放送を語る会


NHKスペシャル「アジアの“一等国”」に対する批判について

                          2009年5月27日
                              放送を語る会

 2009年4月5日に放送されたNHKスペシャル「シリーズJAPANデビュー」第1回「アジアの“一等国”」にたいして、激しい抗議、攻撃が加えられていると伝えられています。その組織的な動きが集中的に示された例に、5月18日、産経新聞が掲載した1ページ全面の意見広告「NHKの大罪」があります。
 この意見広告は、「日本文化チャンネル桜二千人委員会」と称する団体ほか、幾つかの団体、国会議員らが名を連ねて、「日本が一方的に台湾人を弾圧したとするような視点で番組を制作した」「日台友好関係を破壊」「放送法違反の情報犯罪」などと主張し、番組担当者、NHK経営者の謝罪と辞任、「JAPANデビュー」シリーズの放送中止を求め、「全国民の受信料不払い」を実現しよう、と呼びかけています。この番組の放送以後、この意見広告にとどまらず、似たような主張が、複数の週刊誌、雑誌などで展開されてきました。

 放送された番組に対し、どのような形であれ、批判し、抗議することが視聴者の自由であることはいうまでもないことです。しかし、現実に放送された番組と照らし合わせてみるとき、上記意見広告の主張は、理性的な番組批判から大きく逸脱していると思わざるをえません。

 番組を批判するメディアの中には、NHKの取材に応じた人物に接触し、その言葉を批判に利用するなどの行為が見られました。問題の「意見広告」にも、番組出演者の言葉が断片的に引用されています。こうした行為は、一定の信頼関係に基いて行なわれた取材活動に後から介入するもので、ケースによっては自由意思による証言への圧力となり、メディアの取材活動を制約することが懸念されます。
 また、「意見広告」の賛同者の中に、現職の衆議院議員が含まれており、多数の国会議員がメンバーとなっている「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の会長の名も含まれています。これらの政治家が、上記のように放送中止、担当者の辞任、受信料不払いなどを国民に求めることは、予算の国会承認を必要とするNHKにとって、政治的圧力となる恐れがあります。

 番組「アジアの“一等国”」の評価が、人によって違うのは当然です。番組で紹介された歴史的事実についても、さまざまな批判があるでしょう。
 しかし、この番組は、全体として、日本が世界に“一等国”であることを認めさせるために台湾の植民地経営の成功をアピールする必要があった、という歴史を明らかにし、その過程で同化政策や皇民化政策を行ない、住民に屈辱を与えたこと、抵抗運動を弾圧したことなどの事実を伝えるものでした。
 番組は、これらの事実を伝え、「親日的といわれる台湾の統治が、いまも人々心に深い傷あとを残している、これが今後アジアの人々と分かち合わなければならない現実だ、過去と向き合うことで見えてくる未来がある」という趣旨のコメントで締めくくっています。
 このようなメッセージは、公共的な放送機関であるNHKこそ、今後力をこめて伝えていくべきものといえるでしょう。
 過去の日本の植民地支配の歴史を知ることは、アジアで生きていく日本人にとって必須の道義的態度であり、いま台湾の住民とさらに親善を深めるためにも欠かせない視点だからです。

 当会は、NHKにたいし、「アジアの“一等国”」に対する攻撃的な批判に毅然として対応し、動ずることなく自律的な番組作りの姿勢をつらぬくよう期待するものです。