語る会モニター報告

        集団的自衛権行使容認
      ~テレビニュース番組はどう伝えたか~
             ―2014年5月~7月―

                     2014年8月31日
                     放送を語る会                             

   *********************************************************
   はじめに ~モニター期間と対象番組~
   1、テレビ報道全体の傾向 ~テレビジャーナリズムに問われたもの~
  2、デイリーニュース番組
     1)安保法制懇報告書の提出と安倍首相会見
     2)与党協議と閣議決定を問う報道
     3)政府与党の主張に対する批判、反対運動の報道
     4)閣議決定当日(7月1日)の報道
     5)NHKの集団的自衛権報道の特徴
   3、週一回のニュース番組
   4、集団的自衛権報道への要請

    【資料】各番組モニター担当者の報告
  *********************************************************************

はじめに  ~モニター期間と対象番組~


 2014年7月1日、安倍政権は集団的自衛権行使容認を閣議決定した。5月15日に安保法制懇の報告を受けた安倍首相の記者会見から閣議決定まで、集団的自衛権に関して各種メディアでの報道が集中的に展開された。
 本報告は、放送を語る会がこの期間実施したテレビ報道番組のモニターの結果をまとめたものである。モニター期間は、5月15日から、
7月6日までのほぼ50日間、対象にした番組は以下の通りである。

デイリー(毎日、あるいは月~金曜日放送)のニュース番組
  NHK 「NHKニュース7」「ニュースウオッチ9」「クローズアップ現代」
  日本テレビ「NEWS ZERO」
  テレビ朝日「報道ステーション」
  TBS  「NEWS23」
週一回のニュース番組
  読売テレビ(日本テレビ系列)「ウエークアップ!ぷらす」
  テレビ朝日 「報道ステーションSUNDAY」
  TBS  「報道特集」「サンデーモーニング」
  フジテレビ 「新報道2001」
 
モニターの方法は、各番組の担当者を決め、放送日ごとに内容の記録と担当者のコメントの報告を求めるというもので、記録はメンバー全体で順次読めるように共有した。これはこれまでの当会のモニターの方法と変わりはない。結果として各番組合計150日分、A4でおよそ340ページのモニター報告が集まった。

1、テレビ報道全体の傾向~テレビジャーナリズムに問われたもの~

 集団的自衛権の行使容認は、直接わが国が攻撃を受けていなくても外国軍(具体的は米軍)の海外での戦闘に自衛隊が参加する道を開いた。戦後日本の国のありかたを質的に大きく転換するこの事態について、ジャーナリズムはどのような姿勢で臨むべきであったか。
 
憲法9条に基づく平和主義の視点からこの政治過程を批判的にみる必要はいうまでもないが、さらに重要なのは憲法前文である。
 前文には周知のように「日本国民は(中略)政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうに決意し……」という文言がある。これは、戦争を起こすのは政府であって、国民はそうさせないように決意した、という宣言である。
 その決意を実行するためには、国民による「政府の行為」の監視が必須であり、とりわけジャーナリズムにこの任務が求められる。集団的自衛権の行使容認に至る経過は、まさにこの「政府の行為」を監視する機能をジャーナリズムに強く求めていた。
 この観点で、集団的自衛権報道全体を振り返るとき、一部の番組を除いて、このような憲法の精神からの批判的報道はかならずしも多くなかった。むしろ逆に政府与党の主張の伝達を中心に報道する番組さえあった。
 昨年の秘密保護法報道でもその傾向はみられたが、集団的自衛権報道では、まがりなりにもジャーナリズム本来の目的にそって報道しようとする番組と、政府広報に近い番組とが鋭く分岐した。新聞メディアですでに顕著なこの「二極対立」がかつてなく鮮明になったのである。これが今回のテレビニュース報道の特徴のひとつであると言える。
 デイリーニュースでは、どちらかと言えば前者に属するテレビ朝日「報道ステーション」、TBS「NEWS23」と、後者に近いと見られるNHK「ニュース7」「ニュースウオッチ9」の差が明らかになった。
 週一番組では、前者はTBS「報道特集」「サンデーモーニング」であり、後者の代表はフジテレビ「新報道2001」である。日本テレビ系列の「ウエークアップ!ぷらす」にも政府与党寄りの傾向が見られた。
 以下こうした「二極対立」の状況を、モニター記録からたどってみる。

2、デイリーニュース番組

 デイリーニュースでは、前述のように、行使容認に批判的なスタンスのテレビ朝日、TBSのニュース番組と、どちらかと言えば政府与党の見解、行使容認の考え方の伝達を中心とするNHKのニュース番組が鋭い対比を見せた。
 とくにNHKのニュース番組は、今回のモニター活動でチェックした結果、その際立って政府広報的な報道姿勢が明らかになった。このことは、今回のテレビ集団的自衛権報道での注目すべき特徴である。
 行使容認に向かう過程の重要な報道内容について、NHKの代表的なニュース番組「ニュースウオッチ9」と、民放でよく視聴されている、「報道ステーション」「NEWS23」の3番組を比較することとしたい。
 モニターしたデイリーニュースでは、他に日本テレビ「NEWS ZERO」があるが、この番組は集団的自衛権問題を簡単にしか取り上げない日が多く、今回の検討の対象から外すこととした。

1)安保法制懇報告書の提出と安倍首相会見

 この動きがあった5月15日、「ニュースウオッチ9」は安倍首相の記者会見の内容を伝えることに重点を置いていた。「ニュース7」では、担当記者が「安倍首相は有事の際の米艦防護を例に分かりやすく問いかけた」と肯定的に解説、「ニュースウオッチ9」は、礒崎陽輔首相補佐官をスタジオに招いて政府の考え方を聞いた。
 政府がどう主張しているかを質すことは意味があるが、批判的にみる姿勢がないと政府の主張を一方的に宣伝する機会を与えることになる。しかしNHKのキャスターによるインタビューは、政府見解を引き出すことに終始し、批判的な見解を並置することは行われていない。この日の「ニュースウオッチ9」は政府の主張を効果的に伝える結果となった。
 「報道ステーション」は、会見の内容を伝えるだけでなく、一方にある批判的な見解も併せて組み込んでいる。防衛省出身の柳澤協二氏は、邦人輸送の米艦防護について「人情話としてありうるかもしれないが、アメリカの船はアメリカ軍が守るのが常識」と述べ、その非現実性を指摘した。また、この日の放送では、憲法学者の小林節氏が「集団的自衛権を部分的にも解禁することはいざとなったら他国の戦争に付き合いますよという国際声明だ」と批判した。
 「NEWS23」は、自民党石破幹事長をスタジオに招いてインタビューした。与党関係者だけの生出演は、同日の「ニュースウオッチ9」の場合と同じ危険をはらむが、この番組の場合、インタビューの間に阪田雅裕元内閣法制局長官の「9条をどう読んでも容認は導けない」という見解などを織り込み、キャスターが「“必要最小限”とは極めてあいまい」「戦場での殺傷という具体的な問題に一切ふれていない」という厳しい批判を石破幹事長にぶつけている。
 また解説役の岸井成格氏は「なぜ憲法改正でやらないのか」と発言して、石破幹事長に迫った。同じように行使容認推進側の政治家をスタジオに呼んだ「ニュースウオッチ9」と姿勢の違いが感じられる放送だった。

2)与党協議と閣議決定を問う報道

 与党協議は閣議決定へ向かう重要な動きであり、3番組ともにかなりの時間量でその動向を伝えたが、中でもNHKのニュース番組は突出した特徴をもっていた。
 この間の「ニュースウオッチ9」は与党協議の動向を伝えることに圧倒的な時間を当てている。5月と6月の放送の大半は与党協議の内容、見通し、その解説などに終始し、この動きそのものを批判的に検討する、という姿勢はほとんどなかった。
 こうしたNHKの与党協議偏重の報道では、そもそも「集団的自衛権」は容認できるかどうか、という根本的な対立点についての取材や考察は不問に付されている。集団的自衛権に関する本質的な関係が、自民党対公明党ではなく、自公政権対国民であるという点が無視されていた。むしろこの間の「ニュースウオッチ9」には、国民の関心を与党協議のワクの中に限定する作用があった。また、憲法解釈の変更を時の内閣の閣議決定で行ってよいかという批判的な視点はほとんどなかった。
 これに対して「報道ステーション」は、与党協議の動向を伝えるものの、その内容を批判的にみる識者の発言や、コメンテーターの指摘も併せて番組を構成していた。同時に、国会の審議や、国民の意思を問うことなく閣議決定することへの批判も欠かしていない。この点は、NHKとの姿勢の大きな違いが見られた。
 また、6月9日の放送では、恵村順一郎朝日新聞論説委員が「9条があればこそ自衛隊が海外に派兵されても、武力行使はしないで来た。それが殺し、殺される軍隊になる。(中略)憲法96条というのは憲法改正を承認するのは国民だと定めている。内閣が主権者である国民の気持ちを問わないで決めていいのかが問われている」とコメントした。同様の指摘はこの番組で何回かくり返されている。
 「NEWS23」では、岸井成格氏が6月16日の放送で「何回も言うが、これだけ重要なことを、憲法改正ではなく、何で解釈改憲にするのか。なぜ急ぐのか。安倍氏は自分の口から説明していない」と批判した。

3)政府与党の主張に対する批判、反対運動の報道

 与党協議や安倍首相の記者会見で、行使容認の方針や主張が順次明らかにされた。これに対し、国民の懸念や批判も強まった。各種世論調査でも、集団的自衛権行使への賛否は拮抗しており、閣議決定を急ぐことについては批判が支持を上回った。
 政府与党の主張がメディアで大きく取り上げられ、閣議決定が避けられない一方的な力関係の中で、放送における政治的公平を確保するためには、一方にある行使容認に批判的な見解をきちんと伝えることが必要であった。
 集団的自衛権行使容認の主張を批判的に検討する際重要なことは、単に文言の上での検討ではなく、歴史と現在の事実の取材・調査によって検証する姿勢であり、この問題の「現場」はどこかを探り、取材することであった。
 集団的自衛権の問題で取材すべき現場とは、自衛隊が派遣されたイラク、自衛隊員とその家族、米軍基地の集中する沖縄、NGOが活動する途上国、そして市民が反対の声をあげている国会周辺などであったはずである。
 このような視点で3番組をみてみると、「ニュースウオッチ9」にはこうした調査も取材も見られず、批判的報道がないことが明らかになった。反対の立場の識者を登場させることもほとんどなかった。わずかに7月1日の放送で、元内閣法制局長官の阪田雅裕氏の「閣議決定は何の歯止めにもなっていない」という発言を伝えただけである。それも長さ33秒にすぎず、閣議決定賛成の中西寛京大教授とペアでの紹介であった。
 これに対し「報道ステーション」は、与党の政治家や、安保法制懇の岡崎久彦氏など行使容認側の主張をかなりの時間量で紹介する一方、これに批判的な識者、論者を数多く登場させ、また歴史的事実の中で考えようとしていた。この姿勢はデイリーニュースの中では抜きん出ていた。たとえば「米艦船防護」について疑問を呈し、母親や赤ん坊のイラストを示した首相の説明に「感情論が先行すれば武力行使の制限がなくなる」と批判する元海上自衛隊の小原凡司氏(5月26日)、海外で活動するNGOにとって自衛隊の支援はかえって危険という日本国際ボランティアセンター代表理事の谷山博史氏(526日)、同じような批判として、アフガニスタンで活動するNGOペシャワール会の中村哲氏の、「制服を着た日本人が国土を踏みにじらなかったことをアフガン人は知っていて日本に好感を持っている。自衛隊を送るとなれば私は引き上げる」といった批判も紹介した。(6月27日)
 このほか、日米安保は米軍に広く基地使用を認めており、決して片務的な性格ではない、と主張する中島岳志氏(6月6日)、行使容認への動きを「国民が全く関与できないところでやるのは暴挙」という浜矩子氏(6月13日)、といった著名な論者も登場させた。
 この番組では、自民党政治家による行使容認の批判を伝えたことも注目される。湾岸戦争のとき、自衛隊派遣を断った体験から集団的自衛権容認を批判する海部俊樹元首相は、「9条が生きる戦争がない世界は守り抜かないといけない」と発言した。(6月9日) 米側から要請されたアフガニスタンへの自衛隊派遣を断った元自民党幹事長の山崎拓氏は、「集団的自衛権を認めることは他国と戦うことになる。相手の兵士も自衛隊員も殺すことになる、これは大責任問題だ」と語っている。(6月27日)
 「NEWS23」は、解説者の岸井成格氏が閣議決定へ向けた与党協議に早くから批判的であり、番組も貴重な証言や国民の批判を比較的丁寧に伝えようとしていた。 
 6月4日には「高校生と集団的自衛権」というテーマで、授業で集団的自衛権を取り扱った立命館宇治高校の取り組みを紹介した。69日は、安保法制懇のメンバーの一人、防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏の証言を取り上げた。佐瀬氏は番組で「法制懇は初めから結論ありきで、自由に議論を交わす十分な時間も与えられず、資料を部屋から持ち出すことも一切禁じられ、ゆっくり読み返すこともできなかった」と内部告発している。
 623日の「沖縄慰霊の日」には、取材で沖縄にいた岸井成格氏と太田昌秀元沖縄県知事との対談を放送した。太田氏は対談の中で、「いま憲法を変えて、あるいは解釈を変えて集団的自衛権を行使するとなると、次の戦争が起きたら真っ先に沖縄は戦場になる」と訴えた。この日の放送は、沖縄にとって集団的自衛権の行使容認が本土とは比べ物にならないほど切実な問題であることを伝えていた。
 6月30日は、官邸周辺のデモを生中継するとともに、国会内で開かれた「国民安保法制懇」の集会の模様を伝え、メンバーの小林節慶応大学名誉教授の「今回の行為は解釈に名を借りた憲法の破壊だ」という訴えを紹介した。

 集団的自衛権については、早くから反対運動があり、閣議決定に対する国会周辺でのデモ、日比谷野外音楽堂での大規模な集会、全国各地での抗議集会などが繰り返された。
 3番組の中で、「報道ステーション」「NEWS23」は、期間中数回にわたってこれらの抗議行動を伝え、参加者の声も丁寧に紹介した。閣議決定前日の6月30日は、「NEWS23」が、官邸前抗議デモを生中継し、当日の7月1日は両番組とも官邸前から中継した。
 これと対照的に「ニュースウオッチ9」は、全国の反対運動をほとんど無視し、伝えていない。わずかに6月30日に長崎での集会を27秒、7月1日に官邸前デモを17秒伝えるにとどまった。あとはナレーションのバックに映像を短く流すだけ、という扱いであった。

4)閣議決定当日(7月1日)の報道

 閣議決定を受けた71日の3番組の内容を比較しておきたい。
「報道ステーション」は、官邸前を埋め尽くした抗議デモの生中継から番組を開始し、閣議決定に至る経過や、その内容についての政府与党の主張、また、批判の意見などを多角的に伝えた。 
 この日の放送では、他国が攻撃を受けた時も武力行使ができるという、閣議決定の核心についてのナレーションがあり、集団安全保障での武力行使は閣議決定にないが、政府は可能だとしている、といった重要な指摘も含まれている。この重大な転換点にあたって、恵村朝日新聞論説委員は次のように痛烈に政府与党を批判した。
 「今回の問題では3つの悪しき前例を残した。一つは一内閣の閣議決定によって憲法の平和主義を捻じ曲げてしまった、立憲主義の破壊だ。二つは選挙に勝ちさえすれば数の力で押し通していいという前例を残した。三つ目は国民に説明しないという前例。集団的自衛権の本質は他国の戦争に参加するというのだから、自衛隊が殺し、殺される可能性は高いのに、国民に覚悟を問わない」
 このコメントを視聴者が一方的だと受け取る可能性もあるが、わずか14時間の協議で戦後平和主義の大転換を行ったことに国民の批判は強く、この発言は説得力を持つ形となった。
 「NEWS23」は、「報道ステーション」と同じく官邸前抗議行動のナマ中継を番組に組み込んでいた。官邸前だけでなく、広島での反対デモも紹介、市民の「言葉にならないほど腹が立っている。また戦争ができる国にするなんて」「戦争に行くのは一般国民、自分たちは行かない。非常に危険を感じる」といった切実な声を伝えている。

 また、番組の途中でも、「官邸前デモはまだ続いている」と中継を入れ、参加者の声を丁寧に拾っていた。
 この日の放送では、半藤一利、澤地久枝という、影響力の大きな識者のインタビューを挿入している。半藤氏は「日本はもはや、後戻りできない地点(ポイント・オブ・ノーリターン)にまで来てしまっている」と述べ、澤地氏は「あの時すでに戦争が始まっていた、というイヤな事態に進むのではないか、戦争とは、いつもこうしたことが始まりになる。それを防ぐために憲法9条があるはずだ」と訴えた。
 解説の岸井氏も、「アリの一穴から堤防が崩れる。憲法は人類の未来を先取りした世界に誇るべき堤防だ。それを政府与党が力で壊しにかかっている」と批判した。
 こうしてみると、「NEWS23」「報道ステーション」も、与党協議と閣議決定にたいして抵抗しようがなかった国民の不安、批判の声を反映する役割を果たしたといえる。
 一方、同日の「ニュースウオッチ9」は、この二つの民放番組とはまったく違う姿勢の放送となっていた。閣議決定の内容を批判的に検討しようという姿勢はどちらかといえば希薄で政府与党の主張と、閣議決定の内容についての
記者解説に終始した。
 番組中挿入された安倍首相の記者会見の内容は「閣議決定は日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく大きな力を持っている。これが抑止力だ」というものだった。
 同じ番組の中で、大越キャスターは、日本の安全保障の歴史について解説し、集団的自衛権の容認の歴史的段階を「これまでとは別のステージに入る。つまり“協力”から“抑止”へ。集団的自衛権というカードを持つことで、日本への脅威を抑止するという性格が強まる」と述べた。これは行使容認が「抑止力」が目的だという安倍首相の主張とほぼ同一の認識を語るものであった。

5)NHKの集団的自衛権報道の特徴

 これまでみてきて明らかなように、NHK「ニュースウオッチ9」には集団的自衛権行使容認に対する批判的な論議は皆無に近かった。
  次表は、3つの番組が批判的な立場の出演者をどれだけ番組に登場させたかを、論議を呼んだ項目別に一覧にしたものである。この表は、番組が行使容認を批判的に検討したかどうかを同時に示すものでもある。 (カッコ内は出演した放送日。放送期間515日~7月1日。NHKの場合を除き、非常に短いインタビューは除外した。)。

主張の種

報道ステーション

NEWS23

ニュースウオッチ9

集団的自衛権行使容認そのものへの批判、慎重論

小林節 (5/15

中島岳志(6/6

海部俊樹 (6/9

大田昌秀(6/23

姜尚中(6/27

半藤一利(7/1

澤地久枝(7/1

阪田雅裕 (7/133

閣議決定による憲法解釈の変更批判

小林節(6/3(7/1

山崎拓(6/27

古賀茂明(6/27

姜尚中(5/16

真山仁(6/13

小林節(6/30

「邦人輸送の米艦防護」批判

柳澤協二(5/15

小原凡司(5/26

機雷掃海は戦闘行為という指摘

柳澤協二(5/15

山崎拓 (6/20

水島朝穂(6/16

NGOへの駆けつけ警護批判

谷山博史(5/26

中村哲(6/27

集団安全保障での武力行使批判

柳澤協二(6/3

小川和久 (6/6

【参考】

政府与党のスタジオ生出演

山口公明党代表(5/20

石破自民党幹事長(5/15

礒崎首相補佐官(5/15

山口公明党代表(6/26

高村自民党副総裁(6/27

【参考】

抗議デモの報道

数回にわたって市民の抗議デモを取材、参加者のインタビューを伝えた。

71日は官邸前から生中継を実施

数回にわたって市民の抗議デモを取材、参加者のインタビューを伝えた。630日、71日は官邸前から生中継を実施

この期間中、627日に13秒、30日に27秒、71日に17秒、計わずかに1分弱しか紹介していない。ほとんどがナレーションのバックの映像という扱い。


 5月15日から7月1日まで、「ニュースウオッチ9」の集団的自衛権関連の放送をチェックしたところ、与党協議の経過や内容、安倍首相記者会見、礒崎首相補佐官、高村副総裁、山口公明党代表のスタジオインタビューなど、政府与党の主張の紹介が放送全体のおよそ7割を占めている。
 あとは記者の解説、国会審議のダイジェスト、街の声、各党の反応、といった内容であり、上記の表でわかるように、国会外の批判的な見解は取り上げられていない。抗議デモなど市民の行動にも極めて冷淡である。
 一回の放送を視聴しただけでは分からないが、一定期間通してみたとき判明したこの偏りは指摘しておかなければならない。行使容認については、視聴者・国民の中に反対の声が強く、また識者の有力な反対意見も存在した。このような批判、反対の声に対して放送内容は公平とは言えない。
 放送法第4条は、放送番組の編集に当って、「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定めている。この間の「ニュースウオッチ9」の内容は、この規定に違反する疑いが強い。
 与党協議や政府の主張を伝えることは重要であり、「ニュースウオッチ9」に、集団的自衛権反対の立場に立てと要求しているわけではない。しかし、反対、批判の声を遮断して、政府与党に関する情報の伝達を主要な任務とするかのような報道は、政府から独立した公共的な放送機関というNHKの建前に反する。

3、週一回のニュース番組

 週一回のニュース番組については、前述のように政府の広報のような番組と、批判的な視点を持ち続けた番組とに明確に分かれた。週一回の番組に共通する傾向を抽出することは困難なので、番組ごとの特徴を概括的に示しておきたい。

読売テレビ(日本テレビ系列)「ウエークアップ!ぷらす」(土曜午前8時~)
 
期間中、集団的自衛権問題を扱ったのは5回。その内5月17日と6月28日に比較的長い特集を組んでいる。
 この番組では、集団的自衛権行使容認の是非についての本質的な議論はほとんど行われなかった。 5月17日は、石破幹事長に集団的自衛権行使の必要性について長々と発言する機会を与えるとともに、解釈改憲によるか、憲法改正によって集団的自衛権行使を認めるかに焦点が絞られ、集団的自衛権行使そのものに反対する意見は、討論の中では聞かれなかった。
 6月28日の放送分では、元アメリカ国務省の日本部長や、元駐米大使をゲストに迎え、日米安保条約を重要と考え、集団的自衛権行使容認を歓迎し、安倍首相を評価する発言を中心とする討論が行われた。批判的立場の加藤タキ氏の発言時間は極めて少なく片隅に追いやられていた。 集団的自衛権行使容認が、閣議決定で決められようとしていることの是非や、反対世論や運動が大きく広がっているのに、明確な反対論者を出演させなかったこの番組は偏向との批判を免れない。

テレビ朝日「報道ステーションSUNDAY」(日曜午前10時~)
 この番組は、デイリーの「報道ステーション」と同じようなスタンスで集団的自衛権問題を報じようとしていた。長野智子キャスターは、行使容認に批判的な姿勢を持っており、コメンテーターの政治ジャーナリスト後藤謙次氏と朝日新聞論説委員の星浩氏も批判的な立場で論評している。
 このスタンスの下で、重要な証言、コメントが放送されたことはこの番組の特徴となっている。たとえば5月25日、第一次安倍内閣の官房副長官補だった柳澤協二氏のインタビューを紹介したのはその一例である。柳澤氏は、「総理の記者会見は、憲法上も許されている個別的自衛権で解決可能な事例を並べ立てた欺瞞的な内容」「総理は、いざとなったら、戦闘にも参加してアメリカと行動を共に出来る血の同盟を実質化することだという狙いを隠さず、国民に訴えるべきだった」と語った。かつて安倍首相の協力者だった人物からこのような証言を引き出したことは評価される。

TBS「報道特集」(土曜午後5時30分~)
 この番組の報道姿勢は、秘密保護法報道とあわせて、2014年の日本ジャーナリスト会議賞を受賞した。週一回の報道番組の中では、ジャーナリズムの精神に基づく優れた報道を貫いていたと言える。本報告の上でもこのことは特記しておきたい。
 その特徴は次の
三点に集約される。
 第一に、集団的自衛権容認の動きに対して、取材した事実を対置して検証しょうという姿勢があったこと。
 たとえば、
7月5日放送では、イラク戦争で「後方支援」と言っていたにもかかわらず、アメリカの要請によって航空自衛隊が武装した米軍を空輸し、その米軍はイラク市民を殺傷した事実を伝えた。こうしたイラク戦争の検証なしで集団的自衛権を議論できないという批判は重要である。関連して、イラク自衛隊派遣違憲訴訟の弁護士が「国はウソをつきながら戦争する」という見解をのべている。いずれも、番組では政府与党の主張を鵜呑みにせず、歴史的事実を踏まえた検証がはかられている。
 
第二に、海外からの視点を含む、憲法の原点からの批判が展開されたこと。7月5日の放送では、ドイツで取材していた金平茂紀キャスターがドイツ人の懸念を紹介し、1933年のナチスによる「全権委任法」がワイマール憲法を死文化させた歴史にふれ、日本の状況はこれに似ていると警告している。
 国際的な視点で、武力行使しないできた自衛隊の評価を伝えたのも重要な視点である。6月21日は、アフガンで用水路工事をしてきた中村哲氏の、「こうした活動は“日本が軍隊を出さない”ことが前提」であり、「“駆けつけ警護”なんかされると困る」という重要な主張を伝えた。 また、7月5日放送では、イラクで活動するジャーナリストの安田純平氏が、「日本の自衛隊は素晴らしかった」というイラク住民の声と同時に「もし自衛隊が米軍と同じように戦うなら、自分たちは自衛隊員を殺す」と言っていると報告した。
 こうした海外での受け止め方の報道は他局には乏しく、国際的に集団的自衛権の問題を考えるうえで大きな判断材料となった。
 
第三に、懸念し、反対する市民の声を重視していたこと。
 5月17日の放送では、安倍首相記者会見の発言に対し、ひとつひとつ「全日本おばちゃん党」の谷口真由美さんの発言を組み合わせて、安倍首相の主張を“相対化”する試みがユニークであった。7月5日の放送では官邸前デモの参加者の一人の女性に密着してその思いを聞いている。
 以上のように、この番組は、集団的自衛権の閣議決定に反対と明言してはいないが、批判的に捉える重要な視点をほとんど網羅している。テレビによる集団的自衛権の報道の中で評価すべき独自の地位を占めていたと言える。

TBS「サンデーモーニング」(日曜午前8時~)
この番組は、寺島実郎、佐高信、目加田説子、西崎文子、姜尚中、澤地久枝、といった集団的自衛権に批判的な論者を出演させ、批判の論点を説得力ある形で示し続けた。また、「NEWS23」で批判的コメントを展開している岸井成格氏もコメンテーターとして加わっている。
 番組の出演者の発言には傾聴すべき内容が多い。たとえば6月22日、目加田説子氏の「憲法がなし崩し的に潰されかかっていて、この国の形が根底から変わろうとしている。にも拘らず、声が上がってこないのが不思議だ。市民社会もメディアもこの危機感を社会全体で共有すべき」という発言、76日、西崎文子氏の「(行使容認は)自衛隊が海外で武力行使できるようにしようということ。それは今までと根本的に違う。際限がなくなるということだ。もう一つ重要なのは内閣の権限拡大だ。行政を司る内閣が凄まじい権力を持つことを意味する」という発言などが印象に残る。
 こうした見解を伝えることで、この番組は集団的自衛権問題を考えるうえでの批判的視点を提出してきた。

フジテレビ「新報道2001」(日曜午前7時30分~)
 期間中、この番組が集団的自衛権を扱ったのはわずかに2回。しかし、その内容はあからさまな政権寄りのものだった。とくにコメンテーターのフジテレビ平井文夫解説副委員長の発言は露骨に政権を支持する内容になっている。
 5月18日の放送で平井氏は、「公明党との協議で話し合いがつかない場合には連立から引いてもらい、維新やみんなの賛成で法律を通せばよい。公明党という小さな党が反対しているからできないというのは国民から納得されない」と述べた。7月6日には、「集団的自衛権行使があくまで悪いかのごとく一部メデイアが宣伝し続けたことに国民は惑わされたと思う。そうであっても安倍さんには、安保改革をちゃんと続けてほしい」などと発言している。
 コメンテーターが自らの意見を言うのは自由であるが、この番組では全体として政府関係者の出演を軸に集団的自衛権賛成の立場で進行し、批判派の出演は見られない。したがって番組として公平を欠く。これほど大政翼賛的な番組も珍しく、フジテレビのこの番組の内容は、放送法第4条の「政治的に公平であること」という規定に違反する疑いが強い。

4、集団的自衛権報道への要請

 今後は閣議決定を受けて関連法案の国会審議が始まることになる。このとき、国会の動向のみの報道に陥らず、集団的自衛権の本質を見据えた充実した報道をテレビ各局に求めたい。さらに、法的な整備が進めば、近い将来、自衛隊が米軍と共同で武力行使に踏み出す事態が現実のものとなるかもしれない。
 そのような重大な事態に、日本のテレビ報道は、政権から距離を置き、社会の“愛国主義”的な圧力に抗して冷静に批判的報道が行えるであろうか。今回の集団的自衛権報道のモニター活動は、こうした将来の報道の在り方を占う意味ももっていた。
 その意味では日本最大の放送機関であるNHKの姿勢には、重大な懸念を持たざるをえない。 NHKに対しては、視聴者国民の監視と批判がこれまで以上に重要となっている。

 かつて戦争への動きに協力し、国民を戦争に動員したメディアの反省に立つとき、自衛の名のもとに武力行使を正当化するような政治や、社会の空気に対し、テレビジャーナリズムが抵抗し、批判することが極めて重要である。
 今回の集団的自衛権報道では、一部のニュース番組が批判的報道を貫いた。それを評価する一方で、テレビ報道の取り組みが事態の進行に対して「遅れている」という批判もあった。秘密保護法報道でも批判されたが、政府の動きが起こってからようやく集中的に報道する、という傾向がテレビ報道には根強くある。
 また、今回のテレビ報道では、集団的自衛権問題を取り扱わないか、あるいはごく短く与党協議を伝えるだけ、というニュース番組も存在した。NHKの「クローズアップ現代」に至っては、閣議決定に至る期間中、まったくテーマとして扱わなかった。国家の在り方を変えるほどの重大な問題で、このような「不作為」の態度は問題である。
 ジャーナリズムの役割の一つは、危険な事態が起ころうとするとき、民衆に先んじて警告する任務を果たすことである。
 今後の集団的自衛権にかかわる報道では、集団的自衛権の行使容認が危険な事態を招く前に、現実を厳しくとらえ、視聴者市民に提起する先見性を求めたい


                 資料(PDF版)