ赤なウソだとして、大村愛知県知事が直ちに県のHPを使って反論した。「嘘を書けばバズって、書いた人が得をする形というのはあってはならないこと。ファクトチェックしてしっかり規制しなきゃいかん」と知事は言う。
JNNは誤った内容や不正確な情報に基づく政権批判も目立つという。しかも拡散する際、指定した作業を自動的に行うプログラムBotを使っている。このプログラムを使えば、同じ文章を際限なく拡散したり、フォロワーの数を多く見せかけたりでき、世論分断を目的に偽情報を流すために悪用もできるという。
さらに、AIの発達で言葉の壁も簡単に突き破ることができるようになり、他国からの介入も容易になった。
大越キャスターは「ネット上の誤った情報に踊らされるのは嫌だけど、そのリスクから逃れられないことになりますよね」と感想を述べているが、ネット情報、SNSなどが主流となってきた時代、心してそれらのメディアと向き合え、と警鐘を鳴らしたことは大きな意味を持つ企画だった。
全体のまとめ
おどろいたのは、選挙期間中12回あった「報道ステーション」のうち3回も選挙に関して一言も触れなかったことである。しかも前半は朝日新聞とANNが行った世論調査の結果を利用して選挙情勢を予測したり、32人の候補が立った東京選挙区を2日にわたって紹介したりに費やされているうちに、早や8日が過ぎてしまっていた。このほか注目の選挙区として新潟、福島の情勢を紹介したが、内容は毎度同じような取り上げ方、やっとエンジンがかかったのは「視点」で取り上げた後半での企画からであった。
選挙戦中に急浮上した「外国人問題」に対し、アテンション・エコノミーという新しい用語が紹介された。この言葉は、情報の質より人々の注目を集めるほうが価値を持つ、とする考え方で、膨大なネット空間において如何に人々の注目を集めるかということから考え出された手法である。この言葉は7月14日「外国人政策」の際に使われたのだが、肝心のファクトチェックには至らなかった。
7月3日、いよいよ選挙戦突入という日、スタジオで「今回の選挙戦の特徴は?」と聞かれた大越キャスターは「SNSの隆盛で票読みという手法で得票数を予測することが困難になった」と答えた。テレビメディアはSNSにどう対処していくのか、ということに話が進むと思いきや、これはいささか的外れな返答であった。票読み云々は業界内部の問題であって、視聴者が期待していたのはSNS隆盛に対し「報道ステーション」がどのような態度で臨むのかということだったのではないか。
大越キャスターは番組の中で「SNS上に氾濫する情報については、まず一呼吸おいてその真偽を確かめ、慎重に内容を見極めていくことをお勧めします」といったこともあった。しかし、彼がかかわっている番組がそれにどう立ち向かっていくのか、具体的な形で示されたのは18日1回だけであった。党首や党の幹部の発言を均等に放送することはあっても、独自の調査報道を通して視聴者を引き付けるような独自企画もなかった。
かつての「報道ステーション」は優れた企画と圧倒的な取材力をもって、たえず選挙報道をリードしていた。その片鱗はもはやないと言わざるを得ない。
今年の朝日ホールディングスの株主総会で、「市民ネットワーク」は「選挙時における積極的な情報の提供、および虚偽情報真偽不明情報の監視に関する株主提案」として
① 選挙時に積極的な情報提供をすること ② ファクトチェックを行うことを、定款第2条「目的」に新しく追加する」ことを提案した。
この提案は否決されたが、説明の最中会場から拍手の音が聞こえてきたという。
われわれモニターに関わった人間だけでなく、多くの市民がテレビ朝日の選挙報道に期待を寄せている。かつての「報道ステーション」の姿がよみがえることを願っている。それに応えるべく、担当者は真摯にこの問題に取り組んでほしい。それはSNSに負けないテレビメディアを作り上げることにもつながるのではないだろうか。
TBS news23と土曜日の報道特集
・参院選期間に放送枠として「選挙の日、その前に」との副題で5分から16分ほぼ連日報道していた。
.・JNNの世論調査から予想し、【政権交代の可能性】を「1人区」の投票予想などで分析し早くから高い確率で実現の予想をしていた。
・今までの【公平・中立の選挙報道姿勢】から、見られた変化として注目したのは、9日に外国の報道関係者の「日本の選挙報道は公平性を重視しすぎ消極的になっている」という発言を取り上げ、その後TBS政治部長が番組に出演「公平を重視し過ぎず、躍進の兆候が見られる参政党を分析し何故支持されているか有権者に情報提供すべき」と発言。
更に言行一致に向けてか14日に小川キャスターが国民民主党と参政党の街頭演説会に臨み、聴衆に支持の理由を問うだけでなく、国民民主党の党首に直接インタビュー実施。また参政党の党首演説の紹介では「外国人雇用に金を出すとか、外国資本に儲かる事業をあげるとか、おかしいから直せと言っているだけ>差別でもヘイトでもない。マスメディアの報道姿勢を正していかないと」「参政党は日本の政治に希望とか期待を取り戻したい」と弁明や扇動的な演説を取り上げていた。
確かにこれらの言辞が聴衆の熱気を呼び起こし、躍進につながっていることを有権者に情報提供していることになるが、抗議されている【ファクト演説】の情報も同時に取り上げなければ、世論に正確な情報提供を行っていることにならないのではないか。
・10日の【切り抜き動画】のテーマでは各政党の対応・姿勢が様々であるように難題のようだが、どう考えても基本的人権の選挙という公平・中立をモットーとされる社会活動で独断的な誘導により「バズると収益が数十万にもなる」というのは解決が急務。
副業にしている運用者の発言で「動画を無断使用していると自覚しているが、削除要請には応じている」と合法的とした弁明の発言を紹介。メディアとして、【拡散には情報に疑問を持つ習慣を】と訴え、著作権にもかかわりルール作りが急がれるとしていた。ことの発端は兵庫知事選にあり、例えば次点に終わった知事候補がSNS攻撃に反論しようとしたが「アカウントの運用が出来なくなった」という司法にもかかわる問題が未解決のまま。メディアとして、こうした司法・行政の不作為問題への追及も課題としてほしい。
報道特集(7月12日)
◆この番組は、公示後の5日、投票日前の19日の放送はせず、この12日放送のみに限っておよそ1時間を使っての、参議院選挙特集だった。
◆各政党の選挙活動などには触れず、急浮上したと取り上げた外国人政策、そして物価高に焦点を絞って構成された。
◆参政党の党首の街頭での訴え――「日本人ファースト」、外国人の犯罪などをファクトチェックした。犯罪件数に関しては最近は低く、経済的には必ずしも優遇されていない状況をグラフを示してコメント。各政党の外国人対策の政策は、フリップの読み上げですませ、自民・石破総理と立憲・野田代表に絞っての取材だったので、この問題で党を選択する有権者にとって、問題は理解できたが、ではどこに投票するかの材料としては不足だった感がある。
◆市民団体が、記者会見をしたり、街頭で抗議行動したり取材努力を評価できる。特に長年にわたりヘイトスピーチに市の条例までつくらせた川崎市の市民の歴史的取り組みは、目をみはるものがあった。リアルに取り上げた読書会活動という運動――街頭でヘイトスピーチがあった場合、直ちに中止させようという行動には頭が下がる思いを抱いた。
◆SNSに関して研究者へのインタビューが、番組内で取り上げられた。なかでも明戸隆浩准教授(大阪公立大)の≪日本人ファーストという言葉が独り歩きしているような現状、ヘイトスピーチとは違うのか?≫「それだけ取り上げると日本人大事にします」「それって排外主義なの?ヘイトスピーチなの?と言えてしまう」「ヘイトスピーチで重要なのは差別の扇動なんです。差別用語を一切使わず、差別を煽るということ」「自分は直接出ていけとは言ってませんよ、と言い訳ができてしまう」「実際にやっていることは日本人ファーストが支持層に対して排外主義、ヘイトスピーチを煽るという効果。当然言っている側はわかっていないわけがない」などは、説得力があったと思う。
◆なぜこの物価高が3年も、また更に続くのか、どうすれば暮らしは楽になるのか、という問題についてもっと触れるべきだったかと思う。一橋大学の野口悠紀雄名誉教授の「 政府が長年進めてきた円安政策が日本を衰退させてきた根本的な原因だ」との指摘があったが。今一番の問題は、各党が競っている「給付金」「消費税減税」がどうなのか、この部分こそが一番知りたい問題ではないのか。
日本テレビ news zero
「news zero」 を放送する日本テレビは都議会議員選挙と参議院選挙をにらんで、選挙前の6月9日に「「SNSの影響力がますます高まる中で、情報が一気に拡散する一方、誤情報や極端な主張が選挙をかく乱するケースも増えています。視聴者の不安やモヤモヤに真正面から向き合い、「それって本当?」と立ち止まる姿勢で、有権者に“真に資する”報道を目指します」とする指針を発表した。
この指針で、同局が最近の選挙結果に大きな影響を与えつつある「SNS情報」を強く意識していることがよく分かる。
モニターは、「放送を語る会」で設定した視点と同時に、同局がこの指針をどう実現しているかという視点でも実施した。
放送内容について
▼党首インタビュー
キャスターが各党党首に一対一でインタビューするスタイルで、一つの政党の政策をじっくり聞けるというメリットはあるものの、「党首討論」のように他党からの反論は聞けない。
キャスターと党首との一問一答というケースが殆どで、有権者の判断に資するためには、各党首の答えに対し、納得出来るまで質問を重ねるべきではないか。
また、中心となる争点については、各党にたいし同じ質問も投げかけるべきではなかったか。
▼候補者アンケートとマッチングアプリ
「2024年・衆院選」でも同様のアプリを提供、設問に答えといくと同じ考えの候補者にマッチングするというもの。
当然ながら、設問の内容によってはマッチング先が変わることが予想される。設問の背景について詳細に報ずることで視聴者への判断材料が提供できるのではないか。
▼NNN情勢分析
メディアの情勢分析は近年ますます精度が上がった感があり、選挙期間中に大きく情勢が動くこともなくなった。
▼選挙区リポート 今回は東京選挙区のみリポートのみ。
▼SNS
*各党のSNS活用比較 *SNSニセ情報拡散 *番組HPの党首インタビュー視聴分析
各党のSNS活用比較や党首インタビューの視聴分析は興味ある内容だった。
*参政党へ二団体が抗議 選挙期間中、特定政党に「不利」な情報を伝えたことは今までにないこと。
まとめ
SNSに対する同局の指針を見て、今回の選挙報道への気構えを感じ、期待を抱いてモニターに臨んだ。
日本テレビ「news zero」では、新たな試みや僅かな変化が見えたものの、質量とも大いに期待外れだった。その背景に、安倍一強時代のメディア介入、それによる忖度報道という悪習が続いてはいないか。
衆参両院で自公与党が過半数を失うという変化に対応出来なければ「旧メディア」に甘んずることになってしまう。
テレビは自然現象(気象・地震など)について詳細な解説・原因究明を行うのに、社会や政治に関しては表層現象だけを伝えることが多く、調査報道によって原因・真相を追求する姿勢を大きく後退させている。
権力を監視するという本来の役割を自覚した放送を期待したいが、それは選挙時だけでなく、普段の報道姿勢を見直してこそ実現出来るのではないだろうか。
選挙期間中に「根拠不明瞭なアドバルーン的な政策を報じるだけでは“フェイク情報拡散”の一役を担うことになる」 と言っては言い過ぎだろうか。
FNN Live Newsニュースα
「ニュースα」は、冒頭に「 働く皆さんの一日の終わりに あしたのプラスαにつながるニュースをコンパクトにまとめて お伝えします。」としている。しかし参議院選報道に関しては、量・質ともに薄いものであった。各日の放送時間は概ね2分前後で、公示日でも3分35秒にすぎない。
各争点や政策も、各党首の演説の切り取りに終止していて、解説もなく有権者の投票行動に資するには、程遠い内容であった。コンパクトでも、独自取材と論点を絞って深堀はできなかったのかと問いたい。 フジTVは「今、選挙を巡る環境が劇的に変化、そんな中でフジテレビは選挙報道について新たな方針を作っています」としている。「中居問題後」の報道姿勢に期待をもって参院選のモニターをしたのだが、「ニュースα」に関しては、相変わらずの報道で残念である。この間、ファクトチェックは無かった。
2025年の参議院選挙をテレビメディアはどう伝えたのか
参議院選挙の結果は、去年10月の衆議院選挙に続き、自民党・公明党の与党が大敗し、ここでも与野党が逆転した。一方野党は、立憲民主党が横ばいだったのに対し、国民民主党が衆議院選挙での勢いを維持して議席を増やした。なかでも参政党は2議席から一挙に15議席と大きく躍進し、「日本人ファースト」を掲げる姿勢には、欧米など世界で起きている右翼ポピュリズム台頭の波が、日本にも押し寄せてきたことを示す結果となった。参議院選挙後の自民党は、石破首相を総裁辞任へと追い込み、「解党的出直し」を旗印に、10月4日に総裁選を実施し、政治姿勢が党内最右翼とみなされる高市氏を総裁に選んだ。蓋を開けてみれば、唯一派閥として残る麻生派が人事を牛耳り「政治とカネの問題」は棚ざらし、「解党的出直し」どころか「古い自民党への回帰」と党内の権力闘争ばかりが透けて見えた。そして自公連立政権は、公明党が26年間続いた連立を解消し、政治の世界に激震が走った。
10月中旬の段階では、高市総裁がすんなり首相に指名されるかどうかは見通せない情勢になっている。参議院選挙での民意は、日本政治に大きな転換を迫ることになった。
日本の政治に大きな地殻変動を起こす引き金となった今回の参議院選挙、番組ごとのモニターの報告をふまえてテレビメディアが何をどう伝えたのかを検証してみたい。
1)選挙報道は変わったのか
今回の参議選挙報道は、SNSが影響力を増し、真偽不明の情報が拡散していく中で、テレビメディアの真価が問われる大きな節目にもなった。
NHKは選挙前の6月のメディア総局長会見のなかで「去年行われた兵庫県選挙などでは、既存メディアは国民が求める情報を的確に伝えていなかったのではないかといった声が聞かれました」と現状を分析した。そのうえで「メディアを取り巻く環境が大きく変化する中、・・・選挙報道においても国民の知る権利に応え、放送でもインターネットでも『情報空間の参照点』となる情報を提供することにより、健全な民主主義の発展に貢献していきたい」と表明している。その一歩を今回の参議院選挙報道で踏み出すことができたのだろうか。
2)ファクトチェックの取り組み・・・フェイクニュースへの向き合い方
NHKが「ファクトチェックへの取り組み」を明言したように、民放各社も含めてファクトチェックに力を入れるようになった。その方法として、広く流布している事に対してその事実を検証するものと、選挙中の候補などの具体的な発言を取り上げて視聴者に提示する2つのパターンが見られた。前者では、NHKのニュースウオッチ9がSNS上の外国人をめぐる投稿を取り上げ、広く拡散された「日本の治安が悪くなる」「生活保護において優遇されている」といった言説が事実に基づかない誤った情報であることを統計データで示した。同様に、外国人問題に対するファクトチェックはTBSの報道特集でも伝えていて、典型的なファクトチェックの例である。
後者の例としては、テレビ朝日の報道ステーションが7月16日に報じた「宮城県知事
神谷発言に抗議」のニュースが挙げられる。宮城県の水道事業に対し、参政党の神谷代表が「水道事業を民営化し、外資に売った」と発言した。これに対して村井知事が、所有権と最終的な責任は県にあり、完全民営化ではないうえ、委託会社に一部外国の日本法人が出資しているものの最大の株主は日本の企業である」と事実関係について反論し、謝罪を求めたのだ。フェイクニュースをめぐる当事者同士のやり取りを伝えることで、視聴者に実態を可視化したといえるだろう。
この他、SNSで届けられる情報にかなりフィルターがかけられていることに注意を促す「ターゲティング広告」について(ニュースウオッチ9)や、情報の質より注目を集める方が価値を持つとするアテンション・エコノミーへの言及(報道ステーション)など、視聴者にとっての有益な情報を、各放送メディアが伝えていこうという姿勢が感じられた。
とはいえ、この取り組みは本格的には始まったばかり(遅きに失した、の感も)、これからより力を入れていかなければならない課題だ。
3)有権者の判断に役立ったか
次に、選挙報道の大きな柱「有権者の投票行動に資する報道になったか」という側面から見ていきたい。今回の参議院選挙は、政治とカネの問題と物価高対策が大きな争点となり、事実上の「政権選択選挙」とも言われた。そのため物価対策や経済の問題については各メディアが企画ニュースなどで取り上げた。NHKのサタデーウオッチ9は1時間20分を与野党の討論にあて経済政策について10の政党に各党の見解を問うた。
テレビ朝日の報道ステーションでは物価高対策として住宅高騰にスポットをあて実情を紹介すると共に各党の政策を紹介した。一方、日本テレビのnewszeroでは各党の党首にテーマ別にインタビューする企画もあり、自民党へは「2030年度、100万円賃金増」立憲民主党へは「過去の消費税政策」についてキャスターが政策を問うた。
これらの企画は、有権者の判断材料になるような取り組みとして評価はできるが、各党の政策の羅列に終わり、それらの実現性などに踏み込むまでには至らなかった。
モニター担当者の一人は「根拠不明瞭なアドバルーン的な政策を報じるだけでは“フェイク情報拡散”の一翼を担うことになる」と厳しく指摘している。
4)選挙報道でメディアの強度が試される
今回の参議院選挙の中盤から大きくクローズアップされたのが、各報道機関の事前調査や、SNSでの盛り上がりから参政党の躍進が見込まれることだった。参政党が掲げる「日本人ファースト」に基づく主張は、日本で暮らす外国人を排撃し、社会の寛容性を損なわせる恐れがある。新聞メディアの中には選挙期間中ながら、明確に参政党にノーを突き付け、その危険性を指摘する報道を展開するところもあった。放送メディアではTBSのnews23でTBSの政治部長が出演し「公平を重視し過ぎず躍進の兆候が見られる参政党を分析し何故支持されているか有権者に情報提供すべき」と発言した。しかし参政党の姿勢を問う報道は全体として少なかった。選挙報道は各メディアの民主主義に対する強度を試しているといえるのではないか。
おわりに
2025年の参議院選挙にテレビメディアはどう臨んだのか。これは今後の選挙報道の在り方を示すリトマス試験紙ではないだろうか。
SNSが既存のメディアを凌ぐ影響を持ち、それが選挙で有権者の投票行動をも左右することが指摘される中で、真偽不明の情報やフェイクニュースをチェックし、正しい情報を伝えていくことが、既存メディアの務めであるし、それが既存メディアに対する信頼を取り戻すことにもなる。今回の参議院選挙報道ではテレビメディアも濃淡はあれ、この問題意識を共有していたと思う。
また有権者が本当に求めている情報、選挙でどの候補者・政党に投票すれば、暮らしや社会がよくなっていくのか、その判断材料を伝える、いわば「政策報道」への転換も見られてきた。それは民主主義を推し進めていくためのメディアの役割でもある。
一方で安倍一強と言われた時代のメディアの政治権力への「忖度」は、いまは「自己規制」と名を変え、選挙報道でも政治に直接絡んだ問題については及び腰になる姿勢は変わっていない。
こうしたテレビメディアの現状や課題を私たち視聴者が認識をしたうえで、これからもテレビメディアの動きを“モニター”していきたい。
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