ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



「あっ、やっちまった!!」
指先に触れた金属の冷たさに、つい顔を顰める。
ポケットから取り出しのは、見覚えのあるコインロッカーの鍵。
客先を回る途中で、邪魔になった手荷物を駅のロッカーに預けたまま忘れていた。
取引先の社長から貰った自慢の地酒とか、古くなったパンフレットとか。
期限切れで回収されても問題ない物ばかりだが、社名入りなのが少しだけ気になる。
「いっその事、期限が切れていたら良かったのに」
ギリギリで気付く辺りが、イマイチ大成しない理由なんだろうな。
諦めにも似た気持ちで軽く息を吐き出すと、覚えのある駅へ向かう為に電車に乗った。

「何だ、これ」
ロッカーの中には、地酒の瓶もパンフレットの束もなく、小さな鍵が一つ置かれていた。
場所を間違えた? そんな筈はない。持っていた鍵で開けたんだぞ、俺は。
中に入っていたのは、コインロッカーの鍵。その下には写真が二枚。
派手な広告が書かれたコインロッカーと、もう一枚には俺が写っていた。
地下鉄から外へ出た処を隠し撮りされたようなアングル。
「ロッカーは、この駅にあるって事か」
薄気味悪さを抑えるように、俺は鍵と写真をポケットにねじ込んだ。

「今度は人形か」
写真を頼りに指定されたコインロッカーを見付けた。
少し大きめのロッカーを開けると、中には人形が一体と写真が一枚。
そしてまた、小さな鍵が置かれていた。訝しげに取り出した俺は、人形の顔に驚愕する。
手から滑り落ちた人形が、耳障りな音をたてて床に転がった。
不自然な形で寝そべるそれは、俺に酷似したフィギュア。
「いったい、どういう事だよ」
手にした写真には、またコインロッカーが写っている。背後には見覚えのある改札。
次はここへ来いと言うことか。

「うわっ、何だよ!!」
三つ目のコインロッカーは、これまでの物より更に大きな縦長の箱。
恐る恐る開けると、何かが飛び出してきた。
「……風船?」
抱き枕のような形をした風船が、ロッカーから顔を出すように浮いている。
縮尺された俺の全身像。悪戯にしては度が過ぎている。
腹立たしげに、風船に括りつけられた鍵を掴む。
一緒に置かれていたのは、写真ではなく何処かの場所を示す地図。

「こんな茶番、もう終わりにしてやる」
地図に従ってやってきたのは、使われていない古びた倉庫。
カチャリと鍵の回る音が、耳障りに響く。そっと扉を開けると、中は意外と狭い。
四畳半くらいのスペースの中央に、酒瓶とパンフレットが置かれていた。
これで振り出しか。拍子抜けした気分で部屋に入ると、後ろでパタンと扉が閉まる。
「あっ、やっちまった!!」
嫌な予感がした。今までの手順を思い返す。
小さな箱に写真。少し大きめの箱にフィギュア。更に大きい箱に抱き枕のサイズの風船。
箱が大きくなる度に、俺を模した物も大きくなる。
そしてここが最終地点。倉庫という名の大きな箱。その中に入れらた、実物大の俺。

この扉を開く為には、更に大きい俺が……。


2014.10.29