ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



「ぼく、松の嫌いなんです。……あっ、ごめん、違うんだ。その……」
言葉の真意が判らなくてメニューから顔を上げると、しどろもどろで狼狽える彼と目が合った。
「私が松を選んだからって、同じ物を頼まなくても良いのに。梅でも竹でも好きなのを食べて。
あれ? もしかして鰻ダメだった? それならごめん。他のお店にすれば良かったよね。
フライトが長かったから、和食が食べたくなっちゃったのよ。強引に付き合わせちゃった?」
キャビン・アテンダントをしている私は、搭乗業務を終えたばかり。勤務がある日はいつも、
彼に空港まで迎えに来てもらっていた。空港内にあるお店で夕飯を済ませるのが、
定番のデートコース。今日は私の希望で鰻屋を選んだ。
「……どうかした? 逢ってからずっと、何かおかしいよ」
和食店にしては珍しい大きな窓。真っ暗な中に、オレンジ色の光が散らばっている。
明るい店内の陰で、ぼんやりと外を眺める彼の横顔が映っていた。
「おかしい、かな? 少し落ち込んではいるけど。言い方を間違えて、あんな伝わり方をする
とは思わなかったからね。緊張しすぎてるんだな、きっと」
照れくさそうに笑う彼は、窓の外を見ていた視線を、真っ直ぐに私へと向ける。
「今日は、はっきりキミに伝えようと思って来ました。ぼくはもう、キミの帰りを待つのは嫌です」
真剣な瞳が、冗談を言っているのではないことを示す。視線を逸らすことすら許してくれない。
「だから今度は、キミがぼくの帰りを待っていてください。……ぼくらが住む家で」
滲んでいく視界の端で、誘導灯の示す光に沿って、ゆっくりと飛行機が降りてくる。
まるで羽根を休める鳥のように。


2015.05.24