ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



満たされない私の心は貪欲に、温もりだけを追い求める。満たされることなど叶わない夢。
それが判っているから、せめて心の隙間を埋めるくらいは許して欲しい。
「あの子、また違う男と歩いてたらしいよ」
「ホント、見境ないよね。男なら誰でも良い、って感じ」
そう後ろ指を刺されている事も、すべて知っている。でも、それが何だと言うのだろう。
それを不快に思う程の感情すら、私の中には残っていない。とうの昔に枯渇している。
「よぉ、久し振りじゃん。相変わらず派手に遊んでるみたいだな。また、俺とも行こうぜ」
馴れ馴れしく肩を抱く男の手を、ピシャリと跳ね除ける。
背後で舌打ちをする男の気配を振り払い、私の中から男の存在を排除する。
そう、彼女たちは間違っている。私が相手にする男は、誰でも良いわけではない。
一度手放した相手に、次はないのだから。

「その辺にしておきませんか。もう潮時でしょう。……随分と探しましたよ」
目の前に現れた男に、私の心は激しく波打つ。やっと私が求めていた相手に、巡り逢えた。
この気持ちを何と呼べば良いのだろう。安堵。言葉にするのなら、それが一番相応しい。
想像していたよりも若い男。黒ずくめの服に、首から下げている十字架が鈍く光る。
「そんな物では、私を倒すことはできないわ。十字架も聖水も、銀のナイフも役には立たない。
朝の輝きですら、私の敵ではないのだから」
古の時代から続く吸血一族の末裔。その最後の生き残り。それが私の本来の姿。
ここまで生き続ける為には、進化と努力が必要だった。最早、私を殺すことなど不可能だ。
長く生き続けること。それがどれだけ虚しいことなのか。誰にも理解できやしない。
人間に与えられた唯一の喜びは、終焉を迎えられるということなのだ。
「判っていますよ。貴女を探す為に、長い時間を費やしてきたのですからね。
貴女は血を搾取することを止め、人間の持つ精神力を吸い取ることで生きながらえてきた。
その影響で、貴女には吸血一族としての力はもう残っていないのでしょう」
見透かされている。悔しいはずのその気持ちでさえ、愉悦へと変貌している。
長年私を追い求めていた男。私はこの男に、何を期待しているというのだろう。
「何も怖がることなどないのですよ。私は貴女を愛するために、ここへ来ました。
その為だけに、必死で貴女を探していたのです。さぁ、私と一つになりましょう。
貴女はこの先も、私の中で生き続けるのですから」
私の身体を優しく抱きしめる腕を、抵抗せずに受け入れる。
「愛しています」
その言葉が紡がれた瞬間、心が満たされていく。これが私の求めていたものなのか。
暖かい何かが心を満たしきり、どんどんと溢れだしていく。
愛されるというのは、こんなにも暖かいものなのだな。まるで光に包まれているようだ。
世界がすべて光で満たされた時、私という存在も周囲に満ちて消えるだろう。
それで良い。私はただ、忘れられたくなかったのだ。


2014.10.05