乳歯は前述の通り、上下で合計20本が正常な本数です。そして、永久歯は真中から1番、2番・・・と数えるのに対して、乳歯はA、B、C・・・と数えます。つまり、上下左右にそれぞれA、B、C、D、E の5本の乳歯があることになるのですが、乳歯の段階では、特殊な場合を除いて 「絶対に虫歯をつくらないこと」 ・・・これだけを考えておいていただければOKでしょう。

 そして、5歳半〜6歳くらいから永久歯との交換が始まりますが、これを交換期とか混合歯列期と呼び、その期間は約6年間です。つまり、11歳〜12歳くらいで生え変わりが終わり、その時が永久歯列(永久歯による噛み合わせ)の完成・・・そう、大人の歯並びと噛み合せの完成なのです。ですから、5歳過ぎから12歳くらいまでの混合歯列期はとても大切な時期なのです。

 もともと正常な歯並び、正常な噛み合わせになるよう生まれてきた子供でも、交換期の管理が悪ければ不正な歯並びと噛み合せ(不正咬合)を持って一生を生きていくことになってしまう可能性は大なのです。「乳歯はどうせ生え変わるんだから、ちょっとくらいなら虫歯になってもいい。」 などとお考えのお母さんがまだまだいらっしゃるようですが、これはとんでもない間違いです。

 しっかりと食べ物を噛み、あごや脳の発育を促すために虫歯のない健康な乳歯は大切なものであり、また健全な永久歯列を完成させるためにも、乳歯はとても大切な役割を果たしているのです。抜歯と言われたとき・・・」の項でも書きましたが、「乳歯は永久歯の歯並びと噛み合わせが完成するまでの水先案内人」なのですから、くどいようですが、乳歯が虫歯になってしまうことを、決して軽く考えないで下さい。

 虫歯で乳歯が崩壊すると、崩壊してできたすきまは後ろの歯が前へと押してきて閉ざしてしまいます。つまり、その虫歯のせいで後ろの歯の位置までも変わってしまうのです。また、その虫歯が噛み合っていた相手の歯が、伸び上がったり、伸び下がったりもします。

 そのために、後続永久歯 (下からはえてくる永久歯) のはえるスペースがなくなってしまったりして、永久歯のはえてくる位置にくるいが生じ、その結果、不正咬合(不正な歯並びと噛み合せ)をつくることになります。不正咬合を招く後天的原因(遺伝的な原因ではないもの)には、悪い癖(悪習癖)などもありますが、その最大の原因は、乳歯列期から混合歯列期の期間にできた虫歯なのです。

 さて、子供は両親の間に生まれます。ですから、それぞれの親からの遺伝的要素を受け継ぐ確率は、簡単に考えると50%ずつということになるのですが、しかし、これは決して両親からすべてのものを平等に半々で受け継ぐということではありません。

 ここに、「出っ歯」 のお母さんと 「受け口」 のお父さんがおられるとしましょう。その子供は二人の特徴をたして2で割り、ちょうどいい噛み合わせになるか・・・というと、そううまくはいってくれないのです。やはり、残念ながらどちらかに似ることになるのです。

 遺伝的(先天的)に決められている噛み合わせは家族歴を調べることで予測することが出来ます。家族歴とは、その子を出発点にだいたい祖父母にまでさかのぼり、4人のおじいちゃん、おばあちゃんを頂点に、その子供達(本人にとっては両親と同列のおじさん、おばさん達)、またその子供達(本人と同列の、いとこ達)・・・これでできたピラミッドを調べれば、かなり高い確率で本人のそっくりさんが見つかるはずです。そして、その人に不正咬合が見られれば、本人も同じような歯並びと噛み合わせを持つ可能性が高いということは、容易に想像できるというわけです。

 ここまでの話を整理すると、不正咬合の原因は・・・

@

先天的(遺伝的)なものと後天的なものがある

A

後天的原因のトップは、乳歯の虫歯

B

その他の原因としては、「指吸い」や「唇や鉛筆をかむ癖」というような悪習癖、また、「しっかりと食べ物を噛ませずに育ててきた」というようなことをあげることができる

というようなことになります。

 残念ですが、先天的なものは今のところ矯正治療以外には防ぎようがありません。そしてもちろん、先天的な素因を持つ子が虫歯をつくれば、状況はさらに悪い方向へといってしまうことは言うまでもありません。また、矯正治療には適齢期というものもあります。

 ついては、そのような時期を見誤らないためにも、幼稚園(保育園・保育所)の年長さん(5歳〜5歳半くらい)のころに一度は歯科医の診察(お口全体のレントゲン写真や模型をとるなど)をお受けになり、適切なアドバイスをお受けになることをお薦めします。
 ちなみに、矯正治療は基本的に健康保険がききません。

 だから・・・というわけでもありませんが、後天的原因でその子の不正咬合を招くのは。経済的にも時間的にも、そして何よりもその子自身のストレスを考えると大きなマイナスであり、子供の将来を考えれば考えるほど、虫歯などの後天的な原因をつくることは絶対に避けてやらなければならないことなのです。