ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



古臭いトースターを見付けた。
長い間、開けられることのなかった戸棚の奥で。

祖母の四十九日が過ぎて、誰もいなくなった家の整理を手伝っていた。
彼女が大切にしていた物がどれなのか、さすがに孫の私では判らない。
形見分けする程、何も残っていないわよ、と娘である母は言うけれど。
それでも、思い出や思い入れはあるに違いない。
そちらは母に任せて、私は台所周りを片付けることにした。

祖母の家には、まだ小さかった頃に少しだけ暮らしたことがある。
いつもご飯食だった祖母。トースターを使っている処など、想像ができない。
似付かわしくないそれを取り出してみて、あっ、と小さく声が漏れた。

何の飾りもない銀色のトースター。
今ならお洒落に見えるかもしれないけれど、子供だった私は、
それを可愛くないと思ってしまった。
友達の家のトースターは、当時流行っていたキャラクターが描かれていて、
とても羨ましかったから。
私はその銀色のトースターに、お気に入りのシールを貼った。
その後、祖母に酷く叱られたのだ。買ったばかりの物をおもちゃにするな、と。

「あのさ、お母さん。このトースター、私が貰っても良い?」
水を飲みに来た母の背中に声を掛ける。
何でそんな物を、と呆れた顔をする母は、それでも快く頷いてくれた。

パンを食べない祖母が、孫の為にと買ってくたトースター。
色褪せたシールが貼られたまま、大切に残しておいてくれた。
私にも、祖母との思い出が残っていた。今はそれが、とても嬉しい。


2014.07.20