語る会モニター報告

    安保法案国会審議・テレビニュースはどう伝えたか
        2015511日~927日-

             20151125日 放送を語る会

  目次
    はじめに

1、国会審議期間中の対象ニュース番組全体の傾向
2、ニュース番組は法案の問題点や政府・与党の動きにどう向き合ったか
3、法案に関連する重要事項について、独自の取材による調査報道はあったか
4、市民の反対運動が、その規模に応じて適切に紹介されていたか。また、識者の法案に対する言論などがきちんと伝えられていたか 
5、今後、「安保法制下」のニュースに望むこと
       
付表1、NHK「ニュースウオッチ9」が報道しなかった事項
       付表2、安保法案に反対する市民の主要な行動と報道の有無


   はじめに
 2015919日未明、安倍政権は安全保障関連法案を強行成立させた。法案は、集団的自衛権行使容認の閣議決定に基づいて、自衛隊の海外での武力行使に大きく道を開き、日本国憲法下の戦後政治の大転換をもたらすものであった。
 法案が閣議決定された5月から927日の国会会期の終了まで、5か月にわたる国会審議をめぐって、法案自体の批判、検証の必要性はもとより、立憲主義、国民主権の侵害、破壊、といった問題も提起され、同時に国民各層に拡大した反対運動もまた、60年安保闘争に比肩する規模と評価された。
 激動と言ってよい政治過程で、問われた問題は多岐にわたる。このような重大な歴史的時期に、報道機関はどうあるべきだったか、とりわけ影響力の強いとされるテレビニュースが、どのようにこの政治過程を報じたかは、どうしても記録し、検証する必要があった。
 本報告は、放送を語る会が5月から9月まで、NHKと民放キー局の代表的なニュース番組をモニターした結果をまとめたものである。当会は、この活動を通じ、報道機関がジャーナリズムの本道に従って権力を監視する姿勢を貫くことができたか、また、市民の政治的判断に資する多様で多角的な情報や意見、見解を提供し得たのか、番組を視聴し、記録した内容を通して考察することを試みた。
 対象としたニュース番組は次の6番組である。
       NHK「ニュース7」
       ○NHK「ニュースウオッチ9」
       ○日本テレビ「NEWS ZERO」
      
テレビ朝日「報道ステーション」
      
TBS「NEWS23」
      
フジテレビ「みんなのニュース」

 
放送を語る会のモニター活動は、2003年のイラク戦争の報道モニターから数えて、今回で17回目となる。これまで原発災害、衆参の国政選挙、TPP、秘密保護法、集団的自衛権閣議決定などの重要な国政の動きがあるたびに、テレビ番組のモニターを実施してきたが、今回はかつてなく長期のモニター活動となった。
 記録した放送回数は対象番組合計およそ390回分、担当メンバーからの報告はA4で合計950ページを超えた。その大量の記録から、次のような項目に従って整理し、報告したい。

  1、国会審議期間中の対象ニュース番組全体の傾向
  2、ニュース番組は法案の問題点や政府・与党の動きにどう向き合ったか
  3、法案に関連する重要事項について、独自の取材による調査報道はあったか
  4、市民の反対運動が、その規模に応じて適切に紹介されていたか。また、識者の法案に対する    言論などがきちんと伝えられていたか
  5、今後、「安保法制下」のニュースに望むこと

なお、長期にわたるモニター活動となったため、国会が延長される前の624日までの放送分については、「安保法案の国会審議・テレビはどう伝えたか~中間報告・511日~624日」として8月19日に発表した。(当会ホームページに掲載)
 本報告は、この「中間報告」の時期も視野に入れた全体にわたるものであるが、力点を延長国会以降の時期においている。そのため6月24日以前のモニター内容の詳細はこの中間報告を参照していただきたい。

 モニターの方法は、それぞれの番組に1名から3名までの担当者を決め、放送日ごとに安保法案関連ニュースの内容と担当者のコメントの報告を求めるというものである。その記録はメンバー全体で共有し、検討して最終報告書を作成した。これはこれまでの当会のモニター方法と変わりはない。

1、国会審議期間中の対象ニュース番組全体の傾向
   ~NHKニュースの「政府広報化」の進行、「報道ステーション」
    「NEWS23」に見られた批判的姿勢~


 5か月間の番組チェックを通して浮かび上がってきた最大の問題は、NHK政治報道の政府寄りの偏向である。今回の安保法案報道において、それは、「政府広報」と批判されてもやむを得ない域に達していた。
 期間中の8月25日、たまりかねた市民が1000人規模でNHK放送センターを取り巻いて、「怒りのNHK包囲行動」と題する集会を開催し、「政権べったりの報道をやめろ」と抗議の声をあげた。
 また、117日には、「怒りのNHK包囲行動第2弾」が敢行された東京では放送センター西口での集会のあと、渋谷の繁華街で「アベチャンネルはゴメンだ」といったプラカードを掲げてデモが行われ、注目された。このほか全国11か所で、地域の放送局前での抗議集会、スタンディングアピール、ビラ入れの行動が展開された。
 こうした市民のNHKに対する直接の抗議行動はNHK史上例のないものである。市民の怒りの行動は、この間のNHKの安保法案報道がどのようなものであったかを端的に示している。行動は十分に理由のあるものだった。
 政府からの独立が建て前の公共的放送機関として、その存立にかかわる危機的な状況と言える。
 特定の一日だけに限定してみれば、NHKニュースには、さまざまな取材内容が客観的な装いで並べられ、とくに問題がないかに見える。しかし、長期にわたって他局の番組や新聞報道と比較してみたときに、その政府広報的な報道姿勢はあきらかである。本報告では各項でこの点を実証的にたどってみることにする。

 一方、民放ニュースの中では、テレビ朝日「報道ステーション」、TBS「NEWS23」が、政権を監視するジャーナリズムのスタンスで批判的な報道を展開していた。
 NHK「ニュース7」「ニュースウオッチ9」とこの民放2番組との違いは、過去のモニター報告書の中で何回も指摘してきたが、安保法案報道ではその傾向がさらに顕著となった。

 このほか、フジテレビ「みんなのニュース」は、安倍首相・政権寄りの姿勢が目立った。特に7月20日には、安倍首相を単独・生出演させ、1時間半もかけて安保法案の必要性を述べさせた。この席には法案に批判的な研究者、ジャーナリストなどのゲストは招かず、与党寄りの新聞社の解説委員や、自社の報道局幹部などを出席させ、安倍氏には彼自身の持論に基づく火事場のイラストを使って、米軍との共同行動に基づく“戸締り”必要論などを説明させた。
 「みんなのニュース」は全体を通して法案推進の宣伝役という印象が強いニュース番組であった。


 日本テレビ「NEWS ZERO」
は、関連報道の時間量が毎回少なく、ニュースのオーダー(報道順)でもかなり後に置かれることが多かった。通常夜11時からの番組で、安保関連ニュースの放送オーダーは40分以降が14回、10分台が11回、その他が5回、という状態であり、放送時間量も1分以内が5回、2分以内が9回で、重要項目としての扱いではなかった。こうしたことから、前半の報道では安保法案重視の姿勢がそれほど感じられなかった。
 しかし、
9月の最終盤では、一定の時間をかけ、強行採決への批判的な立場を強めた。村尾信尚キャスターは、法案が対米従属の法律であると指摘し、法案のしわ寄せは自衛隊員に来ることを独自取材で明らかにするなど、法案への疑問を提示した。
 「NEWS ZERO」は、前半と最終盤の印象がかなり違うのが特徴であった。
 以下、「ニュース7」、「ニュースウオッチ9」と、「報道ステーション」「NEWS23」に限定して、それぞれの全体的な特徴にふれておきたい。

1)NHK「ニュースウオッチ9」
 
前記「中間報告」では、延長国会前のNHKの報道姿勢について、その特徴を次のように指摘した。
 「ひと言で言えば、政権側の主張や見解をできるだけ効果的に伝え、政権への批判を招くような事実や、批判の言論、市民の反対運動などは極力報じない、という際立った姿勢である。法案の解説にあたっても、問題点や欠陥には踏み込まず、あくまでその内容を伝えることに終始している。また、法案に関連する調査報道は皆無に近い」

 この傾向は、終盤9月に至るまで変わらず続いた。以下、各項目で改めて報告するが、ここでは放送全体にかかわる特徴をあげておきたい。

 政権にとってマイナスになるような出来事や審議内容を極力伝えない傾向

 
本報告末尾の【付表1】を見ていただきたい。
 これは、「報道ステーション」と「NEWS23」で報じられた内容で、「ニュースウオッチ9」が報じなかった事項の代表的な事例を一覧にしたものである。
 民放2番組がわが国のテレビニュースのスタンダードだという趣旨で作成した表ではない。しかし、こうした比較をするだけで「ニュースウオッチ9」がいかに重要な問題をネグレクトしているかがわかる。
 報じなかった事項の代表例としては、「ポツダム宣言を詳らかに読んでいない」とする安倍答弁、首相の「早く質問しろよ」などのヤジ、日本に対して攻撃の意思のない国に対しても攻撃する可能性を排除しないとする中谷大臣の答弁、「イスラム国」に対する軍事行動での後方支援も可能との中谷大臣の答弁、戦闘中の米軍ヘリへ給油する「後方支援」が戦争参加ではないかとする共産党小池副委員長の追及、また、「後方支援で」核ミサイルも毒ガスも法文上運搬可能、だという中谷大臣の答弁、などがある。
 このような重要な項目が放送されなかった、という事実は重いものがある。NHKニュースだけを見ている視聴者には、“なかったこと”になるからである。
 もうひとつ注目すべき事例としてNHKが独自に行ったアンケートの問題がある。
 NHKは6月に、日本で最も多くの憲法学者が参加する日本公法学会の会員、元会員に、安保法案について大がかりなアンケート調査を実施した。ところがその結果がいつまでたっても公表されなかった。このアンケートの締め切りは7月3日で、普通に集計すれば衆院採決前に結果の発表ができたはずであった。
 ところが、その結果は、衆院で法案が可決されたあと、ようやく7月23日の「クローズアップ現代」の中で2分程度で伝えられた。それによると、アンケートは1146人に送付され、422人が回答した。内訳は「違憲、違憲の疑い」が377人で約90パーセント、「合憲」とする意見が28人だった。
 圧倒的に「違憲」の回答が多い。普通ならこの結果自体が「ニュース」であって、それをもとに企画ニュースが組まれてもいいものである。しかも衆院採決前に発表してこそ意味があった。
 人員と予算を投入したこのアンケートを「クローズアップ現代」の1コーナー2分で紹介して終わりにするなど考えられないことである。実施担当者がそれを目指したことはあり得ない。結果が政権には明らかに不利であり、局内で発表にストップがかかった疑いが強い。
 ちなみに「報道ステーション」は同様のアンケートを行い、憲法学者149人中「合憲」としたのがわずか3人だったという結果を報告し、かなりの時間量でこの結果について特集を組んでいる。(6月15日)

 「政府広報」という印象はどこから生まれるか ~問題はらむ記者解説~


 「ニュースウオッチ9」での
政治部記者の解説は、政府・与党の方針・主張・思惑の説明が大半を占め、批判的な指摘はほとんど見当たらない。NHKニュースが「政権寄り」と批判される主要な要因の一つがこうした記者解説であろう。
 
716、衆院本会議可決後の政治部長解説では、衆院審議を「与野党の議論が噛み合わなかった」と論評、その原因を「合憲か違憲か根本的立場が違うので歩み寄りようがなかった」とした。しかし、この解説には、野党の質問に誠実に答える姿勢が安倍首相になく、はぐらかしや官僚のメモの棒読み答弁を重ねたことが「議論が噛み合わなかった」原因ではないか、という批判的視点は含まれていない。
 また、数を頼んで成立させようとする政府・与党の強権的な姿勢に対しても批判的視点が感じられなかった。
 記者自身が批判することが難しいとしても、多くの識者、言論人の声を取り入れて、この強行採決の問題を掘り下げることもできたはずである。しかし、そのような工夫はみられなかった。
 911、参院特別委審議の大詰めを迎えた政治部記者解説は、「国民の法案への反対意見が根強くあること意識してか、安倍総理や閣僚の答弁からは、懸念を払拭しようとする姿勢が随所に見られた」と政府の答弁を評価している。
 ここには、「懸念を払拭しようとする姿勢」とはうらはらに、邦人輸送の米艦防護や、ホルムズ海峡の機雷掃海の必要性について、首相の答弁が矛盾し、あいまいな答弁に終始したことへの言及はなかった。
 918日、参院本会議を控えての政治部長解説では、「今の流れのなかで今回の法案は、どんな意味を持つか?」というキャスターの問いに、「集団的自衛権行使容認は画期的で戦後安全保障政策の大きな転換」「自衛隊の海外活動の内容・範囲が拡がり、日米の防衛協力も拡充される」と、政府見解に近い法案の評価が語られている。
 この解説には、アメリカの戦争に巻き込まれる危険、海外での武力行使、高まる自衛隊員のリスクなど、人々の不安や反対の声のみならず、憲法を視野に入れたコメントもなかった。

 政府・与党の主張に傾斜 ~国会審議の伝え方~
 
 「政府広報」との印象を持たれる理由のもう一つは、国会審議の伝え方にあると考えられる。
 「ニュースウオッチ9」では、「報道ステーション」や「NEWS23」に比べて国会審議の紹介に充てられる時間が短い傾向がある。その時間内で、与野党の質問、首相、あるいは防衛大臣の答弁、という一問一答の編集スタイルが支配的だった。
 このスタイルでは、審議の紹介は必ず首相や防衛大臣の答弁で終わる形になり、政府答弁の印象が強く残る結果になる。
 「報道ステーション」では、ある重要な問題を明らかにするため、同じ質問者での一連の質疑が時間を取って紹介されることがしばしばあった。この編集では、答弁の矛盾や不備、法案の問題点が浮かび上がることになる。
 ところが「ニュースウオッチ9」では、
与党質問2人、野党質問3人、それに必ず安倍首相答弁を付けるスタイルがほぼ定型化していた。各質問への安倍答弁が5回、大まかな時間的比率は政府・与党主張7対野党主張3となる。
 こういう編集では、相対的に政府・与党の主張の割合が大きくならざるを得ない。この日の国会審議で、何が重要な問題なのかという視点で、審議内容を選択し、重点的に伝えるという姿勢は全体を通じて極めて乏しかった。
 典型的なデータを挙げてみる。
715日、衆院特別委での強行採決の日、質疑は与党質問2、野党質問3を取り上げたが、相変わらずどの質問にも安倍答弁が付されている。配分された時間を計算すると、政府・与党の見解・主張169秒(自+公議員の質問40秒+安倍答弁5122秒)vs野党質問40秒(民主+維新+共産)で、比率は4対1となる。
 
821日、例によって与党2(自民・公明)野党3(民主・共産・維新)の質問に、どれも安倍答弁がある。
 自民・公明の質問に対する二つの安倍答弁は、「日本が危険にさらされたとき日米同盟は完全に機能する。この事を世界に発信することで紛争を未然に防ぐ力が高まり、日本が攻撃受ける可能性は一層低くなる。国民の命と平和な暮らしを守る法制、今後もわかりやすく丁寧に説明したい」というもので、こうしたメッセージがこの期間中繰り返し伝えられる結果となった。
 
政府・与党の主張の重視の象徴的な表われとして記憶されるのは、814、 戦後70年談話を受けて安倍首相をスタジオに招いてその主張を聞いたことである。その中11分ほどが、安全保障関連法案に関する内容だった。
 キャスターは、「なぜ成立を急ぐのか」「憲法との整合性をどう説明するのか」「戦争に巻き込まれないか」など、それなりに人々の不安や疑問を代弁した質問をぶつけている。しかし安倍首相は相変わらず質問にまともに答えず、一方通行の独演会に終始した。キャスターも質問の二の矢は放たず、ご意見拝聴に終わった感があった。


2)NHK「ニュース7」


 「ニュース7」は、各局ニュース番組の中で、最も高い視聴率を獲得している。
 非常によく見られ、影響力が大きい。ただこの番組は、「ニュースウオッチ9」の半分の時間量で、キャスターが用意されたニュース原稿を読む、という基本的な性格を持っている。そのため独自のコメントや時間をとった企画などが入りにくいという事情はある。
 しかし、そのことを勘案しても、この番組は「ニュースウオッチ9」と同じ傾向を持ち、批判精神を欠くという指摘は避けられない。その事例をいくつか示したい。
 6月25
、自民党の「勉強会」の中で、批判的なメディアを「懲らしめる」発言が伝えられ大問題となった。
 「ニュース7」は、「――と述べた」「――と陳謝した」と伝えるだけで、ニュース番組としてこれをどう見たか、どう考えたかをせめて言外にでも伝えるという姿勢が見えなかった。報道に従事する者としては身に迫る圧力であるのに、そのような危機感は感じられなかった。
 ちなみに、新聞も民放のニュースでも、この事件を、「圧力」「威圧」といった用語を用いて表現し、抗議のニュアンスをにじませたが、NHKは「ニュースウオッチ9」も含めこのような用語は使っていない。

 また、安保法制ニュースのコーナーが、一方的に政権与党の主張を伝える場になった例があったことも見逃せない。
 8月9日
の放送では、自民党高村副総裁が、講演会で安保関連法案審議における民主党の質問を批判したことを報じた。「非核3原則を持った日本が核弾頭を米国のために運ぶことはあり得ないのは日本人の常識。あまりあり得ない無意味な議論をして不安を掻き立てるのは止めにしてもらいたい」。わざわざ単独でこの発言を取り上げた理由はなんだったのか、なぜ、民主党の反論を取材しなかったのかなど疑問が残る。
 また国会周辺で、これまで最大の安保法制反対の集会が開かれた日の「ニュース7(8月30日)5分12秒間の安保報道の最後を、自民党谷垣幹事長の「戦争法案、徴兵制をやる法案というのは、ためにする誹謗中傷だ。何としてもこの国会で解決し、次に進まなければならない」という談話で締めくくっている。
 
 このほか、「ニュース7」のキャスターのコメントでは、政権のメッセージ“今国会での法案成立”というフレーズが再三にわたり使われている。「安倍総理は安保法案をめぐって野党が対案を国会に提出したことを評価した上で、決める時は決めると述べ今の国会での成立に重ねて意欲を示した」711日)
 「今日の論戦では、PKO活動の拡大や、自衛隊の安全確保の問題が取り上げられた。今後の審議に関連し〝議論が熟した時は採決を〟と述べ、今の国会で法案の成立を期す考えを重ねて強調した」825日)
 「安倍総理は今日夕方、自民党の役員会で〝今の国会も残り1か月を切ったがこの国会で成立させるべく、最後まで政府・与党が緊張感を持って取り組んでいきたい〟と述べ、今の国会で成立に向けて改めて決意を示した」831日)
 「衆院特別委員会で安倍総理大臣は〝今国会で法案成立させる〟の考えを重ねて示した」914日)
 その他にも819には「中谷防衛大臣は参議院特別委員会で、安保法案は〝国際テロ対処で自衛隊貢献の幅を広げる〟として法案の必要性を強調した」などとコメント、8月21の放送では、防衛省の統合幕僚監部が法案成立を前提に自衛隊の対応を記した文章を作成していたことを共産党の小池議員が暴露した問題について、「安倍総理大臣は今後具体化していく検討課題を整理するため、必要な分析や研究など行うことは当然だとして、問題なしとの認識を示した」などと政権の代弁とも取れるコメントをしている。
 
記者解説も「ニュースウオッチ9」と同様の傾向がみられた。9月17、参院特別委員会の強行採決の解説は次のような内容だった。
 キャスターの「
混乱した委員会での採決、なぜこんな事態になったか」の問いに対して、政治部記者の解説は「野党側が徹底して採決に反対したから。国会周辺ではデモや集会が連日行われていて、民主党などは、世論と連携しあらゆる手段で採決を阻止したいとしてきた。鴻池委員長の不信任動議の採決でも野党側は法案の採決を遅らせたいとして趣旨説明や討論で40分以上演説する議員もいた。与党側は昨日の夕方に委員会採決をしたいとしていたが野党の強い反対でスケジュールが遅れて、昨日は委員会の開催も出来なかった。本会議でも野党の強い反対を予想すれば、連休前の今日の採決は譲れなかった」
 この解説はどう聞いても混乱の責任は野党にあると主張するに等しい。政権の非民主的な議会運営で強行採決した事については何の批判、疑問も呈していない。
 以上は象徴的な例であり、そのほか同様の例は少なくない。こと安保法制報道に限り、「ニュース7」は現政権、現権力に有利な主張を伝え、結果的に世論を誘導することに貢献したといえるのではないか。

3)テレビ朝日「報道ステーション」

 
「報道ステーション」の安保法案報道は、一貫して批判的報道を貫き、政権をウオッチするジャーナリズムの精神が保持されていたとみることができる。
 とくに、憲法学者木村草太、政治学者中島岳志、朝日新聞論説副主幹の立野純二という3人のレギュラーコメンテーターのコメントは、毎回、事態の動きと政権に対する鋭い批判を含んでいた。
 この3人の批判的コメントが連日のように放送されたことは、今回のテレビ報道ではきわめて注目すべき現象だと言ってよい。
 批判的コメンテーターの採用は、「報道ステーション」を特徴づけるものなので、典型的なコメントの例を挙げておく。
 ドイツ軍のアフガニスタンでの後方支援のレポートのあと、木村草太氏のコメント。
 木村「ドイツには法律だけでなく、憲法にもきちんと武力行使について議会が関与することが書かれているが、日本は憲法がそもそもそういうことを想定していないので、全く憲法上書いてない。今のままやってしまうと、どんなに緩い手続きでやっても憲法で止めることができない、非常に危険な状態と思う」(7月20日)
 
強行採決が迫っている段階での中島岳志氏のコメント 
 中島「私たちは今4つの“崩壊”に出会っている。(説明部分は略)
一つは憲法の崩壊、政策論が憲法に優越してしまう、憲法の空洞化。二点目に国会の崩壊。問題の違うあり方を検討して行くことが全く無視されるという議論の崩壊がある。三つ目に連立与党の崩壊。公明党とは何なのか、公明党が与党の中でどんな役割を果たしているのか、見えづらい。
 四つ目に保守政治が崩壊。今回のように急進的で一気に物事を変えていく、その政治姿勢こそ保守が批判してきたあり方ではないか」(9月16日)

 参院特別委で強行採決されたのを受けての立野純二氏のコメント
 立野「安倍政権が否定したのは平和主義にとどまらず、主権在民という大きな原則もないがしろにした。国会の外、全国で多くの方々が街頭に出ている。その最大のアピールは、主権者はいったい誰なんだ、というアピールだと思う。

 上から決める政治なのか、国民本位の政治なのか、国会の外と内とでぶつかり合っているのはその二つの価値観ではないか」(9月17日)
 
 
3人のコメントを記録したが、注意深く聴くと、いずれのコメントも「安保法案反対」とは言っていない。あくまで憲法と民主制の維持の立場からのリベラルな批判であり、そのため説得力があった。
 この番組のモニター担当者は、こうしたコメンテーターが常連として登場していたことは、最近の政権のメディアへの圧力の強まりのなかで、奇跡的なことではないか、と報告している。番組を詳細に記録してきた担当者の感想はうなずけるものがある。

 このほか 後述するように、「報道ステーション」は、法案の問題点を、国会審議と独自の調査報道でできるだけ明らかにしようとしていた。また市民の抗議行動の紹介にもかなり長い時間量を割いている。その点を総合的にみて冒頭の評価となった。

4)TBS「NEWS23」
 「NEWS23」は、終始一貫して「安保関連法案」批判の姿勢を貫いていた。これはこの番組の大きな特徴、個性といえる。
 その批判的な姿勢は、主としてアンカーの岸井成格氏のコメントに顕著に表れていた。岸井氏は安保法案について、この期間、再三にわたりつぎのような意見を表明している。
 「……安全保障関連法案の狙いは、米軍が関わる紛争地にいつでもどこへでも自衛隊を派遣できるようにすること。その道を拓くための法案だ。したがって、この法案は国家の在り方を根本的に変えてしまうものである。しかし、この法案が違憲であるとの声は日増しに大きくなってきている。それを数の力だけで強引に通そうとするのは、立憲主義国家の否定であり、独裁政治の始まりである……」
 この原則的な認識に基づいて、番組は、安保法案の問題点を大きく分けて三つの手法によって告発し続けた。
 一つは、アンカーである岸井氏が、上記のように番組内で直接訴えた続けたこと。二つには、国会審議を通じて見えてくる法案の矛盾点を丁寧に紹介したこと。三つ目は、独自取材によって、法案の持つ真意や危険性を明らかにしたことである。これによって、安保関連法案の狙いや、問題点を明らかにする努力がみられた。
 また、安保法案に関わる重要な事実、世界の動向について、数多くの独自取材、調査が行われたこともまたこの番組の特徴となっている。
 とくに、番組内のシリーズ企画「変わりゆく国×安保法制」が注目に値する。この企画コーナーは、922日までに40回放送された。海外取材も含めたドキュメントあり、ある特定の人のインタビューあり、内容は様々だが、この番組独自の方法で、安保法制問題に迫った。その代表例は独自取材の項で報告する

2、ニュース番組は法案の問題点や政府・与党の動きにどう向き合ったか

 この間のテレビニュースには、法案がどのような内容であり、またどのような問題をはらんでいたかを、国会審議、専門家の考察、記者解説などで明らかにする努力が求められていた。
 また、政府・与党の、強行採決をふくむ国会運営について、各番組がどのように向き合い、伝えたかも重要なモニターのポイントだった。この点を見ていくことにする。

◆安保法案と憲法との関係。砂川判決を集団的自衛権行使の根拠とすることの検証

 
6月4日、衆議院憲法審査会で、与党推薦の参考人を含む3人の憲法学者全員が、「安保法案は“違憲”」と衝撃的な証言を行った。
 この事件をきっかけに、安保法案が違憲か合憲かという議論が国会でも展開されることになる。政権側は、違憲かどうかを決めるのは憲法学者ではなく、最高裁だとして、最高裁砂川判決を集団的自衛権を認めたものだと主張した。
 こうした議論にたいして、正面から取り組んだのは「報道ステーション」と「NEWS23」であった。

 「報道ステーション」
は、『憲法判例百選』の執筆者である憲法学者198人対象に緊急アンケートを行い、その結果を6月15の放送で発表した。
 それによると、回答したのは149人、そのうち憲法違反の疑いはない、としたのはわずか3人、「憲法違反」127人、「違憲の疑いがある」19人という結果であった。番組はこの結果をもとに、アンケートに協力した憲法学者数人のインタビューを行うなど、時間をかけて安保法案と憲法の関係を特集した。その上で、砂川判決について、憲法研究者の木村草太氏がコメントしている。
 木村氏は「(砂川判決は)日米安保条約に基づく米軍の駐留の合憲性が問題になっただけで、判決文のなかには、『自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として』という文章が出てきて、個別的自衛権が合憲かどうかさえ、今回は判断しませんよ、という文章が出ている。判決をちゃんと読めばこれを根拠にするわけがない。個別的自衛権の判断も留保している判決が、まして集団的自衛権行使の根拠になるわけがない。」と指摘した。
 
 9月14
の放送では、砂川判決当時の最高裁判事、入江俊郎氏の書庫から砂川判決の判例集を発見し、そこに書き込まれた判事のメモを紹介した。
 そこには「(判決は)『自衛のための措置をとりうる』とまでいうが、『自衛のために必要な武力、自衛施設を持ってよい』とまでは云はない」、と書かれていた。
 このメモを受けて番組は、「砂川判決がそもそも自衛隊の存在自体にすら踏み込んでいない」と指摘、「集団的自衛権の行使まで射程に入れていたなどと言うことがあり得るのだろうか」と疑問を呈している。
 「NEWS23」
は、6月8日、9日、10 と連続して安保法案と憲法問題を取り上げている。
 6月8日
は、安保法案に反対する憲法研究者199人の大パネルをスタジオに置き、与党推薦の憲法学者として「違憲」発言をした長谷部恭男早稲田大学教授のインタビューを伝えた。
 6月9日は、砂川事件を資料映像で振り返り、再度長谷部教授の「砂川判決では集団的自衛権は争点になっていない」とする談話を紹介した。
 6月10は、憲法違反とする研究者が217人に増えたと伝え、「合憲」と主張する西修駒澤大学名誉教授と、違憲とする長谷部教授の見解を対比させ、整理した。
 この日、岸井アンカーは、「政府が根拠としている砂川判決も72年見解も集団的自衛権行使の根拠になりえない。政府与党の論理は破綻してきている。無理に無理を重ねて、とに角憲法に合っていると、あるいは専守防衛だというために、どんどん綻びが出てきている」と批判した。
 安保法案の根拠として、砂川判決が持ち出された以上、それがどのようなものか、報道機関として調査するのは当然のことである。「報道ステーション」「NEWS23」はこの当然の取材をしたものと評価できる。この種の検証報道は「ニュースウオッチ9」「ニュース7」には見当たらない。

 
◆「後方支援」のリスク、戦闘との一体化、輸送する武器・弾薬の種類の問題

 
国会審議中、政府・与党がいういわゆる「後方支援」について、自衛隊員のリスクや輸送する武器・弾薬の問題が繰り返し問われた。関連して「後方支援」は前線と一体化した戦闘行為だという野党の追及も厳しさを増した。
 代表的な例は、729日、参院特別委での共産党小池副委員長の追及である。
 小池議員は、米軍への「後方支援」の例として、戦闘中の米軍ヘリへの給油を図解した海上自衛隊内部文書を示し、これは戦闘行為ではないかと追及した。
 内部文書は、敵潜水艦を攻撃した米軍ヘリが自衛艦に着艦して燃料を補給して、また攻撃に向かう、という事態を想定したもので、誰が見ても自衛隊が一緒に戦争をしている、という小池議員の追及は説得力があった。
 これに対し安倍首相は、この「後方支援」について「実際に戦闘現場ではないところで行うということを先ほどから申し上げている。一体化しないという考え方のもとで後方支援活動を行う」などと答えている。この質疑は、米軍への後方支援がいかなる性格のものか、また政府答弁がいかに空疎なものかを示していた。
 「報道ステーション」
はこの一連の追及を小池―安倍の何回かのやりとりで伝えている。また「NEWS23」もこの小池議員の質問を紹介、岸井アンカーが「
総理は憲法上の要請で一体化しないと繰り返すが、法案のどこが一体化しない根拠となっているのか、具体的説明が出来ていない」と批判した。
 しかし、「ニュースウオッチ9」「ニュース7」は、小池議員のパネルを使った具体的な追及は取り上げていない。
 
8月5日の参院特別委では、中谷防衛大臣が民主党の白眞勲議員の追及に、「後方支援」で、核ミサイルを運ぶことは想定していないが、法文上は可能である、と答弁、毒ガスの輸送も排除していないと発言した。
 「報道ステーション」と「NEWS23」
はこのやりとりを時間をかけて紹介したが、「みんなのニュース」「NEWS ZERO」は伝えず、驚くべきことにこの日、「ニュースウオッチ9」には安保法関連のニュースはなかった。


 ◆二つの防衛省内部文書の暴露。国会審議無視の自衛隊のプラン


 8月11日、
参院特別委は、共産党小池副委員長が、安保法案成立を前提にした防衛省の内部文書を暴露したことで騒然となり、審議が打ち切られた。
 「ニュースウオッチ9」「NEWS23」「NEWS ZERO」
は、小池議員の質問と「コメントは差し控えたい」という中谷防衛大臣の答弁をほぼ1問1答で短く伝えたが、「報道ステーション」は他のニュース番組とは違い、質疑だけでなく、文書の内容をかなり詳しく報じた。
 番組は、文書のタイトルが『日米ガイドライン及び平和安全法制関連法案について』であること、また、法案の成立を8月とし、来年2月からスーダンのPKO活動を新法で運用する日程表が文書にあるなど、重大な事実を明らかにした。その上で、「戦前の軍部の独走と同じではないか」という小池議員の一連の追及を伝えた。
 その後、8月19日、中谷大臣が11日の答弁を翻して「私が命じた。当然の研究、検討だ」と答弁したことをめぐって審議はまた紛糾した。「報道ステーション」と「NEWS23」はこの19日の審議を丁寧にフォローしたが、「ニュースウオッチ9」はこの日の審議は報じていない。

 9月2日、
参院特別委で、共産党仁比聡平議員は入手した自衛隊統合幕僚長訪米の会議録について政府を追及した。「報道ステーション」と「NEWS23」はこの質疑を伝え、統幕長が米軍幹部に「安保法案は夏までに成立」「ジブチの役割は拡大する方針」などと述べた記録の内容を引用、紹介した。
 この文書は、国会でまさにその是非が議論されている問題について、自衛隊が法案成立を前提に独自の方針や主張を持っていたことを示していた。「ニュースウオッチ9」はこの審議内容をまったく報じなかったが、これは安保法案が成立したあと、はたして文民統制が貫かれるかどうか懸念を生じさせる重大な情報であり、決して軽視できないものであった。その意味でNHKニュースの対応は批判されるべきである。

 つぎに各ニュース番組が衆院、参院での強行採決をどう報じたか、モニター担当者は当日の各番組の内容、傾向について報告している。以下その要点を列記する。

 ◆衆院特別委での強行採決をどう報じたか(715日、モニター担当者コメントより)

「ニュース7」

 「自・公政権の法案強行採決でいつもよりは時間をかけた報道だが、『強行採決』という表現は最後まで聞かれなかった。抗議集会の参加者の声は比較的多く取り上げていた」
「ニュースウオッチ9」
 
 「採決シーンは比較的丁寧に見せたが、ナレーションは『騒然とした雰囲気に包まれる中、自民・公明の賛成多数で可決』、『強行採決』という表現は使っていない。
 5分半近いスタジオでの記者解説は『60日ルール』の説明や、国会内の議会運営手法、各党の駆け引きの状況の解説にとどまり、法案自体についての視聴者の関心に応えるものとは言えなかった」
「みんなのニュース」

 「ニュース枠をおよそ30分に拡大、強行採決の動き、民主・岡田代表、自民・佐藤参院議員の出演という3部に分けた構成になっていたのは納得できるものだった。しかし、強行採決の異常なあり方に対するメディアとしての鋭い批判は感じられなかった」
「報道ステーション」

 「衆院平和安全法制特別委の強行採決にかかわる動きを、国会前の反対行動の生中継から始まって丁寧に伝えている。強行採決という政局の動きだけでなく、ナレーションで『採決強行前の最後の質疑でも、法案への懸念は払しょくされなかった』としているように、当日の審議内容をぎりぎりまで伝え、強行採決の問題を浮かび上がらせた」
「NEWS23」

 「2910秒という時間量で強行採決をめぐる動きを伝えた。スタジオゲストに憲法学者で早大の長谷部恭男教授を招いたほか村山富市元首相、映画監督の大林宣彦氏、作家の真山仁氏のインタビューが紹介された。この日の放送は強行採決を立憲主義、憲法の平和主義を破壊する暴挙として糾弾するトーンが強かった」

 
◆参院特別委での強行採決をどう報じたか(モニター担当者917日の報告より)
 
「ニュース7」

 「参院特別委の強行採決の際、自民党議員が委員長席に殺到して委員長をガードし、そこで質疑打ち切りの動議が出されたのが事実の流れだったが、ナレーションでは、『一気に議員たちが委員長席に押し寄せた』としていた。野党議員が委員長席に殺到したのは、すでに与党議員にガードされた後であった。
 驚くべきことは政治記者の解説で、委員会採決の混乱について、原因は野党の強硬な反対にあるととれるコメントがあった。混乱の責任は野党にあるとのニュアンスは問題だった」
「ニュースウオッチ9」

 「25分弱の時間を割き法案採決をめぐる動きを詳しく伝えたが『強行採決』の表現はなかった。国会前の抗議集会は、河野キャスターが参加者にインタビューするなど、比較的丁寧に伝えた。記者の解説は珍しく野党の対応を中心に扱い、いつもの政府与党の思惑や方針の解説とは一味違って人々の関心にも沿っていた。しかし、大きく広がる抗議の声を一顧だにせず強行採決に走る与党への批判、違憲法案への疑問には全く触れず、メディアとして立憲主義、民主主義への危機感が弱いことはいつもどおりだった」
「みんなのニュース」

 「およそ3時間というニュースの枠を存分に使い、時間を追って詳しく伝えた。ただ、特別委で採決が行われたと伝えた部分で、キャスターが“野党議員が委員長席に殺到”と何回も伝えたのは問題だった。
 民主党議員の証言や画面で見る限り、先に自民党席から議員が殺到したというのが事実であり、 “野党議員が殺到”と明言したのは正確ではなかった。委員長の一連の発言や法案の可決宣言は中継画面でも全く聞こえなかったが、1632分には速報テロップで“安保法案 可決”と伝え、キャスターも同様にコメントした。こうした混乱の中で情報が錯綜する場合、決定的な事実が確認されるまでは、“誰それの情報によると”というエクスキューズを入れて伝えるのが普通だが、今回はそういった確認の手段を全くとらず、情報の出所が分からない不確実な情報をそのままストレートに伝えた」
「報道ステーション」

 「参院特別委で強行採決があった歴史的な日に「報道ステーション」は、CMを除いても43分の時間量で安保法案関連の動きを伝えた。これは「ニュースウオッチ9」の時間量の倍以上になる。CMを除けば全体の時間は2番組でそれほど差がない。そう考えると、問題の重視の姿勢で、どちらが公共放送かわからない。この日の「報道ステーション」ではいくつか評価できる編集がある。『採決』に至る委員会室の混乱を、そのままナレーションなしで、視聴者の判断材料に提起したこと、国会外の集会の参加者の声を丁寧に取り上げていたこと、また、委員長不信任動議の理由説明の福山議員の発言に、前後矛盾する安倍首相、中谷防衛大臣の過去の答弁を組み込んだことなど、力の入った報道だった」
「NEWS23」

 「強行採決関連の報道は3141秒の長さ。国会内の混乱した状況のレポートの間に、全国各地の安保法案反対の集会、デモ、集会参加者のインタビューを紹介している。東京品川商店街、北海道、福島県、大阪市、京都、広島、国会前集会など安保法案反対の動きを伝えた。
 スタジオゲストの国際政治学者藤原帰一氏は、解説で、「イラク戦争では、集団的自衛権を認めているアメリカの同盟国のフランス、ドイツは派兵しなかった。日本はアメリカがやってきたらハイと手を挙げる、それが問題」と指摘した。この日、SEALDsの奥田愛基氏も出演している。そのほか元海上幕僚長の古庄幸一氏(賛成派)、東大教授石川健治氏(反対派)が登場した」

3、法案に関連する重要事項について、独自の取材による調査報道はあったか

 この期間のテレビニュースには、国会審議や、政局の報道だけでなく、安保法案の争点に関連した事項について、独自の取材に基づく調査報道で、視聴者の政治的判断に資する情報の提示が求められていた。
 この点では、「報道ステーション」と「NEWS23」が数多くの独自取材を行い、有用な情報を提供していたのに比べ、NHKその他の民放ニュース番組は、調査報道が皆無とは言えないものの、極めて少なく、ほとんどないに等しいものだった。
 以下、各番組の調査報道の事例を挙げる。


1)「NEWS23」

 「NEWS23」では922日までに「変わりゆく国×安保法制」という企画番組を40回放送している。その中から3つの例を挙げておく。

◆自衛隊の“前線”でみたもの(722日放送) 

 アフリカ南スーダンでPKO活動に携わる自衛隊員を取材したリポート。任務は道路の補修などインフラ整備にたずさわること。彼らは丸腰で、見張り役が拳銃を持っているだけだ。しかし、南スーダンは今内戦状態にある。その監視のためにはネパール軍がパトロールにあたっているのだが、武装勢力の奇襲を受け、隊員が負傷したこともある。取材班はネパール軍のパトロールに同行するが、途中危険があるとして、撮影禁止に遭ったりする。
 安保法案では、PKO活動に治安維持や、他国軍の防護という新しい任務が加わる。安倍首相は「国家あるいは国家に準ずるものが登場してこないことが原則ゆえ、武力行使に発展することはない」というが、治安維持に手を染めることで、リスクが増えることはこのリポートから十分読み取れる。
 憲法9条のもとで行ってきたPKO協力。その歯止めを外した時の自衛隊の近未来の姿を予測させるに有効な企画だと言える。

◆船舶検査法改正で「テロとの戦い」(85日放送)
 
まず岸井アンカーが10本を束ねた「平和安全法制整備法案」の中に「船舶検査法」なる法律もあることを紹介した。
 膳場キャスターは、「政府与党は衆議院で116時間という十分な審議時間を確保したといっている。しかし、この中で船舶検査法に直接触れたのは、たった3分のみ」と指摘した。
 そのあとジブチのルポを伝えたが、その中で、現在日本がジブチで行っているのは海賊対策だが、駐留する世界30か国の軍隊はテロ対策のための船舶の臨検を主な業務としていて、それがテロの資金源となる麻薬密売の摘発が主要な任務であることが明らかにされた。
 取材班は臨検に向かうオーストラリア軍に同行し、停戦を命じた船によじ登る兵隊たちの姿を取材した。いつ甲板から狙われてもおかしくない危険な作業である。日本も法律が改正されればこの地域で船舶検査も行うことになる。
 「NEWS23」では、6月にジブチの拠点での自衛隊員の暮らしぶりを紹介しているが、その時岸井氏はジブチは単なる拠点ではなく、基地だと断言していた。
 なお、このジブチの海賊対策のトップに日本の自衛官が就任している。国会でのたった3分の討論、しかし、現実は国会審議を先取りする形で、すでに布石が着々と打たれていることがこの報告から判明した。
 それにしても、船舶検査法の審議にわずか3分しか費やされていないとの発見はこの番組のスクープとも言える。

◆“日本を操る男”が見た安保審議(92日放送)
 
3年前アメリカのシンクタンクがまとめた提言書がある。俗に、アーミテージ・ナイノートと呼ばれるもので、その内容には、集団的自衛権行使容認を始め、日本の自衛隊について、今回審議の対象になった事柄がそっくり盛り込まれていた。TBSはその中心人物、アーミテージ元国務副長官との単独インタビューに成功した。
 「日米で共同して何かを行うために議論し始めると、必ず憲法9条がバリケードのように道をふさぐ。時は流れ、状況も変わる。憲法の解釈も変えることができる。内閣法制局の解釈の変更でもそれは可能だと思う」とアーミテージは番組の中で語っている。
 憲法9条にまで話が及んだのは、つい口が滑ったのかもしれないが、こうした本音を引き出し、法案がアーミテージ・ナイノートと一致点が多いことをあらためて暴露した価値の高いスクープインタビューだった。


2)「報道ステーション」

 「報道ステーション」もまた注目すべき独自取材を行っている。その中で貴重だと思われるのは2回にわたるドイツの事情の報告と、現場を体験した元自衛官のインタビューである。

◆憲法解釈変えて後方支援」、ドイツがアフガンでみた惨劇(7月20日放送) 
 この日の放送では、ドイツ軍のアフガニスタンにおける「後方支援」の実態を海外取材であきらかにした。ドイツ政府が安全だと言った「後方支援」で、ドイツ軍が何回も銃撃戦に巻き込まれ、55人の死者を出したこと、帰還後の兵士に精神障害が多発していることなど、その惨害を伝えた。これは後方支援が事実上戦闘行為である、という指摘に説得力ある材料を提供する調査報道であった。
 憲法の解釈を変えて後方支援の内容を拡大しようとする日本の動きは、ドイツがたどった道とぴったり重なる。安保法案審議中にこのような歴史の事実を伝えたことは大きく評価できる。
 「政府は安全だと言ったが、そこは戦場だった」、という兵士の証言を含むリポートの中に、安倍首相の「後方支援」に関する答弁が組み込まれていた。「後方支援では必ず戦闘に巻き込まれるわけではない。安全な場所で相手方に渡す、これがいまや常識」という繰り返される答弁である。この編集によって、安倍首相の答弁の軽さ、欺瞞性が浮き彫りになった。

◆ドイツに見る議会の歯止め 海外派兵の前提は“情報開示”(9月15日放送)
 「報道ステーション」では、ドイツの「後方支援」のレポートのあと、ドイツ取材を再度行い、ドイツにおける海外派兵での議会の関与、監視機構を紹介している。
 この取材では、ドイツ連邦憲法裁判所が、海外派兵や集団的自衛権の行使に議会の事前承認が必要としたこと、議会に防衛監察委員制度という強力な監視機構があること、などを伝えた。この報道はやや遅きに失した感はあるものの、安保法案での国会の事前承認について、そのあり方が十分議論されない中で、重要な提起になっていた。

◆元自衛官が語る“本当の現場”「必ず犠牲者が出る……」(9月9日放送)

 この日、二人の退役自衛隊員に体験を聞き、安保法案に対する意見を引き出している。
 一人は、2004年にサマワに派遣された65歳の自衛官で、当時、現地で、給水活動を専門にする560人の部下をまとめていたという。
 元自衛官は「非戦闘地域とはいえ、当時の活動場所は、危険と隣り合わせだった。新法案のもとで派遣されれば、任務が広がっただけ危険が増えるのは当然だ。国会でのリスク議論など問題にならない。身を護るために敵を倒した場合、お前たちの戦闘行為は行きすぎだと罰せられるのか、その時の解釈で、いくらでも言いくるめられるのが恐ろしい」と語った。
 もう一人は護衛艦で第一線の下士官として任務に当たってきた63歳の元海上自衛官で、若い後輩とその家族に接する機会が増えた頃から安保法案に反対する気になったと言い、次のように語った。「アメリカとは対等で、はっきり物が言える国じゃないとだめだ。若い連中を、わけのわからん戦場に行かせるのは堪らない。私は36年間、武力行使をすることなく終わった。平和が保てたのは憲法9条のおかげだ。この法案では、アメリカに追随して行う戦闘で、必ず犠牲者が出る。それは間違いない」
 実名を明らかにして語った内容は、現場を経験した自衛官ならではのもので、こうした「当事者」のインタビューは貴重なものであった。

3)「NEWS ZERO」
 
「NEWS ZERO」は、8月7日に、「NEWS23」と同じく南スーダンのPKO活動に従事する自衛隊のリポートを放送した。
 記者は、「
これまで人道復興支援に限られてきた。これから民間人らの救助のほか、武器を扱う可能性のある検問など治安維持活動ができるようになる」と伝え、現地は武装したグループによる強盗事件が絶えない、と報告した。これをうけて村尾キャスターは、「最初に犠牲者が出るのは、このPKO活動ではないか。しかし衆院ではほとんど議論されていない。参院では特に治安維持活動に伴う武器使用について議論を深めてほしい」と注文を付けた。
 9月15日には「機雷の掃海“ホルムズ海峡”で見たものは」と題して、記者をホルムズ海峡に派遣して海峡の情景を伝えた。番組では、万一機雷で封鎖されても迂回路があること、イランとの核合意で機雷敷設の可能性がないと指摘、村尾キャスターは「安倍総理の説明不足は否めない」と批判した。この番組の
調査報道は多くはないが、この二つのリポートは意味のある取材だったと言える。

4)「みんなのニュース」
 
この番組には調査報道がほとんどなく、その点は批判されるべきである。ただ、わずかに9月18日、安倍政権側が挙げたホルムズ海峡での機雷除去が、いかに現実にそぐわない仮定に過ぎないかを現地での取材報告を交えて伝えた。 
 ホルムズ海峡を利用する物流がイランにとっても経済的に大きなウェイトを占めており、こうした実情を無視して、機雷の除去の必要性を誇大に強調する無意味さを、記者の現地報告や民間の経済研究者の指摘で明らかにしたのは意義があった。


5)「ニュースウオッチ9」
 
NHKニュース番組は、安保法案にかかわる重要な争点である、「後方支援」、機雷掃海、砂川事件、といった問題について、調査報道が可能であるにもかかわらず、ほとんど行っていない。わずかに調査報道らしいケースはいずれも自衛隊の実情に関するもので、争点の理解のための内容ではなかった。
 720に、ソマリア沖海賊対策に、日本の自衛官がはじめて多国籍軍司令官として指揮を執っているというリポートがあった。他国の軍人による日本人司令官への評価が高いことを伝えたあと、司令官の「海上自衛隊がというより、日本国として積極的平和主義ということで政府がリーダーシップをとってやっていると思う。その旗のもと今の法的枠組みが許す範囲の中でできるかぎりのことができたらいいと思う。」という談話を紹介している。
 このリポートを受けた河野憲治キャスターは、「安全保障関連法案をめぐって自衛隊の役割が議論されているが、こうした国際社会の期待と日本の法的枠組み、自衛隊が何をどこまで担うのか現場の実情を踏まえて議論していく必要があると感じた」とコメントした。 
 このコメントの真意は分かりにくいが、リポートは全体として海外での自衛隊の力量の高さと可能性を示唆するものであり、政権にとっては好ましい内容だったと言える。

 もう一つ、723の自衛隊取材リポートは、タイトルが「最前線の自衛隊員はいま」。自衛隊を取り上げてはいたが、その役割や存在感を強調するというよりは、攻撃的な実践訓練が増えつつある実態を明らかにするルポだった。
 「正直ここまでやるのかと思った」と戦闘訓練、負傷者救護活動に戸惑い不安を感じる若い隊員は語っている。隊員の入隊動機の多くは、災害救助活動の報道を見て「人の役に立ちたい」と考えたからだという。素直に「奨学金返済のため」という隊員もいて、すでに経済的徴兵制のような実態もあることをうかがわせた。「ニュースウオッチ9」では視聴者に考えさせる判断材料を提供した数少ない取材だった。

 
NHKニュースにおける安保法案関連の調査報道が上記程度であり、ほとんどないという状況は、公共的放送機関として視聴者の政治的判断に資する情報を提供する任務から言えば、ほとんど怠慢といってもよい。
 「NEWS23」や「報道ステーション」の独自の調査報道と比べてみれば、いかにNHKが同種の独自取材を抑制していたかは明らかである。
 民放の調査報道をみればわかるように、関連する事実や歴史を調査すればするほど、安保法案の矛盾が浮き彫りになる可能性があった。こうした効果を恐れ、政権に配慮したのではないか、という疑念は否定できない。民放に比べ、予算も人員もかけられるはずなのに、この怠慢は批判を免れないであろう。

4、市民の反対運動が、その規模に応じて適切に紹介されていたか。また識者の法案に対する言論などが、きちんと伝えられていたか。

 
本報告末尾の【付表2】は、安保法案審議中の市民の反対行動を、各局がどう伝えたかを一覧にしたものである。このほかにも動きはあると思われるが、テレビニュースが取り上げたものを重点的に選んでいる。
 市民や著名人の行動をもっとも多く取りあげているのは「NEWS23」で、他番組を圧する回数である。ついで多いのは「報道ステーション」であり、「NEWS ZERO」「みんなのニュース」は非常に少ない。
 NHKは、国会審議期間中を通じて反対行動の報道には冷淡であったが、9月に入ってさすがに多く取り上げるようになった。しかし、「NEWS23」や「報道ステーション」に比べ、紹介する時間量は圧倒的に少ない。【付表2】には「ニュース7」「ニュースウオッチ9」「報道ステーション」のみその時間量を付記したが、全体に前記民放2番組の反対行動の報道時間量はNHKニュースを大きく上回っている。
 また、NHKでは撮影したVTRを短く挿入するスタイルが多いのに比べ、「NEWS23」「報道ステーション」は国会前からのナマ中継を多用し、参加者の声を数多く伝えている。
 ここでは比較的丁寧に国民の運動を紹介した「NEWS23」「報道ステーション」の典型的な報道の例を記録しておく。

1)「NEWS23」
 
8月30日全国総がかり行動は、翌31日の放送で、国会前から膳場キャスターがデモに参加しての感想や参加者へのインタビューで伝えた。エアショットが効果的に使われ、日比谷公園など、国会から少し離れたところまで人で埋め尽くされていることがよくわかった。
 ナレーションでは「今日は全国各地300か所以上でデモが行われ、廃案を求める声は全国で鳴り響いた」と報じた。この日の「NEWS23」は徹底してデモの中から国民の声を伝えようとしていた。
 国会前を人びとが埋め尽くした914日、番組は、参加した大江健三郎氏の「平和憲法の下での日本がなくなってしまう」という発言から始まった。デモの中継に続いて報じられた国会審議では、民主党、大野元裕議員の質問「今のままいくとPKO活動で自衛隊員が民間人を殺すと殺人罪に問われかねない」との発言は衝撃的だったが、この質疑が組み込まれることで、再び中継で伝えられた反対デモが、国民の気持ちを表す切実な行動と受け止められる効果を生んでいた。
 「NEWS23」は、このほかさまざまな団体や組織の反対表明、集会も報じた。
 日弁連が国会内で開催した集会79日)、全国281議会から308件の意見書が国会に提出された全国町村議会の反対、ないし慎重審議要求決議の動き77日)。京都の母親たちの署名活動。安保法案反対の意見を述べた宮崎駿氏の外国特派員協会の会見713日)。法曹関係者、学者300人の反対記者会見826日)など多数にわたる。
 インタビューやスタジオ生出演の識者は、藤井裕久元財務大臣713日)、長谷部恭男早稲田大学教授715日)。このほか寺島実郎日本総合研究所理事長、政治学者姜尚中氏、藤原帰一東京大学大学院教授が数回出演した。VTR出演では、批判的立場の論者として鳥越俊太郎、柳澤協二、益川敏英、村山富市、大林宣彦、高橋源一郎、荻上チキの各氏、安保法案賛成派としては、百地章日大教授、外交評論家の岡本行夫氏、国際政治学者三浦瑠麗氏らに意見を聞いている。


2)「報道ステーション」
 
この番組も「NEWS23」と同じく国会前、また全国の市民の抗議行動をよく伝えていた。とくに衆参ともに強行採決前後は国会前からの生中継が常態となっていた。また、批判する識者の声をよく取り上げていたと言える。なにより本報告冒頭であげた批判的立場のコメンテーターの印象が強い。
 6月19日には、
SEALDsの活動に密着するレポートがあり、安保法制に反対する若者の動きと声を丁寧に取り上げている。6月14日渋谷での大規模なデモも伝えた。
 この日の「報道ステーション」は、徴兵制に関する国会のやりとり、合憲派憲法学者の会見のあとに、国会前での学生のスピーチ「自衛隊を現地に派遣することが日本にとって危険な事態を作り出すんじゃないんですか。戦争はいつの時代も平和の顔をしてやってきます」を伝えた。こうした若者たちの訴えを配置して徴兵制問題を取り上げた構成は、見る者を納得させる力があった。
 8月31
の放送では、前日の全国総がかり行動を、12分近くの時間量で多角的に伝えた。これは同日の「ニュースウオッチ9」の30秒弱の扱いと大きな違いを見せた。

 人々で埋め尽くされた国会前の状況を空撮で見せ、参加した音楽家の坂本龍一氏や学生の声を多数紹介した。さらに、AP通信やドイツ国営放送、イギリスBBCなどのニュース映像を使って、世界がこの大行動をどう見ていたかを伝えた。
 9月17日、
強行採決の日の国会前集会では、創価学会員の「私たち学会員は騙されたんだ」という悲痛な訴え、女子大学生の「そこで終わりにしてしまったら、たぶん思う壺だと思う。成立してからこそが正念場」など、市民の思いを取り上げた。
 このほか「報道ステーション」では大江健三郎氏や山田洋次監督、鳥越俊太郎氏などの発言を取り上げてきている。
 注目されたのは法案「成立」後も、市民の行動を大きく紹介したことである。9月21 憲法学者の呼びかけに答え、高校生たちが全国で声を上げている動きを、東京渋谷と京都で取材し、渋谷のデモに参加した脳科学者の茂木健一郎氏の発言も紹介した。


3)「ニュースウオッチ9」「ニュース7」

 「NEWS23」や「報道ステーション」
には、この間の市民の反対行動の拡大、大きなうねりを、日本の平和と民主主義にとって大きな意義がある、ととらえる感受性があったと思われる。これに比べてNHKは、反対行動の報道姿勢を見る限り、そのような感性は感じられなかった。
 とくに8月30全国総がかり行動は、当日の「ニュース7」で取り上げたもののわずかに2分程度の扱いで、翌日月曜日の「ニュースウオッチ9」では、この行動の映像は30秒だけだった。さすがにこの報道には反対行動に参加した市民から怒りの声が噴出した。
 このようなNHKの報道姿勢は安保法案審議中続いており、市民は安倍政権に対してだけでなく、新たにNHKの存在にも目を向け、抗議の対象とする動きが生まれた。8月25日の「NHK包囲行動」はこうした動きの端的な表現だったと言える。 
 
 また、「ニュースウオッチ9」では、安保法案について識者、専門家に独自のインタビュー等をほとんど行っていない。国会の公聴会や、集会での発言をニュースとして流すことはあっても、番組独自に人選して意見を聞くという報道は、皆無とはいわないまでもほとんどなかったと言ってよい。論争的な政治問題に関しては、視聴者が多様な意見、見解を知ることが欠かせないが、NHKはこうした要請に応えたとは言い難い。併せて調査報道もほとんどないために、NHKの安保法案報道は、国会審議の短い伝達、国会での与野党の動き、反対行動の断片、記者解説、という決まりきったスタイルにとどまっていた。
 このこともまたNHKの安保法案報道が「政府広報的」と批判される理由とも思われる。「ニュース7」のモニター担当者は、朝日新聞に投稿された読者の川柳を、批評の中で引用している。
 「政権の広報支援NHK」「申しわけ程度にチラとデモ映し」
 この痛烈な批判が市民の共感を呼ぶ状況が生まれている。このことをNHK内の報道担当者はまず知るべきであろう。

5、今後、「安保法制下」のニュースに望むこと 

 
安全保障関連法の公布から施行によって、日本は戦後初めて自衛隊が海外で武力行使できる時代に移行することになる。
 時の政権の「総合的判断」によっては、戦後初めて日本が特定の国や、軍事組織と交戦状態に入り、「敵国」を持つ可能性が生じる。海外での自衛隊員の「戦死」も現実のものとなる。
 そうした事態が起これば、政治権力はそれを国家総動員の機会ととらえて、愛国主義的なキャンペーンを展開し、批判する運動や言論を攻撃し、抑圧するだろう。
 まさに戦前、戦中の状況の再現が強く懸念される。このような重大な時代のテレビ報道に、次のような努力を強く求めたい。

1)安保法制がどのような危険性をはらむのか、まだ視聴者には十分伝わっていない。機会をとらえ、引き続き法案の内容の解説や、関連する重要事項についての調査報道を強化すること。
2)現行憲法下で、安保法制を政府・与党がどのように運用するか、その行動を厳しく監視し、武力行使に至る危険が生じたときは、視聴者・国民の判断に資するような事実、情報の取材、報道をひるまず行うこと。
3)安保法制を実行する政権の強大な力が現実にある状況では、これに対抗し、批判する国民の運動を伝えることは重要である。賛否の両論併記にとどまらず、批判、反対運動をその規模に応じて適切に伝えること。 
4)この政治的状況で、NHKの政治報道が政府広報的な色彩を強めていることは、現在わが国のテレビ報道でもっとも深刻な問題である。NHKは、戦時中、国家の戦争遂行に加担させられた歴史の反省を踏まえ、政府から独立した自主、自律の報道を回復すること。とくにNHK局内で働く人々には、市民の批判に応えて、内部から政治報道の是正に取り組むことを要請したい。
5)今後、安保法制に批判的な立場のテレビ出演者、キャスター、アンカーなどに対する政治的圧力や攻撃が加えられる恐れがある。こうした圧力、個人攻撃に対しては、当該局だけで対応せず、報道の自由を守る観点からテレビ局が共同で立ち向かい、不当な圧力に屈しないこと。

 
1115日の読売新聞に、「放送法遵守を求める視聴者の会」と称する団体が、放送法第4条を理由に「NEWS23」の岸井成格アンカーを名指しで非難する意見広告を出した。
 第4条の「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」などの放送準則は、放送事業者の自律に委ねられた倫理規定であるというのが通説である。この準則を法的拘束力のあるものとして取り締まれば、放送における表現の自由は根底から覆される。
 放送法は、法の目的を、「放送の不偏不党。真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定めている、この精神によれば、放送準則を理由に放送内容を規制するなどあってはならないことである。安保法制下で今後このような攻撃が強まるであろう。テレビ局報道関係者は、この放送法の精神に従い、毅然として対応する必要がある。
 このことを本報告の最後に強調しておきたい。

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