今の日本の歯科医を大別すると、私は以下の三種類に分かれると思っています。

@ 歯科医師として「診療」をしている歯医者

A 患者さんに迎合しながら、「商売」をしている歯医者

B 惰性の日々をおくっている歯医者

 そこで、本項では上記それぞれのタイプの歯医者についての私の考えを書いてみたいと思うのですが、その前に少し申し上げておきたいことがあります。

 それは・・・歯医者というものを考えるとき、以下の二点は絶対に無視できないということです。

@

私達歯科医師は、人間の身体を扱う「医療」という仕事をしているのだ・・・ということ。

A

私達歯科医師は医業を生業として生活しているわけですが、収入を得るために懸命に仕事をしている歯科医と、懸命にした仕事の対価として収入を得ている歯科医がいます。

 これらは一見同じように思えますが、両者の間には大きな隔たりがあり、この「仕事」と「収入」というものに対する考え方については、少なくとも歯科医である以上は後者でなくてはならない・・・ということ。

@ 歯科医師として「診療」している歯医者 (医療人としての倫理観を基盤に診療している歯医者)

 この種の歯科医は医療に対するしっかりとした倫理観をもって診療にあたっているだけに、自身の診療内容にはポリシーとプライドをもっており、だからこそ研鑽も積み続け、常に患者さんの真の利益を考えた診療をしています。

 これは、簡単な処置から大きな処置内容のものまで、どのような治療に対しても真摯な態度で臨む・・・そんな歯科医のことであり、言い換えると「自分は、患者さんのための歯科医療をしているのだ。」ということに遣り甲斐や生き甲斐を感じ、そこに喜びを見出しながら日々診療をしている歯科医です。

 ちなみに、このような歯科医は当然のことながら腕もよく、一様に懸命に診療に取り組んだ対価として収入というものを捉えています。

 勿論、私としては「日本においては、このような歯科医が大半です。」と胸を張って言いたいところなのですが・・・なんとも、微妙なところです。

A 患者さんに迎合しながら、「商売」をしている歯医者 (医療=商売だと考えている歯医者)

 この種の歯科医は自身(自院)の利益追求を第一優先順位として診療を行っているために必然的に患者さんを「客」とみなしており、それだけならまだいいほうで、商売の世界でいうところの「顧客満足」という言葉をはき違えてか、ひたすら患者さんにおもねるがために、往々にしてEBM(医学的根拠)を無視した診療を平気で展開します。

 当然のことながら「医の倫理」は希薄となり、そこには患者さんの真の利益など生まれるはずもなく、ともすれば後々患者さんがその処置を受けたことを後悔されるような結果をも生んでしまう・・・そんな歯科医のことです。

 ちなみに、新しい材料や技術を導入するというのと流行の治療の波に乗るのとは大きく違い、レーザーや3Mix、ホワイトニングなどといった処置を単なる「売り物」にしているというのも、この種の歯医者に見られる傾向です。誤解のないよう申し上げておきますが、上記のどの処置もやりようによってはとても有効なものです。要するに、「やりよう」の問題なわけです。

--------------------------------------------

 患者のみなさんの悩みというのは実にさまざまで、多岐にわたります。そして、その中には審美性にかかわるものもたくさんあり、それが最近急増してきていることも事実です。

 しかし、歯科医療はまぎれもない「医療」であり、決して「美容」ではありません。

 当たり前のことですが、健康な口はいつまでもきれいであり、逆に一見きれいに見えていても医学的に不健康なものは・・・結果的に、必ずきれいでなくなります。

 例えば、見た目を気にして「健全な歯」であるにもかかわらず、或いは充填などで充分に処置し終えることができるような虫歯の治療に、「この歯を、かぶせてきれいにしてほしい。」と来院された患者さんがおられたとしましょう。

 このような主訴は、医学的知識をお持ちでない患者さんの訴えとしては無理なからぬところですが、この時に歯科医がとるべき態度としては、「はい、はい。それでは、そうしましょう!ちなみに、一番きれいに出来上がるのは陶器の歯ですが、それにはウン万円かかります。それで、よろしいですね。」・・・ではいけないのです。

 確かに、陶材を使ったクラウンなどをかぶせたことで一時的には見た目は「きれい」になり、その時点では患者さんに喜んで頂けるかもしれません・・・が、10年後、20年後にはどうなっているでしょう。

 少なくともまともな歯医者であれば、まずは歯を削るということによるリスクを十分に説明し、その患者さんの審美的要求をクリアーできる他の方法も模索した上で、それらの中で極力将来的にもリスクの少ない手法を選択して頂くよう勧めるべきなのです。

 技術以前の問題として、将来を見据えた適切なアドバイスと処置をして差し上げるというのが本来の歯科医のとるべき態度、あるべき姿であり、倫理観と誠意のある歯科医師ならば当然のことなのです。

 歯にクラウンをかぶせるというのは、ある意味「最後の手段」なのですから。

 ところが、往々にしてこのような歯科医は審美歯科などという名目のもとに、あろうことか「6本全部を同時にやったほうが色も合ってきれいにできあがりますよ。」などと愛想よく言い、挙句の果てに6前歯すべての神経を抜いて歯茎のラインで歯を切り落とし、6本が連結されたポスト・クラウンなどというものを差し込む・・・というようなムチャな処置を平気でしたりします。

 そして、そのような処置をお受けになった患者さんには・・・あとでいくら後悔されても、二度と元の健康な歯を取り戻して頂くことはできないのです。

- 参 照 -

「審美歯科」とか「歯のエステ」って・・・

歯を連結する意味

歯の神経はなぜ必要なのか

B 惰性の日々をおくっている歯医者 (何の努力もしていない歯医者)

 この種の歯科医は、自分の仕事に生き甲斐も遣り甲斐も感じていないために日々の診療を惰性でこなしています。

 当然のことながら歯医者としての倫理観も向上心もないため医学的研鑽を積むこともなく、したがって新技術や新材料を取り入れることもないままに旧態依然とした治療内容と診療体系を続けている・・・そんな歯科医のことです。

 要するに、いいかげんな歯医者ということになるわけですが・・・残念ながら、見方によってはこのような歯科医が一番多いかもしれません。

 ちなみに・・・歯科治療の大半は手作業(歯科医の手技)に依ります。それだけに、同じ薬を処方されたのであればどこの内科でもらっても同じというのとは違い、歯科医師によってその治療内容、治療結果に大きな差が出てくることは自明です。

------------------------------------------- 

 さて、同じ収入であれば経費が少ないほど収益は大きくなる・・・当たり前のことですね。そして、少なくとも丁寧で確実な歯科治療をするためには時間がかかるということも、いうまでもありませんね。

 前述の理論を、そのまま保険診療でクラウン(冠)を作成する歯科医院に当てはめてみますと・・・クラウンの保険点数は法律で決まっていますので、収益を上げるためにはそれにかかる材料費から人件費、時間に至るまでのあらゆる経費を削減することになりす。

 つまり、一歩間違うと歯科医院における経費節減は「いい加減な治療」につながることになりかねないわけです。

 丁寧な根っこの治療(根管治)をし、丁寧に歯周組織のコンディションを整え、丁寧な歯冠形成と型採りを行い、丁寧に補綴物を作る・・・これらのどれひとつが欠けてもまともなクラウンは出来上がらず、結果的に長持ちしないということになるわけですが、患者さんとしては、とりあえずクラウンが完成して噛めるようになったということで納得されるわけですね。

 もちろん、そのクラウンの出来を患者であるみなさんに判断して頂くというのは至難の業ではありますが、そうであるからこそ、歯科医の側に医療人としての正しい倫理観が必要なのです。

 これは、保険診療に限らず自由診療においても同じことがいえるわけですが、自由診療では保険診療のように法律による規制がかかってこないぶん、その格差はより大きいともいえるでしょう。自由(自費)診療においては前述のようなことが一層シビアでなければならないのは当然であり、例えば陶材を使っったことできれいに他の歯とも色は合っているが適合(フィット)は悪いというようなクラウンが出来上がっていたのでは話にならないわけで、ある意味、自由診療の場においてこそ歯科医の真価が問われるのです。

 あなたの担当医は、上記三種類のうちのどれに属する歯科医であるののか・・・確かに、これを見極めるのは難しいことかもしれません。しかし、こういった目でじっと担当医を観察してみていただくと・・・何となく、あなたの目にも見えてくるものがあるのではないかと思うのですが・・・如何でしょう!?