放送を語る会

NHK会長 福地茂雄様

スペシャルドラマ 「坂の上の雲」についての要望書

                           2009年11月8日
                         NHK問題を考える会(兵庫)
        「なぜ、いま『坂の上の雲なのか』を考える」シンポジウム参加者一同

 私たちは、本日11月末から放送されるスペシャルドラマ「坂の上の雲」について、近代史の研究者やメデイア関係など各分野の専門家を招いて330人の参加でシンポジウムを行いました。
 その学習・討論を踏まえてNHKへ以下の要望をいたします。

NHKは司馬遼太郎の小説をドラマ化し、今年から3年間にわたり年末に放映予定とのことです。事前の宣伝や制作費からみても並々ならぬ力の入れようが感じられます。
 この小説は、多くのファンをもつベストセラー小説ではあります。しかし、司馬氏は生前、映像化を一貫して拒否しています。「この作品は映画とかテレビとか、視覚的なものに翻訳されたくない作品です。うかつに翻訳すると、ミリタリズムを鼓吹しているように誤解されたりする恐れがありますからね」と語った遺言的言葉が残っています。
 私たちは、このようないわくつきの作品を憲法9条改悪の動きがあるこの時期に放送することは、司馬氏が心配したように「軍国主義を鼓吹したものになるのではないか」という懸念を払拭できません。NHKは遺族や財団の了承を取り付け、あえて映像化する意図と経過について納得のいく説明をしてください。

この小説は、朝鮮を植民地とするためにロシアと闘った戦争を「祖国防衛戦争」と位置づける当時の歴史観のもとに書かれています。
 日清・日露戦争の戦場となった朝鮮では何があったか、この時期の重大な3つの問題として、日清戦争開始時の朝鮮王宮占拠事件、日本軍の侵略に反対する東学農民の蜂起への大殺戮、朝鮮王妃殺害事件があります。国内においても、明治という時代は「富国強兵」の国策のもと、民衆の犠牲の上にどんどん国を強めていったのであり、国民生活は「貧国強兵」の状況でした。司馬氏の小説はそのことにあえて触れていません。
 もし、映像化がこの原作に忠実にされるなら、視聴者にはこのドラマの内容から当時の国策が正しかったと受け取られかねません。映画とは違い、NHKのテレビ網で全国津々浦々、全所帯の茶の間に放送される影響ははかり知れません。

また、受信料の使い方にも要望をします。
 1作1億円とも言われる制作費は、大河ドラマの6千万円と比べても破格の額であり、受信料がこのように使われることに同意できません。NHKは素晴らしいドキュメンタリーをたくさん作っていますが、今後ともこのような教養と見識が高まるような番組に予算をかけてください。

 以上の事から「坂の上の雲」に関しての要望をします。
 放映が始まっていない現在ではNHKがどのようにシナリオを描き、映像化されるのか、わかりませんが、私たちの懸念が実際のものとならないよう、軍国主義賛美や他国への侵略を正当化するなどの描き方にならないことを強く要望するものです.

                                              以上