ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



私はまだ私を知らない。どんな顔をしているのだろう。背の高さはどのくらい?
身体は軽い方だから、太ってはいないと思う。でも、本当の処は判らない。
生まれた時には見えていたという視力。物心が付いた頃には失われていた。
私に視えているのは白と黒の世界。朝になれば白くなり、夜になれば黒くなる。

原因は不明。角膜には異常が見当たらないので、問題があるとすれば脳ではないか。
両親が必死に縋った医師たちは、口を揃えて同じ言葉を返す。
子供の頃から、検査と手術の繰り返し。希望と失望を行ったり来たり。
今度こそはと臨んでも、いつも白と黒の世界に連れ戻される。

そしてまた、私は手術を受けた。医学の進歩というやつに、漸く希望の光を見付けたのだ。
脳の奥深くに沈んだ小さな腫瘍。最先端医療の前で、為す術もなくその姿を晒した。
十二時間以上を費やした手術は成功し、その後の経過も順調。
今度こそ、七色の世界を手に入れる。

「では、包帯を外します。心の準備ができたら、目を開けてみてください」

視力の調整機能が低下している為、急激な光が角膜を傷付けないようにと、
術後はずっと包帯で覆われていた両目。医師の合図で、するすると解かれていく。
どんどんと濃くなっていく白。私は心躍らせながら、白に色が付くその時を待つ。
目の上に乗せられていたガーゼが剥がされる。いよいよ、その時が来た。
私が私を知る瞬間。

そして、ゆっくりと目を開ける。


2015.06.07