ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



夢の裏切り。脆く崩れる砂の城。
瞼に残るは朱色の華か、漆黒の闇か――

心に大きな衝撃が受けた。何もかもが煩わしいのに、日常だけは容赦なくやってくる。
無機質な生活をただ熟すだけの毎日。その結果、心は私から眠りを奪い取る。
眠れぬ日々を自覚し始めた頃、不思議な鉢植えがやってきた。
どういう経緯だったのかは、もう覚えていない。気付いた時には、枕元に置かれていた。
紫色の小さな花。ねっとりとした甘い香り。誘われるように眠りに落ちていく。
私は眠りを取り戻した。深い眠りの底でリアルな夢を見る。

就職して十年。お局様と取り巻き達に煙たがられ、居場所のない職場。
針の筵に座る気持ちを堪えるのには慣れている……はずだったのに。
まるで掌を返したように親しく接してくる彼女達に、充実感を味わっていく。
優しさに飢えていたことに気付いて、目を覚ます。
――小さな花が散る。

真面目さだけが取り柄の地味な私に、上司の評価は低かった。
影が薄く存在すら危うい。印象を聞かれても、誰しも答えに困るだろう。
そんな私が、新プロジェクトのリーダーを任される。同僚達が向ける羨望の眼差し。
脚光を浴びる快感に酔いしれ、そして朝がやってくる。
――また、小さな花が散る。

夢は夢。現実ではあり得ない。どうせ夢なら、もっと大胆になっても許される。
「仕事もできないくせに、粗探しにしか興味がない貴女達なんて大嫌い。
私の能力を過小評価しかできない上司の無能振りにも、もうウンザリよ」
そう言って、上司の机に辞表を叩き付ける。この爽快感は病みつきになりそうだ。
夢の中だからできること。目を覚ませば冴えない現実に戻るだけ。
――そして、小さな花が散る。

私自身を受け入れてくれる夢の世界。ここでなら自由になれる。
私を傷付けた貴方に復讐することも、躊躇う必要なんてない。
他に女がいるのは知っていた。それでも、貴方が傍にいてくれるだけで満足だったのに。
ずっと彼女と嘲笑っていたなんて許せない。
だから消してしまおう。私の世界からあの女を。もう一度貴方を手に入れるために。

女が消えた。赤い海の中で横たわったまま動かない。傍に落ちた銀色が鈍く輝く。
上司も、お局様も、その一派も。そして貴方も。驚いた顔で私を見ていた。
どうしてそんな顔をするの? だってこれは夢なのよ。すぐに目を覚ますから大丈夫。
――また一つ、小さな花が散る。

おかしい、おかしい。いくら待っても目覚めがこない。夢の世界から出られない。
探して、探して。現実世界への扉を。……そして見付けた。
下から巻き上げる強い風を受け止めて、私は空へと飛び出した。さあ、目を覚まして。
――最後の花が散る。


2015.09.22