語る会モニター報告


   
2014年総選挙・テレビ各局ニュース番組を検証する
               20152月9日  放送を語る会

 

 はじめに 

モニターの基本姿勢 

モニター期間と対象とした番組、モニター方法

自民党の「テレビ局への申し入れ」の問題

1、2012年総選挙時から後退した選挙報道

2、選挙の争点に関する報道はどうだったか

~安倍政権の争点提起に対するテレビ局の姿勢~

  1)アベノミクス以外の争点の提示

  2)争点に関する独自取材の有無

3)「注目選挙区リポート」と選挙の争点

4)「街頭インタビュー」の問題

5)改憲問題の埋没

6)選挙の意義を伝え投票を呼びかける番組の存在

3、報道は政治的に公平だったか

4、テレビ選挙報道の抜本的な拡充を

 ~テレビ局自身による総括と検証の必要性~



はじめに モニターの基本姿勢


 2014
12月の総選挙で、自民党は前回と同じく単独で過半数を獲得、公明党も議席を増加させた。その結果、衆院で自公が3分の2の議席を確保し、引き続き安倍政権が継続することとなった。投票率は前回をさらに下回り戦後最低の5266%となった。
 放送を語る会は、これまで原発災害、TPP、特定秘密保護法、集団的自衛権などの重要な問題に関するテレビ報道、またここ数年の国政選挙のテレビ選挙報道をモニターし、その結果を発表してきた。今回の総選挙についても、期間、対象ニュース番組を定めて記録した。本報告書はそのモニターの結果をまとめたものである。
 このモニター活動の目的は、14年総選挙に関するテレビ報道にどのような特徴と問題点があったのかを、放送記録を通じてできるだけ明らかにすることである。そのため、下記のようないくつかの項目に分けてモニター報告を整理することにした。

1、選挙報道の量が2012年総選挙時と比べ激減した、と報じられている。今回の報道の実際はどうだったのか。
2、「アベノミクス選挙」という限定された政権側の争点提起にたいし、テレビは有権者の関心にこたえる多様な争点を示し得たか。またその争点に関する報道の質はどうだったか。
3、各政党に対する公平性は保たれたか。
4、選挙報道の編成や伝え方について、全体として改善の必要性はないのか。

 こうした作業の中で、当会は当然のことながら、テレビ選挙報道が「安倍政権の維持」と「極端な低投票率」という結果とどのように関わっているのか、影響したのかしなかったのか、という重要な問いを意識した。この問題をわれわれ視聴者市民が証拠をあげて解明するのは難しいが、放送内容の記録という外形的証拠から推察することは不可能ではない。本報告がその判断の資料となれば幸いである。 

 モニター期間と対象とした番組、モニター方法

 
 モニター期間は、衆院解散の2日後の1123日から投票日の1214日までの3週間とした。対象番組は次の通りである。
 【デイリー(月~金、あるいは毎日)のニュース番組】
 NHK「ニュース7」 「ニュースウオッチ9」 日本テレビ「NEWS ZERO」テレビ朝日「報道ステーション」 TBS「NEWS23」 フジテレビ「スーパーニュース」
 【ウイークリー(週1回)の番組】
 日本テレビ系列「ウエークアップ!ぷらす」 TBS「報道特集」「サンデーモーニング」フジテレビ「新報道2001」
モニターの方法としては、各番組ごとに担当者を決め、担当者が各回の放送の概要の記録とコメントを所定の報告票に記入し、会の内部で共有する形で進めた。これはこれまでの当会のモニター活動の方法と変わらない。
 3週間のモニターの結果、各番組の放送日ごとの報告票は合計104回分、A4で270ページに達した。さらに、各担当者はモニター終了後、担当番組全体についてその特徴や問題点を報告した。本報告書はこれらの記録をもとに作成したものである。
 なお、これまでの報告書で繰り返し述べているように、当会のモニター活動は会のメンバーが分担した番組を記録し、それを集めるという素朴な方法によっている。またあくまで対象はニュース番組に限定したので、その局の選挙報道全体の評価は行っていない。

 自民党の「テレビ局への申し入れ」の問題

 モニター期間中に、政権政党とテレビメディアとの関係で選挙報道の内容を左右しかねない重大な出来事が起こった。
 1120日付けで、自民党筆頭副幹事長と報道局長名による文書「選挙時期における報道の公平中立ならびに公正の確保についてのお願い」が、在京テレビキー局各社に送られた。
 内容をみると、出演者の発言回数、時間、ゲスト出演者の選定などで公平・中立、公正を期すこと、テーマについて特定政党出演者へ意見の集中がないように、また街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏ることがないよう公平・中立、公正を期すこと、となっており、報道内容について極めて詳細、具体的な要求が書かれている。
 この申し入れは、政権党のテレビメディアへの介入、圧力のあからさまな表現として、かつてない重大な問題をはらむものであった。
 ところが、申し入れを受けたテレビキー局は、この不当な文書を受け取ったことを公表せず、反論もしていない。NHKは受け取ったかどうかも明らかにしなかったが、その後、籾井勝人会長が局内で記者と懇談したとき、この文書を「あの通りだと思う」と発言し、支持していたことが発覚した。
 130日の衆議院予算委員会で民主党の後藤祐一議員の質問に対し、籾井会長は懇談会があったことを認め、その時の発言について否定していない。
 昨今のテレビメディアの状況、安倍政権のメディア対策の強まりから考えて、こうした要請が大きな効果をあげることが強く懸念された。
 そのため、放送を語る会は、公示直前の12月1日、日本ジャーナリスト会議(JCJ)と連名で2014年総選挙に際し、介入、圧力に屈せず、自律的で充実した選挙報道を求めます」という要請文をNHKを含むテレビ各局に送った。
 その要請項目のトップに自民党の「申し入れ」について次のように警告している。ここであらためて掲げておきたい。

 ……この申し入れは、市民団体や政党が行う一般的な要請とは質的に異なり、報道内容に具体的に介入・干渉する不当なものです。同時に、放送事業者を監督する政府を担ってきた政権政党の申し入れは、権力による介入の性格を帯びる危険なものです。
 とくに選挙報道に「中立性」を求める圧力は無視できません。総選挙の争点の一つが、安倍政権の政治の検証にあるとすれば、政治、社会状況の批判的報道が重要ですが、「中立」要求は、こうした批判的報道を制約する意図によるものと考えられるからです。
 放送法は、番組編集にあたって、「政治的に公平であること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」(第4条)と定めていますが、個々の番組で「中立」を求める規定はどこにもありません。
 選挙報道も原則として第4条の規定に従えばよく、また、第3条は「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と規定しています。
 テレビ報道機関には、この放送法の規定を力に、圧力・干渉に屈せず、自律的な報道を貫かれるよう要請します。……

 長さをいとわず引用したのは、上記要請の視点が自民党申し入れに対するテレビ局の対応だけにとどまらず、今回の選挙報道全般に適用されるべき内容だからである。
 はたしてこの要請は受け止められ生かされたのだろうか。
 自民党申し入れがテレビ報道に影響を与えたかどうかは確証がないので断定できないが、選挙報道時間の減少、街の声を含む市民の声の減少、専門家、識者の出演が少なくなっていることなど、疑わしい実態がいくつかあることを指摘しておきたい。

 1、2012年総選挙時から後退した選挙報道

 
選挙の終盤、テレビ選挙報道が前回衆院選時に比べて激減していることが報じられた(1210日付朝日新聞など)。情報バラエティ番組で選挙関連の企画がほとんどなかったことが大きく影響しているとみられる。
 情報番組ほどではないが、ニュース番組でも、選挙関連報道が前回より減っていることが当会のモニターによっても確かめられた。

 たとえば、NHK「ニュースウオッチ9」は、投票日前3週間でみると、2012年総選挙時は総計3時間16分、今回は総計約2時間13分で、約3分の2となっている。テレビ朝日「報道ステーション」は、同じ期間、2012年には約6時間5分、2014年は約3時間5分で、ほぼ半減した。
 そのほかのデイリーニュース番組も選挙関連の時間量が少ない傾向が見られた。

 典型的な例はフジテレビ「スーパーニュース」である。この番組では、モニター期間中、選挙報道は11515秒で合計2時間にも満たなかった。平日は1回分2時間10分、土日30分という長時間番組の3週間分の時間量から計算すれば、わずか55%に過ぎない。
 民主主義制度の根幹であり、人々の生活を直接左右する国政選挙の報道を軽視するかのような編集姿勢には疑問が残る。
 また、この番組で各放送日の何項目目で選挙報道が取り上げられたかをみると、トップニュースとして扱われたのは、12月2日の公示日と14 日投票日のわずか2日だけであり、この期間、全く選挙報道のない日が3日あった。
 
 時間量の減少は、選挙報道の質にも影響を与えずにはおかない。
 モニター報告では、随所で「ありきたりの放送」「連日同じような演説と公約の羅列」「お定まり、型通りのレポート」というコメントが数多く記入されている。
 とくに各党の主張を伝える報道では、まるでカタログを見せられるように演説が短く羅列され、同じような主張を連日聞かされることになった。

 NHK「ニュース7」では、1126日からほぼ連日各党の主張を伝えているが、それぞれ40秒から20秒と短く、モニター担当者は、「連日同じような演説と公約の羅列という構成で、はたして視聴者の関心を高められるか疑問」と批判している。同様の傾向は、他のニュース番組にも見られた。
 典型的な事例は12月1日の記者クラブ主催の8党首討論会の報道で、NHK「ニュースウオッチ9」は8党の発言をわずか3分30秒で紹介。フジテレビ「スーパーニュース」も各党の発言が13秒~15秒に編集されていた。
 「ニュースウオッチ9」は、各放送日の選挙報道が2分から7分程度のケースが多く、ニュース項目順でトップに来ることはほとんどなかった。ニュース番組である以上その日起こった事件がトップにくることは自然だが、それにしても選挙関連項目がかなり後に置かれた例が多い。 記者解説によって比較的長い時間で選挙の争点を整理したのはわずかに3回で、それ以外は「注目選挙区」、「党首を追って」、など、定形的な報道スタイルに終始した。
 NHKにかぎらず、こうした簡略で淡泊な報道姿勢は他番組にも見られ、選挙への関心が盛り上がらなかった要因の一つになったのではないかと考えられる。

 しかし、一方で、デイリーニュースの時間的制約の中でも、党首をスタジオに呼んで長時間の討論を実施した番組があったことは評価できる。
 テレビ朝日「報道ステーション」
12月3日、1時間強の党首討論を放送した。順に党首の発言を聞くという普通の進行ではなく、古舘キャスターのイニシアティブで党首を問いただす形で進められ、党首討論の一つの在り方を示した。
 
 TBS「NEWS23」も、12月2日におよそ1時間の党首討論を実施した。司会、コメンテーターが、日本の現実を踏まえて党首間の議論を促がし、結果として各党の主張がよくわかる内容となった。
 また、この番組は1124日からのモニター期間中途切れることなく選挙に関する報道を続けた。とくに、122日の公示日以降、番組では毎日10分前後の時間を選挙に充てている。これは全体にテレビ選挙報道の時間量が減る中で評価できる。しかも、このコーナーのタイトルを「あなたの総選挙」とし、「問われる“安倍政権”の2年」をサブタイトルにしていたのは、安倍政権が争点だと主張した「アベノミクスの信任」への抵抗とも受け取れた。

 2、選挙の争点に関する報道はどうだったか
 ~安倍政権の争点提起に対するテレビ局の姿勢~

 1)アベノミクス以外の争点の提示

 安倍政権は、衆院選をアベノミクスの成果を問う選挙であるとして、名づけるとすれば「アベノミクス解散」だと主張した。争点を経済政策に絞ろうという意図によるものであった。しかし総選挙は、有権者の国政にたいする意思表示を広く求める重要な機会であって、経済政策だけでなく、集団的自衛権行使、特定秘密保護法、原発再稼働、沖縄基地問題、貧困と格差、雇用、社会保障問題、国の在り方にかかわる憲法改定問題など、有権者が判断すべき問題は多岐にわたる。
 争点をできるだけ限定しようとする政権にたいして、テレビ報道はどうだったか。
 番組によって差はあるが、ニュース番組全体の傾向を概括すれば、争点の限定には従わず、その他の多様な争点を提示する姿勢が見られたことはたしかである。しかし同時にその争点の選択や提示の仕方は必ずしも充分ではなかった。

 「ニュース7」
は、キャスターが「今回の選挙はアベノミクスが最大の焦点」とたびたび述べている。モニター担当者は、「モニター期間中の放送で、アベノミクスという言葉を数えたら94回あった。しかし、アベノミクスが正確には何を意味するのか、充分な解説がない。NHKはキャスター・記者が当然のように使う用語について、正確な解説を1回ぐらいはすべきではないか」と批判している。

 「ニュースウオッチ9」では選挙の争点は主として記者解説によって伝えられた。12 月2日の公示日には、政治部、経済部、社会部の3人の記者が「記者が読み解く政治・経済・社会」という標題で発言した。
 12 月3日と4日には、2日連続で「衆院選・ここをウオッチ」と題して、経済政策と外交安全保障政策を記者解説で整理して伝えた。
 この3回の放送は、アベノミクスだけでなく、多様な争点があると指摘した点で意義があった。各党派に有利、不利にならないように争点を解説するのは至難の業であるが、そのあたりは比較的冷静な解説となっていた。
 ただ、社会にある厳しい安倍政権批判の声はほとんど紹介されていない。これは「ニュースウオッチ9」のキャスター、記者解説の根強い特徴となっている。
 経済政策については、基本的に「アベノミクスの恩恵が波及しているかどうか」という問題意識の解説で、「アベノミクスそのものに問題はないのか」という視点はなかった。(12月3日)
 安全保障政策については、安倍政権は積極的には打ち出さず、争点化を避けようとしており、これが重要な争点だとして政党の議論を注視することを求めた記者のコメントは評価できる。(12月4日)
 しかし、この解説では最初に「中国の台頭とアメリカの後退」というワク組みが示され、その前提でこの争点が捉えられている。この見方は、「したがって日本は何らかの軍事的な対応が必要」という意識を誘導する点で政権側に有利な効果を生むものであった。

 「NEWS23」
は、コメンテーターの岸井成格氏がことあるごとにこの総選挙には多数の争点があり、決して経済問題だけではないということを強調していた。
 1125日の放送で、岸井氏は「自民党はアベノミクスの信任を求めると言っているが、争点はそれだけではない」と述べ、膳場貴子キャスターが「原発」「集団的自衛権」「議員定数削減」をとりあげて自民党と民主党の主張の違いを解説した。これを受ける形で、岸井氏は「自民党の選挙公約に集団的自衛権問題が書き込まれていないが、今回の選挙の最大の焦点は、この問題だといっても過言ではないだろう」と発言し、隠された争点への注意を喚起しようとしていた。

 日本テレビ「NEWS ZERO」
でも、村尾信尚キャスターが、「『NEWS ZERO』が掲げる争点は、アベノミクスの評価に加え、財政再建、集団的自衛権、原発再稼働、近隣外交、政治とカネなど、6つ」だと繰り返し述べ、その上でそれぞれの争点を解説し、各党の公約を整理した姿勢は評価できる。(12月5日、12日)
 村尾キャスターの発言で特徴的だったのは、重要な問題について「確かめたい」「具体的に聞きたい」といった意思表示がしばしば示されたことである。しかし、放送時間の制約のせいか、この意思が実現したとは言えず、視聴者に不満が残った。
 それでも、12月8日の放送で、村尾キャスターが、「今日は128日。昭和16年太平洋戦争が始まった。どの政党も二度と戦争はやってはいけないと主張しているが、どうやって戦争を回避するのか、その考え方にちがいがある。今回の衆院選で各党の主張を見極めたいと思う」と発言したのは、キャスターのひとつの見識を示したものと言える。

 こうした傾向の中で、「スーパーニュース」は、選挙を特徴づける「まくら言葉」として、「安倍政権の経済政策アベノミクスを問う総選挙はあす投票日」(1213日)、「アベノミクスの継続などが争点となった第47回衆議院選挙」(1214日)といった表現を採用していた。ここには安倍政権の争点設定に無批判に追随する報道姿勢が読み取れる。
 12月6日、週末の各党の訴えを取り上げる際にも、「外国為替市場で円安が急ピッチで進む中、各党の経済政策に有権者の注目が集まっている」など、安倍首相の街頭演説のワンフレーズをそのまま取り込み、経済政策に絞りこむ姿勢が随所に見られた。
 ただ、この番組では、「私たちの争点」というシリーズで、少子化、子育て、防災、雇用の4つの生活に身近なテーマを取り上げ、それぞれ実態をレポートした。この報道の内容は意義があったが、一方で集団的自衛権、原発再稼働、辺野古新基地などの重要な争点がまったく取り上げられていないのは問題であった。

 ウイークリー番組でも争点が多様にあることが指摘されていた。
 たとえば日本テレビ系列の「ウエークアップ!ぷらす」は、1213日の放送で、選挙への関心が低い中でも、消費税増税の是非、集団的自衛権容認の是非、特定秘密保護法、原発など争点が多くあることを辛坊キャスターらが指摘し、沖縄の基地問題についての住民の怒りや反対デモ、翁長新知事の決意表明、さらに秘密保護法反対のデモを紹介した。また、秘密法の問題点について田島泰彦上智大学教授の意見を、映像を挿入しながら紹介した。この姿勢は評価できるものであった。
 そのほか「サンデーモーニング」「報道特集」「新報道2001」などでも、経済政策だけに限定しない争点の提示がみられた。

 以上のように、全体の傾向としては、アベノミクスの評価だけを争点としない姿勢があったことは確かである。しかし、どの局の報道でも、今回先送りするしかなかった消費税増税を、1年半先に無条件で実施するということの是非については、ほとんど争点化されなかった。
 また、消費税増税がなければ社会保障の充実も財政再建も難しいという前提が、果たしてそうなのか、消費税増税そのものを問う報道は皆無に近かった。この欠落は、争点設定の弱点として意識される必要がある。
 
 2)争点に関する独自取材の有無
 政権が押し出した争点について、テレビ報道は「ほかにも多様な争点がある」、という姿勢を見せた。しかし、それを党首の言葉の羅列や一覧表にして示すだけでは充分ではない。争点に関して社会の現実がどうなっているかを独自に調査、取材して、有権者に判断の材料を提供することが重要であった。
 この点「ニュースウオッチ9」には疑問を持たざるをえない。モニター期間中この番組には選挙の争点に関連した政治、社会の現実の調査取材がほとんど見られなかった。消費税増税の影響、非正規雇用、貧困格差などの問題、沖縄の基地問題など、日本社会にさまざまな「現場」があるはずだが、解説でもVTRでも、政党・党首の主張を配列するだけの報道にとどまっている。
 争点の提示が、政治家の言葉を比較するレベルから出ていない。民放各局が貧困、格差の社会の実情をそれなりに取材し伝えているのに対し、この間のNHKニュースでは、こうしたアベノミクス批判につながりかねない現場取材は見ることができなかった。これは今回の各社のテレビ報道の中でも際立ったNHK選挙報道の特徴となっている。

 これに対し、民放のニュース番組では社会の現実の取材で見るべきものがあった。
 「NEWS ZERO」
は、1126日の放送で、「格差拡大社会」で働く女性の貧困の現状を取材し、重要な問題を提起していた。
 失職し住む場所がなく新宿のネットカフェで暮らす女性は、食事はカップラーメンで済ませると言い、「仮眠しかできない。こんな生活は想像していなかった」と語る。このネットカフェ64室は毎日満室でその半分は女性客という。
 また、会社が倒産して派遣社員になった北海道の一人暮らしの女性は、月収が手取り1113万円。4万4千円の家賃を引くと使える金は7万円で、1週間の食費は2千円という。
 番組はこうした取材によって、1人暮らしで働く女性の貧困率が33.3%3人に1人は貧困という実態を伝えた。しかし、明らかに経済政策がもたらしたこの貧困格差の問題を、村尾キャスターが選挙の争点と関連付けず、「タテ割り行政の中で役所が個別に対応するのではなく、総合的な支援の体制をどう作っていくか。その態勢づくりが課題」と一般論に解消してしまったのは惜しまれた。

 「報道ステーション」
は、1125日、「子どもの貧困」をテーマに母子家庭を取材、子どもの6人に1人が貧困という実態を取材した。1127日には「原発再稼働、避難計画にフクシマの教訓は」と題して、避難計画が不備だった福島の経験が生かされていない状況を伝えた。  
 11
28日の選挙企画は「雇用は改善するも、個人消費の回復は弱く」と題したもので、「雇用が改善されたというが、非正規が123万人増加し、正規は22万人減」、という事実を報じた。
 12月4日、「消費税増税1年半先送り、子育て・低年金者対策は」というテーマで保育料の高さ、低年金者の厳しい実態を告発した。こうした調査報道を含む「報道ステーション」の選挙報道の姿勢は評価できる。

 「NEWS23」
も、期間中「貧富格差の問題」「円安の明暗」「増税先送りと社会保障」といった問題を独自の企画として取り上げた。「貧富の格差」に関しては2日にわたる放送で、1日目は日々の食料にも事欠く貧困家庭の実態(12月3日)、2日目は超高級車を乗り回し、会員制リゾートで悠然とくつろぐ富裕層について紹介した(12月4日)。この放送で伝えられた富の偏在の実態には考えさせられるものがあった。

 ウイークリー番組では、フジテレビ「新報道2001」が、1123日、30日、12月6日と各回長時間の政党討論を実施した。
 その討論の前、あるいは討論中に、独自取材による社会の実態をレポートし、各党に主張を聞く、という試みが見られた。1123日はアベノミクスの光と影ということで、富裕層の収入が増える一方、庶民の所得が連続減り、非正規が増えた現状、1130日は母子家庭の貧困の実態を伝えた。12月6日には待機児童の問題などで、子どもを産みたくてもても産めないという声を提起している。こうした実態が番組に挿入されたことで、政党間討論が具体性を帯びた内容になっていた。
 ただし、この番組では政党の発言回数に偏りがあり、公平性に疑問が残った。これは後述する。

 3)「注目選挙区リポート」と選挙の争点
 
選挙期間中、多くの局が、選挙報道の定型ともいうべき「注目選挙区リポート」を放送した。選挙区の選び方、候補者の主張の取り上げ方に、選挙の争点に関する報道側の姿勢が示されている。しかし、「選挙区リポート」には、モニター担当者のいくつかの批判がある。

 「NEWS ZERO」の「選挙区リポート」は2回。“うちわ”の松島みどり候補のいる東京14区(124日)、“政治と金”疑惑の小渕優子候補のいる群馬5区(12月8日)が取り上げられた。このリポートについてモニター報告は「この番組の選挙戦現地報告が2回あった。視聴者は、各候補者の一方的な演説の断片の紹介ではなく、それぞれの選挙区に、どのような政治的課題があるのか、候補者はそれをどう考えているのかをこそ知りたい。いずれも、地元の選挙民の暮らしの中の声を取材することで可能になるはずだが、それを全くしなかったのは何故なのか」と書いている。

 「スーパーニュース」の選挙区リポートについても同様の指摘があった。モニター担当者は、「……小渕優子立候補の群馬5区、維新候補と民主・辻元清美がぶつかる大阪10区、落下傘候補・佐藤ゆかりの大阪11区、みんなの党元党首・渡辺喜美の栃木3区の選挙区リポートだったが、その選挙区における政策的争点、有権者の関心や声などの取材はなく、候補者、支持者の動きに焦点をあてた報道で、『政局報道地方版』だった。選挙区の選び方も興味本位のゴシップネタを扱う感覚で選んでいると言っていいだろう。『オール沖縄』と自民党の全面対決となった沖縄、再稼働が争点になる原発立地選挙区、TPPが争点になる酪農・農村地帯こそが『注目選挙区』ではなかったか」と批判している。
 
 いずれも、候補者の動きや演説の紹介中心のリポートで、地域住民の抱える問題や要求が充分に伝えられていないという批判である。
 選挙区リポートのこのような傾向は、この二つの番組に限らず、「ニュースウオッチ9」にも見られた。「ニュースウオッチ9」が報告した選挙区は沖縄4区(12月2日)東京14区(12月5日)、被災地の宮城2区(12月8日)で、いずれも候補者の動きが中心であり、沖縄は候補者の街頭演説を短く並べただけだった。原発再稼働問題を抱える地域、原発災害で住民が避難している地域は選ばれていない。
 
 一方で、「NEWS23」は、実際の選挙戦を通して見えてくる社会問題を、「政治と金」(群馬5区)「原発問題」(佐賀2区)「イデオロギーよりアイデンティティー」(沖縄14区)「44減の波紋」(福井2区)の4地域のリポートという形でとりあげた。
 この選挙区リポートはそれぞれの地域が抱える問題が取り上げられ興味深いものがあった。特に、1212日放送の沖縄の選挙戦のルポは、沖縄県民がこれまで中央から受けてきたアメとムチの政策に我慢できなくなり、イデオロギーよりアイデンティティーの問題として県民が結集していくさまがよく伝えられていた。「選挙区ルポ」の定型的な傾向のなかでは評価できるものと言える。
 
 選挙区リポートでは、選挙区の選び方、その地域の実態の取材によって、選挙全体の争点を鋭く示すことができる。
 そのことを感じさせたのが、1213日放送のウイークリー番組TBS「報道特集」だった。
 この日の放送には、3つの選挙区のリポートがあった。沖縄1区の報告では、辺野古移設を推し進める自民党と、県知事選の“保革を超えた枠組み”を引き継いで闘う日本共産党の候補の対立を伝え、国政での争点である辺野古新基地建設の問題の対立点を探った。
 国内有数の農業地帯である北海道11区の報告では、長年自民党を支持してきた牧場主が、突然の衆院選について「あり得ない、ふざけるな、と思っている」と言い、アベノミクスの恩恵があるかとの問いに「恩恵なんか何にもない。糞喰らえだ。円安で餌は高騰し、俺の友達は今年酪農をやめた」という痛切な声を伝えた。番組はこの1年の酪農家の廃業が全国で800戸を数えると指摘、円安が拍車をかけたとコメントした。
 もう一つは、原発事故で多くの住民が帰還できないでいる福島5区の報告で、訪れた候補者に、住民が「子どもとてんでんこ(ばらばら)なんだよ。帰れないんだよ子どもらが」と抗議する姿、広野町で、除染が進んでいないのに1年で補償が打ち切られたと訴える住民の声、など何人もの抗議の声が取りあげられていた。
 この選挙区リポートは、候補者の行動と主張、支持者の声などを順につないでゆく類型的な報告と異なり、地域の状況や住民の声の側から候補者の主張をとらえ直したことに価値があった。しかも、沖縄基地問題、農業問題、原発事故、という日本政治の根幹にかかわる争点を持つ選挙区が選ばれていたことも評価できる。

 4)「街頭インタビュー」の問題
 
自民党のテレビ局あての申し入れの2日前、TBS「NEWS23」にナマ出演した安倍首相は、挿入された街頭インタビューについて、「(選び方が)おかしいじゃないですか」と強い調子でクレームをつけた。この出来事が自民党申し入れにつながった、とメディアは報じている。
 そのため「NEWS23」のその後の街頭インタビューが注目された。この件に関するモニター担当者の報告はつぎのように書かれている。
 「……121日、番組はアベノミクスについてのJNNの世論調査の結果を伝えた。景気回復の「実感ある」とするもの9%に対し、「実感ない」と答えたもの88%だった。しかしこの結果を踏まえて聞いた『街の声』で、登場した5人の男性はすべて会社員、2人は自営業の女性で、いずれも景気回復の実感がない、と正面切っていう者がいなかった。ここに年金生活者や非正規雇用労働者などが登場しないことも『街の声』がかなり意図的に編集されているようで気になった。」

 「街の声」については、「ニュースウオッチ9」で顕著な傾向が見られた。投票前3週間の放送の間、「街の声」も含めて有権者・市民の声がほとんど取り上げられていない。
 2012年選挙報道では、中小企業経営者、独身女性、母親や高齢者などの各層の人びとの声が取材され紹介されていたことに比べると大きな変化と言える。
 「街の声」について、自民党の申し入れは、「街角インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたい」と、テレビ局への警告に似た調子で書かれている。「NEWS23」「ニュースウオッチ9」などの状況が、この申し入れと無関係であるかどうか疑いが残る。

 5)改憲問題の埋没
 今回の選挙は、憲法改定の国会の発議の動きを加速するかブレーキをかけるか、重大な選択を迫るものでもあった。
 衆議院で改憲派議員が3分の2を超える状況が維持されれば、2016年の参院選の結果によってはすぐにでも改憲の発議ができることになる。その意味では平和憲法の将来にかかわる選挙だったと言える。選挙の結果は、改憲賛成派の議員が84パーセントを占めることになった。(朝日新聞と東大谷口将紀研究室の共同調査、1216日記事)
 ところが、121516日の共同通信の世論調査によれば、憲法改正に賛成が35.6パーセント、反対が  50.6パーセントで、改憲反対が賛成を大きく上回っている。有権者は、改憲に反対でありながら選挙では改憲を進める勢力に投票したことになる。
 この、民意と選挙結果のねじれには、さまざまな原因があると考えられるが、テレビを含むメディアが改憲の是非を重大な争点として前面に押し出さず、改憲問題が事実上選挙の争点から脱落していたことが要因の一つではないかと考えられる。
 各ニュース番組のモニター報告でも、争点の1項目として、あるいはキャスターやコメンテーターの発言として改憲問題が指摘されている例はあるものの、その日の選挙報道時間全体を使ってこの問題を扱った番組はなかった。
 安倍政権側は、憲法や集団的自衛権の問題を明確には訴えず、争点化しない方針だったと報じられている。しかし、改憲の是非は、アベノミクスの評価とは別次元の、国のかたちを変えるかどうかの重大な争点であったはずである。この点の争点化が弱かったことはテレビジャーナリズムが今後振り返って検証すべき問題である。

 6)選挙の意義を伝え投票を呼びかける番組の存在
 争点とは直接関係がないが、多様な争点をあげて選挙の重大性を説き、投票行動を呼びかける番組がいくつか見られたことは、今回の選挙報道の一つの特徴であった。

 「NEWS ZERO」
では、村尾キャスターが「投票所へ行こう」という呼びかけを繰り返した。特に投票率が低下している若い人に向けては「投票に行かなければ、政府は若者を重視しなくなり、若者1人当たり年間135000円の損をすることになる」という試算まで紹介した。(128日)
 「スーパーニュース」
は、127日の放送で、投票を呼びかける東京都選挙管理委員会のイベントや、選挙への関心を高めるためのインターネットのサイトなどを紹介し、間接的ではあるが、若者に投票の意義を伝えていた。

 ウイークリー番組では「ウエークアップ!ぷらす」12月6日の放送で、「高齢者の投票率の低下に比べ若年者の投票率の低下の比率が大きい。その差が大きくなっていくと、その期間に高齢者に対する社会保障支出に対し若年者向けの家族給付や子育て支援などの給付の伸びが追い付いていかない」などといったゲストの分析を紹介、若年世代の投票率低下が若年世代自身の損失につながると指摘して若者が投票に行くのを促した。
 また1213日、投票前日の放送では、投票率の低下を主要なテーマとし、出演者が揃って投票の意義を訴えた。

 選挙中、香港で闘っている学生たちのメッセージが注目を集めた。日本の若者に選挙に行くよう訴えるもので、「民主的な選挙は日本では当たり前かもしれないが、私たちはそのために闘っている。自らの手でリーダーを選ぶことがどんなに尊く稀有なことか気づくことを願っている」という趣旨の声だった。
 「報道特集」
は、1213日の放送終了直前に、日下部正樹キャスターがこの香港の学生たちのメッセージを読み上げ、投票を呼びかけた。また、金平茂紀キャスターは、ノーベル平和賞のマララ・ユスフザイさんが記者会見で「母国のために政治家になることを決意した。支持が得られれば首相になる」と発言したことを紹介、若者たちがこの17歳の少女の言葉をかみしめてほしいと訴えた。
 「サンデーモーニング」も、1214日の投票日に局側リポーターが、香港の若者たちのメッセージを紹介し、投票を呼びかけている。同番組は127日にはテーマを投票率の問題にしぼり、ゲストの姜尚中氏が「これは日本の命運を決めると云っても云い過ぎではない。ちょっときつい云い方だが、選挙に行きますか?人間辞めますか?その位の積りで考えて貰いたい」と訴えた。

 このように多くの番組に見られた選挙の意義の周知や投票行動の呼びかけは、報道機関の使命の一つとして今後の国政選挙でも重視される必要がある。

3、報道は政治的に公平だったか

 これまでの選挙報道には、議席の多い政党の主張や動向に放送時間が多く割かれるという抜きがたい傾向があった。とくにNHKニュースは伝統的にその傾向が根強い。
 「ニュースウオッチ9」では、1124日から28日までの5日間で各党の公約を紹介した。その時間配分は概略つぎのとおりである。(放送順)
1124日】民主党1分35秒、維新の党38秒【1125日】自民党2分31秒、次世代の党1分08秒 【1126日】 共産党1分、生活の党102秒、【1127日】公明党1分20秒 社民党50秒 【1128日】新党改革33
 12
月9日からは3日間で、恒例の「党首を追って」というシリーズを組んだ。各党党首の紹介時間は、自民党安倍総裁―5分35秒、民主党海江田代表―4分10秒、維新の党江田共同代表―3分05秒、公明党山口代表―3分03秒、次世代の党平沼党首―2分40秒、共産党志位委員長―2分17秒、生活の党小沢代表―139秒、社民党吉田党首―137秒、新党改革荒井代表―18秒、となっていた。
 公約については、極端な差はないものの、投票直前の「党首を追って」では、大政党に有利な時間配分であり、安倍首相は破格の扱いと言える。テレビコマーシャルの最小単位は15秒だが、大きな効果をもたらす。1分、2分の差はそれほど問題ないように見えるが、視聴者に与えるテレビの影響力としては無視できない。

  このほか、「ニュースウオッチ9」では、12月3日と4日の2日間「衆院選、ここをウオッチ」と題して、各党の公約を整理して対比して解説した。記者は、各党のスタンス、政策の紹介を、次世代の党までは各党別にコメントしたのに対し、生活、共産、社民は、各党別ではなく、3党をまとめて短くコメントした。
 細かいことだが、こうした手法が慣例化するとすれば政治的公平性の上で問題が残る。NHK以外のデイリーニュースでは、政党紹介の時間量の差はそれほど認められなかった。

 ウイークリー番組では、「新報道2001」が、3回にわたって長時間の政党討論を放送した。このような討論番組は意義があるが、モニター担当者のカウントによれば、その中の政党の発言回数が大政党に偏っており問題であった。
 モニター報告によると、1123日の各党討論の発言回数は、自民11回、民主10回、維新7回、公明6回、みんな4回、次世代3回、共産3回となっている。社民、生活、改革の代表はVTR出演でスタジオには登場していない。
 1130日の党首討論は、自民安倍総裁9回、民主海江田代表5回、維新橋下共同代表5回、公明山口代表4回、共産志位委員長4回、生活小沢代表3回、社民吉田党首5回、次世代平沼党首2回、改革荒井代表2回。
 127日の9党幹事長、書記局長討論では、自民11回、民主7回、公明、共産5回、維新4回、次世代、生活、社民、改革3回、となっている。

 選挙報道の政治的公平性は重要であり、放送を語る会・JCJは、公示前の申し入れで「少なくとも公示から投票日までの期間、政党の政策・主張を紹介するにあたっては、現在の議席数の多少にしたがって放送時間量を配分するのではなく、報道の中で各政治勢力にできるだけ公平に主張の機会を与えることを求めます」と要請している。

 (※本報告にはいくつか放送時間量の計算結果を記載している。これは精密な機器で自動的に測定したというものではなく、あくまでモニター担当メンバーの手作業によるものである。したがって数秒程度の誤差がありうることを断っておきたい)

 4、テレビ選挙報道の抜本的な拡充を
   ~テレビ局自身による総括と検証の必要性~

 
以上のようなテレビ選挙報道にたいして、国政選挙という重大な局面で、前例踏襲的な、ありきたりの報道でよいのかという、強い批判の声がモニター担当メンバーからあがっている。
 もちろん、よく健闘し、努力した番組への評価もあるので、一概には言えないが、テレビ選挙報道の在り方について、一度根本的に見直すことをテレビ局側に提起したい。
 とくに、今回の選挙が、安倍政権の2年間の政治を問うものであるなら、報道機関は力を込めて国内外の実態を広く、深く明らかにすべきであった。とりわけ、経済政策がもたらした貧困、格差の中であえぐ国民の惨状をもっと伝えるべきではなかったか。
 そうした眼でみると、一部の番組にその努力が見られたものの、全体としては選挙報道の量と質は圧倒的に不足していたと言わざるを得ない。
 各政党の主張をもっと時間をかけて伝えること、さらに政治家の「ことば」を伝えるだけでなく、選挙の争点とのかかわりで国内外の現実を取材し、視聴者の判断に資する材料を豊かに提供すること、さまざまな主張を持つ識者や、市民の声を広く丁寧に伝えること、などが求められる。
 この課題を実現するためには、ニュース番組の中の選挙報道時間を拡大するとともに、関連の特集番組を多く編成する必要がある。しかし、選挙期間に入っても、テレビは膨大な量のバラエティ番組、紀行、グルメ番組などで埋め尽くされていた。
 解散から投票日まではそれほど長い日数ではない。この時期を番組編成の特別な期間と考え、選挙報道を抜本的に拡充すべきである。この要求は、前記放送を語る会・JCJのテレビ局宛の文書でもあきらかにし、続いて次のように要請した。

 ……これまでの選挙報道への申し入れで、私たちが繰り返し指摘してきたように、放送法は、法の目的を、「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって、放送が健全な民主主義の発達に資すること」(第1条3号)としています。
 選挙報道は、放送が民主主義の発展に貢献するもっとも重要な機会です。テレビ局報道担当各位に、以上の要請をしっかりと受け止めていただくよう願うものです。

 選挙報道を担当するテレビ局の人びとも、実はひとりひとりが有権者である。選挙は報道に携わる人にとって「外的」なものではなく、内心の問題のはずである。その立場で、はたして現在のテレビ選挙報道が有権者の判断に十分に資するものになっているか、投票に行きたくなるような内容だったのかどうか、テレビ報道に携わる人びと自身の検証、見直しへの期待を表明することを本報告の結びとしたい。