虫歯に関しては、皆さんよくご存知の事と思いますが、ここでしっかりと認識していただきたい事は、「虫歯は、予防できる」ということと、「一旦虫歯になれば、自然治癒はない」ということです。

注) LSTR 3Mix-MP法については、下記の項をご一読頂きたいと思います。

LSTR 3Mix-MP法について

 虫食いが進めば、ついにはその歯の中の神経までおかされ、根尖病巣 (歯の根っこの先にできる病気) を作り、同時に歯は崩壊していって・・・と、結局は確実に抜歯に至るのです。

 それともうひとつ知っておいていただきたいことは、歯の表面は「エナメル質」と呼ばれ、人体のどの部分よりも固いのですが、その層は非常に薄く、その内部はとても柔らかい「象牙質」と呼ばれるものであり、その中に歯の神経があるということです。ですから、外から見ると針の先ほどの穴があいているだけでも、中では大きく虫食いが進んでしまっているというのが虫歯だということです。そして、「しみる」 とか 「痛む」 というような自覚症状が出た時には、すでに虫食いはかなり進行していると考えて、まず間違いないのです。

 そんな虫歯は、下図のように分類されます。 

健全歯

C0

健康な歯

CO (エナメル質への、着色程度)

C1

C2

C1 (虫食いは、エナメル質内に限局)

C2 (虫食いは、象牙質に到達)

C3

C4

C3 (虫食いは、神経を侵し始める)

C4 (神経は腐り、根尖には病巣をつくる)

 また、虫歯はそのできる部位によっても分類されます。

 @ 咬合面カリエス

 まずは、「咬合面カリエス」についてお話をしてまいりますが、咬合面というのは臼歯(奥歯)における相手の歯と噛み合う部分のことをいいます。

 咬合面は、咬頭と呼ばれる山の部分と、小窩と呼ばれる谷の部分、そして裂溝と呼ばれる溝の部分から構成されており、小窩>裂溝>咬頭の順に虫食いになりやすいということになります。

 つまり、咬合面の深い部分には食物残渣(食べかす)が残りやすく、プラークがつきやすいわけですね。

 したがって、常に歯ブラシの毛先をうまく使うことで咬合面の溝の深いところ(小窩や裂溝)まできれいに清掃しいなければ、咬合面カリエスになってしまう・・・ということです。

 A 歯頚部カリエス

 通常、歯頚部にできた虫食いはその深さを増すと共に、歯の頭の方向よりも根っこの方向へと大きく進行してゆきます。

歯頚部カリエス

 歯茎の下へと進行した虫歯は治療が難しく、歯茎を切除するような処置を伴うことも珍しくありません。そして、そのような手術をもってしても救えないケースも数多く出てきます。

 汚れは、歯茎に沿って残りやすいものです。どうか、正しく丁寧なブラッシングを心がけてください。

 B 隣接面カリエス

 下図のように歯と歯の隣り合わせの面にできる虫食い・・・隣接面カリエスです。

隣接面カリエス

 これは、歯と歯の間にブラシの毛先が行き届いていない典型的なケースで、虫歯を見つけにくい場所でもあり、発見も遅れがちになります。また、この部分の歯肉はもっともデリケートで、歯周病もここからスタートする場合が多いのです。


 さて・・・虫歯の治療についてはいろいろな方法や材料がありますが、その代表的な「充填(つめる)」と「クラウン(冠をかぶせる)」という二つの処置の説明を通して、なぜ歯ぐきの腫れた状態のままで虫歯の治療を行ってはいけないのか、なぜ歯周組織の健康を取り戻してから処置をしなければならないのかを、簡単にご説明しておくことに致します。

参 照: 「歯周病」 「ブラッシングとその役割」

 下図のように、腫れた歯ぐきの下にできた虫食いの場合には、必ず歯ぐきを健康なラインに引き締めた後に、きちんとした充填処置をしてやらなければなりません。

腫れた歯ぐきの下にできた虫食いの場合、

このままでは、きちんと治すことができません。

上図のように、歯ぐきをしっかりと引き締めた上で、

確実な充填しなければなりません。


 当然、クラウンによる処置の場合も同じです。クラウンは全周にわたってしっかりと歯自体を掴んでいなければならず、これができていなければその歯の強度に大きな問題がでてくることになります。

 また、クラウンの継ぎ目が不潔域(歯垢のつきやすい場所)に設定されることもあってはならないことであり、このような意味から、下図のように腫れた歯ぐきの状態のままで作り上げたクラウンと、歯周組織の健康を取り戻した上で作られたものとの間には、大きな差が生まれてきます。つまり、「持ち」も全然違ってくるわけです。

 大きく歯冠部を失った歯にクラウンをかぶせる処置をする場合には、まず虫食いを完全に除去して根っこの治療をきちんと終えた後、コア(CORE)と呼ばれる芯棒と土台が一体化したようなもの(これにはいろいろな材料があります)を歯に差込んで合着し、概形を形成したところで仮歯を作り、健康な歯ぐきの状態が整えば、それに合わせてあらためて精密な形成をして型採りをします。

 このように歯ぐきが腫れたまま型採りをした場合、出来上がったクラウンはコア(土台)部分のみしかつかめておらず、健全歯質をしっかりとつかめていないため、そのことから強度的な問題や適合性の問題がでてきます。

 また、この状態でクラウンを作り上げた後で歯茎のコンディションを整えた場合には、結果的にクラウンの継ぎ目が不潔域に露出することになるばかりか、審美的にも非常に見苦しいことになります。

 完成されたクラウンとその歯の強度を保障するためには、そのクラウンがしっかりとコアだけではなく健全歯質を全周で掴んでいるように作らなければなりません。

 そのために必要な健全歯質の量は、全周にわたり1.2mm以上とされています。

 歯科における二大疾患は虫歯と歯周病ですが、どちらもが定期的な歯科医院での処置と日々のブラッシングによって、その健康な状態は維持管理し続けられるのです。

 したがって、皆さんには「病気ができてから慌てる」のではなく、「病気をつくらない」こと・・・つまり、常に健康な口腔内環境を保ち続けることを基本として考えていて頂きたいと思うわけです。

 また、前述のように虫歯と歯周病とは密接に関係してきますので、虫歯の処置をする時には、歯周病に対してもしっかりと対処していかなければなりません。

 ちなみに、虫歯は「神経の生きている生活歯の虫歯」と「神経のない失活歯の虫歯」の二つに大別できますが、どちらの場合にも言える大原則は、「虫歯の治療時には、基本的に虫食いになった部分が完全に除去しきらていなければならない」 ということであり、「つめる」にしても「かぶせる」にしても、虫食いの取り残しがあってはならないのです。

参照: 「LSTR 3Mix-MP法について

 ですから、生活歯の虫歯を処置するにあたっては、ほとんどの場合、麻酔下で行うことになるわけです。そう・・・「臭いものに、ふた」をするような処置になっては、絶対にいけないからです。