ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



今日の君の作った料理は、苦い思い出の味がした。ケチャップの味が濃いオムライス。
「美味しくなかった?」
不安そうな顔で尋ねる君に、僕は小さく首を振る。
「母の味に似てる」
「お母さんの事、覚えてるの?」
覚えている、と言えるのだろうか。あの人が母だったのかさえ、僕は知らないのに。

僕は望まれて生まれた子供ではなかった。母は僕を一人で産み、そしてすぐに消した。
僕を産んだ事も、目の前に居る僕の存在すらも、記憶の中から消し去った。
育児放棄された僕は、そのまま肉の塊となって死を迎える筈だった。
たまたま母の処を訪ねた人が、僕を見付けてくれなければ。

養護施設で育った僕の処に、一人の女性が訪ねてきた。
あれは小学校の入学式の日。今日一日だけは一緒にいなさい、と施設の人が言うから、
僕はあの人が住むアパートへと連れて行かれた。
生活感のない殺風景な部屋。そこで、歌を歌ったり、絵を描いたりして過ごした。
子供は絶対これが好きだから、と夕飯にオムライスを作ってくれた。
テーブルに置かれた歪な形のオムライス。ケチャップの味が濃くて、とても子供向きとは
思えない味のオムライス。でも、目の前で笑うあの人に、僕は美味しいと言って笑った。
僕はずっと笑っていた。僕が笑えばあの人も笑う。あの人の笑顔をずっと見ていたい。
だから僕は、ずっとずっと笑っていた。

何もない殺風景な部屋で、あの人は死んだ。
僕が帰った翌日に、首を吊った状態で発見された。

「……うん。幸せそうに笑う人だったよ」
滲んだ視界の向こう側で、君の微笑みがあの人と重なる。


2015.07.05