「ウェディングドレス」

放課後の教室。私は、友達に借りた雑誌を見ながら、真弘先輩が来るのを待っていた。
 「待たせて悪かったな。真弘先輩様が、迎えに来てやったぞ!!」
真弘先輩が入ってきただけで、さっきまでの静けさが嘘のように賑やかになる。
 「おっ、何読んでたんだ?
 ・・・ウェディングドレス特集ー?女って、こーゆーの、ホント、好きだよなぁ」
私が読んでいた雑誌を覗き込むと、真弘先輩は呆れた声を出す。
 「だって、可愛いじゃないですか。今度、友達のお姉さんが結婚するんです。
 それで今日、みんなで盛り上がっちゃて・・・。先輩だったら、どれが好きですか?」
興味なさそうな顔をしている真弘先輩に、特集記事の掲載されたページを掲げるようにして見せる。
どうせなら、先輩の好み、ちゃんと聞いておきたいもんね。
 「どれって言われてもなぁ。その・・・、お前が、そういうの着て、俺の隣に立ってくれる
 って言うなら、俺はなんでも・・・」
赤い顔で照れながら、真弘先輩はしどろもどろにそう言った。
ウェディングドレスで隣に立つ・・・って、それって、もしかして・・・・プロポーズ?
真弘先輩の言葉に、私まで顔が赤くなる。
 「嬉しいです、先輩。でも、こういうのを着て、先輩の隣に立つのは、ちょっと無理かと・・・」
 「どういう意味だよ、それ。お前、俺と結婚するの、嫌だってのか」
私の言葉に、真弘先輩が不機嫌そうな声を返す。やばっ、言い方間違えた!! 
 「違います、そっちじゃないです!!その・・・、いつか、先輩のお嫁さんになれたら良いな、
 とかは、時々考えたりしてるんですよ」
まさか、そんなことを告白させられるとは思わなかった。でも、考えてるのは本当だし・・・。
 「・・・なれたらじゃなくて、そうなるから安心してろ。・・・じゃあ、さっきのはどういう意味だ?
 何が無理だってんだよ」
 「ウェディングドレスのことです。だって、先輩、私の家のこと、忘れたんですか?」
 「えっ?・・・あっ!!」
私の言葉に一瞬眉を潜めると、何かに思い当たったように声を上げた。
そう。私の家は神社だから。結婚式をするとなると、やっぱりあそこで挙げることになる。
さすがに、神社でウェディングドレス、はちょっとね。
 「でも、着物も良いですよねぇ。白無垢に綿帽子。あれも素敵です」
うちの神社でも、時々結婚式を挙げる人達がいる。
今まで見た花嫁さんの姿を思い出して、私はうっとりしながら、そう言った。
 「おっ、おぅ。お前なら、どっちも似合うと思うぞ」
本気なのか、慰めようとしてなのか、真弘先輩はそう言ってくれた。
 「でも、なら、何でそんな雑誌、見てたんだ?」
 「だって、想像するだけでも、楽しいじゃないですか。女の子の憧れなんですよ、こういうの。
 さぁ、先輩。私の楽しみに協力してください。どれが良いです?」
そう言って、持っていた雑誌を掲げ直す。女の子なら、きっと誰でもしてると思う。
ウェディングドレス姿の自分が、大好きな人の横に立ってるところを想像する、なんてこと。
真弘先輩は、仕方なさそうに雑誌を受け取ると、特集ページをパラパラと捲った。
 「よし、決めた!!」
暫く雑誌を眺めた後、真弘先輩は宣言するように大声を出す。そんなに気合入れなくても・・・。
 「どれですか?先輩が気に入ったドレス」
 「ドレスなら、お前が好きなのを選べ。そうじゃなくて、お前にウェディングドレス、着させてやる」
 「えっ、だって・・・」
まさか、神社でウェディングドレス着ろ、ってこと?さすがに、それは・・・。
 「新婚旅行には、アメリカへ行く。向こうの結婚式ってのは、ドレスでやるんだろ?」
 「まぁ、外国の結婚式は、教会でやることが多いですから・・・」
真弘先輩。いったい、何を言い出したの?急に飛んだ話に、私は付いていけなかった。
 「日本でも、神社で式はやる。みんな呼んで、ちゃんと祝ってもらう。
 だから、向こうじゃ、二人っきりの式になっちまうけどな」
本気・・・なんですか?二回も結婚式、するなんて・・・。
 「どうして・・・?」
 「だって、憧れなんだろ。なら、それくらい、叶えてやりてーしよ。
 だから、いつか・・・俺のために、着てくれるだろ?」
 「もちろんです。先輩こそ、絶対私を、貰ってくださいね」
 「あたりまえだ」
だから、それまでに好きなの選んどけ。そう言いながら、真弘先輩は私に雑誌を返した。
私は、受け取った雑誌を胸に抱えるようにしながら、顔を隠す。
だって、泣き顔を見られるのは、ちょっと恥ずかしいから・・・。
私はなんて幸せ者なんだろう。先輩に、こんなに大切にしてもらってるんだもの。
ありがとうございます。私も、絶対先輩を幸せにしますから。
だから、いつか、ウェディングドレスを着た私の横に、立っていてくださいね。

完(2009.10.24)  
 
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