ここ数年、アレルギーは歯科においても非常に大きな問題として取り上げられてきていますが、それは 補綴物 として口腔内に入る金属によってアレルギー症状が出ることがあるからです。ところで、私がこう書いたからといって短絡的に「歯科用の金属は、身体に悪い」とは、お考えにならないでください。これは、卵にアレルギーをもつ人がいるという理由から、「卵は身体に悪い」と考えるのと同じことになるからです。ですから、これはあくまで「特定の物質に対してアレルギー反応を示す」という人にとっての話なのです。

 さて、女性のアクセサリーなどとは違って基本的に補綴物は簡単には取り外せないものであり、また皮膚にではなく口腔内粘膜に接しており溶出した金属イオンは唾液によって飲み込むことにもなります。そして、口腔内は非常に特殊な環境下にあり、唾液や細菌の関与、その他いくつかの理由から金属イオンの溶出は起こりやすいのです。

 アレルギー体質の方の数は増加の一方のようで、その半数近くが金属アレルギーをお持ちであるというデータもあります。補綴物には、金、銀などに始まり実に多くの種類の金属が用いられますが、保険診療に用いられる合金も当然アレルギー反応を引き起こす可能性をもっており、その可能性は高い部類に入ります。そして、残念ながら我々が自費診療で用いる金属でさえ、アレルギー反応を引き起こす可能性はあるのです。

 では、アレルギー反応を起こさせない歯科材料はないのか・・・というと、決してないわけではありません。ただ、これも環境ホルモンの問題をクリアーし、尚且つアレルギー反応を起こさせない材料・・・となるとその数は非常に少なく、現段階では「純チタン」と「バイオ・セラミックス」のたった2種類だけに限定されると言われています。

 「私の口の中には、陶器の歯が入っている」とおっしゃる方もおられるかと思いますが、そのようなケースの大半はPFMクラウン(金属陶材焼付冠)と呼ばれる金属に陶材を焼き付けて作られたもので、陶材のみの組成ではないものが殆どでしょう。ちなみに、現在一般的に用いられているインプラントも、そのインプラント体自体は純チタンですが、その上部構造体はそうでない場合が殆どです。

 そして、ここで問題になってくるのは・・・純チタンやバイオ・セラミックスは加工が少々難しいということです。例えば、純チタンでクラウンなどを作ろうとすると特殊な装置と技術が必要となり、またその出来上がったもの自体にも、硬度や弾性、適合性などの点で課題は残っているというのが現状です。セラミックスの場合も同様に、やはり加工上の問題や硬度や強度の点でいくつかか問題を抱えています。

 しかし、これらの問題点も徐々に解決されてきており、前途は明るいものとなってきています。事実、当院にも金属アレルギーの症状が出ている患者さんの口腔内にある補綴物の材質を前述のような材質にて作りかえて差し上げることでその症状が消退したという例は何例もあり、たとえば神経を抜いた歯にクラウンをかぶせるというような場合に使用する根っこの中の処置を終えた後の土台、心棒として、私は金属アレルギーをお持ちの患者さんには「グラスファイバー強化樹脂」よってできている「ファイバーコア」というようなものも使い始めています。

とにかく、金属アレルギーをお持ちの方は、その症状が消えない場合には口腔内の補綴物が原因かもしれないとお考え頂き、是非一度歯医者に相談してみてください。 いい結果が生まれるかもしれません。

- ご 注 意 -

 ところで、実際には金属アレルギーをおもちでないにもかかわらず、自分は金属アレルギーだと信じ込んでおられる方に、私は過去数人お会いしたことがあります。

 ちなみに、前述のような材料は現段階では保険適用外です。したがって、口腔内の金属を全てそのような材質のものに取り替えるとなると、ケースによってはかなりの高額になることも考えられるわけです。

 したがって、金属アレルギーでもないのに、このような支出をするというのは・・・「無駄な出費」でしかありませんね。このような無駄な出費をなさらないためにも、ご自身が本当に金属アレルギーであるのかどうか・・・この判断(診断)については、きちんとした医療機関(皮膚科など)にて「パッチ・テスト」をお受け頂く必要があります。

 これにより、単にあなたが金属アレルギーをお持ちであるのかどうかだけでなく、どのような金属に対してアレルギー反応を示されるのかということもわかります。そして、その結果をもとにすることで、はじめて適切な対処法(使用材料)を選択することが出来るのです。