ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



小さな鉢の中で、赤い金魚が天に腹を向けて死んでいた。
家を出る時までは、静かに泳いでいたのに。

八月に入ってすぐ、近所の祭りに行ったんだ。
男ばかりだとツマラナイって理由から、誰かがクラスの女子も誘ってきた。
屋台を一通り回って飲み食いするのにも飽きた頃、何故か二人一組に分かれて
対決することになってさ。射的、金魚すくい、ヨーヨー釣り。
その時の勝負で釣った金魚。下手くそな俺達ペアは、結局一匹ずつしか釣れなくて、
二人でそれを分けあった。アイツは、一匹ずつでも釣れて良かったね、と言って笑って
いたけれど、正直俺はどちらでも良かったんだ。特に金魚が好きなわけでもなかったし。
ただ、制服姿しか知らないアイツが着ていた浴衣が、偶然にも金魚の柄でさ。
金魚も悪くないかもな、と思っただけなんだ。

祭りの後も、同じメンバーで遊ぶことが増えた。
小遣いにも限度があるから、遊ぶと言ってもたかが知れている。
自転車に乗って近所を駆け抜け、河原やプールで水遊び。
そしていつも、アイツは俺の自転車の後ろに座る。
いつの間にかそれが定位置になっていて、正直俺は戸惑っていた。
アイツの自転車。金魚と同じ赤いやつ。持っている筈なのに、何で乗ってこないんだよ。

八月も終わりに近付いてきた頃、遊んでいたメンバーが徐々に来なくなってきた。
気付いたら、俺とアイツだけしかいない。そんな日が多くなる。
そして、アイツが隣にいる事に、どんどん息苦しさを感じるようになってきた。
よく判らない感情に戸惑いを覚えて、その場から逃げ出したくなる。
もう遊ぶのは止めよう。不確かな気持ちを持て余し、俺はアイツにそう告げた。

花火を見ようよ。俺の言葉に、アイツは笑ってそう返す。
みんなで遊んだ河原で花火大会がある。そこで最後に夏の思い出を作ろう。
他のヤツラも来るなら、と俺は了承した。けど、花火大会には誰も来なかった。
来たのはアイツだけ。祭りの日と同じ、金魚の柄の浴衣を着たアイツだけ。
夏には金魚が似合うな、と改めて思った。

八月最後の日。祭りのメンバーが全員集まった。集合場所は地元で一番近い駅。
親の転勤で引っ越す事が決まっていたアイツ。知らなかったのは俺だけ。
金魚と同じ赤い色の自転車は、既に引越し先に送られていたらしい。
最高の夏休みだったよ、と笑顔で手を振るアイツを、ただ見送る事しかできなかった。

家に帰ったら、小さな鉢の中で、赤い金魚が天に腹を向けて死んでいた。
夏が終わりを告げている。


2014.08.31