ザ・インタビューズ 「書き出し文を質問し、それに続く文を書く。」



「男と女の裏表 この一枚で、貴方の人生が変わります
  最新モードファッション 入荷しました」

随分と怪しげな謳い文句だよな。こんな貼り紙で、客なんて来るのか?
高級サロンのような店構えの入り口に、不釣り合いな内容の貼り紙が一枚。
そのミスマッチに、つい足を止めてしまった。
男と女の裏表で人生が変わる。意味深過ぎだろう。どんな暗号だよ、これ。
一着あれば、何もかもが違って見える、ってやつか?
着るだけでハンサムになれるスーツが出てくる、怪しげな服屋の映画があったよな。
裏表って事は、ハンサムと美女のリバーシブル仕様になってるとか。

「いらっしゃいませ。ご興味がおありなら、店内へどうぞ」

貼り紙の前であらぬ妄想を繰り広げていたら、店員に声を掛けられてしまった。
艶っぽい美女の笑顔に抗えないまま、店内へと吸い込まれていく。

「貴方は、どんな人生をお望みですか?」

まるで占い師のようなその言葉に、店を間違えたような気になる。
ここ、ただの服屋だよな? 変な店に迷い込んだってわけじゃ……。
先刻までの妄想が再び頭を擡げる。バカバカしい。あれはただの映画の世界だ。
現実になんてあり得るはずがない。

「たかが服の一枚で、随分と壮大な話になってますよね」
「いつもとは違う装いが、別の人生へと導く。よくある話だとは思いませんか?」

確かに、ここぞって時に場違いな服装をしていたら、ビッグチャンスを棒に振るくらいは
あり得そうだよな。高級なスーツの一着くらい、持っていても損はないのかも。
美女の言葉に心が動く。

「お気持ちが決まったようですね。では、これを」

掌に銀色のコインが乗せられる。キングの横顔が刻まれたコイン。
指先で転がすように裏返すと、そこにはクイーンの横顔が刻まれている。
不意に貼り紙の謳い文句が頭を過った。キングとクイーンの裏表。

「骨の上を覆っているものですら、すべて変われば違う未来が待っています。
貴方が進むべき人生は、どちらへ向かっているのでしょう」

掌から零れ落ちたコインが、コロコロと床を踊る。
美女の足元で最後の足掻きを見せた後、ゆっくりとコインが眠りに落ちていく。
怪しげな微笑みを浮かべた女王と目が合った。

―― 男と女の裏表 この一枚で、貴方の人生が変わります。


2014.08.24