「同い年」

6月28日。今日で、私は18歳になった。
さっきまで、守護者のみんなや、美鶴ちゃん、アリアも一緒に、私の誕生日を祝ってくれていた。
楽しい宴はあっという間に過ぎ去り、みんなが帰ると言うので、私も参道の入り口まで見送ることにする。
玄関を出たところまではみんな一緒だったのに、神社まで来たときには、真弘先輩と二人だけになっていた。
真弘先輩の歩調が、いつもよりゆっくりなように感じるのは、気のせいかな?
 「今日は、本当にありがとうございます。家で誕生日を祝ってもらうなんて、子供の頃以来ですよ」
 「・・・楽しかったか?」
 「もちろんです!!」
家に友達を招待してのお誕生日会。小学生くらいまでは、開いてもらっていたけれど。
中学生になってからは、友達同士で集まることの方が多くなっていた。
家に招いての誕生日会なんて、何だか照れくさいけれど、お祝いしてもらえるのは、やっぱり嬉しい。
私はそう思って、にっこりと微笑んだ。
 「そっか。なら、良かった」
真弘先輩はそう言うと、何故かその場にピタリと立ち止まってしまう。
参道の入り口でもある階段までは、もう少し距離があるのに・・・。
 「どうか、したんですか?」
不思議に思って問いかける私の顔を、真弘先輩は何か覚悟を決めたような表情で見返した。
 「今日はお前の誕生日だからな。俺様から、誕生日プレゼントをやる」
 「えっ?だってさっき、貰いましたよ」
誕生日を祝う席で、みんなからそれぞれ、プレゼントを貰っている。もちろん真弘先輩からだって・・・。
 「やる、っつっても、物じゃねーよ。あー、なんだ。お前、今日で18になったんだよな?」
 「あっ、はい。18歳になりました・・・けど・・・」
それがどうかしたんですか?
そう聞き返そうとしたとき、真弘先輩が顔を赤くしているのに気が付いた。
恥ずかしそうに言い渋っている真弘先輩を見て、頭の中がクエスチョンマークで一杯になる。
 「18歳と言えば、俺様と同い年だ。だから、今日から俺様を呼び捨てにすることを、許可してやる」
 「よ・・・呼び捨て・・・。えっ?えーーーーっ!!」
行き成りの真弘先輩の提案に、私は驚きの声をあげてしまった。
ムリ、ムリ、ムリです。呼び捨てなんて、絶対・・・。
そんな私の反応を見て、真弘先輩が少し不機嫌そうな声を出す。
 「んだよ、嫌だって言うのか?」
 「だ、だ、だ、だって!!真弘先輩が言ったんですよ。”先輩”付けろって」
 「あれは、年上である俺様を敬え、ってことで言ったんだよ。
 だいたい、高校は卒業しちまってんだからな。もう学校の先輩じゃねーだろ。
 それに、大学へ行ったら同級生になるんだぜ。先輩って呼ばれてんの、やっぱ変だろ?」
 「それはそうですけど。行き成り、呼び方を変えるだなんて・・・。
 あっ、そうだ。拓磨も同級生になるんですよね。じゃあ、拓磨も一緒に」
 「それだけは、絶対に許さねー!!あいつが俺を呼び捨てにしやがったら、その場で常世に送ってやる」
私の言葉を遮るように、真弘先輩がそう叫ぶ。
お願いですから、握り拳で力説しないでください。
 「つーか、なんで拓磨は呼び捨てなんだよ。お前、アイツには敬語も使わねーじゃんか」
 「だって、それは・・・。逢ったときからずっとそう呼んでたから。同い年のせい、ってのもあるし。
 何となく、拓磨にはあんまり気を遣わない、って言うか」
出逢い方が最悪だった、ってこともある。今なら拓磨の性格も、ある程度判るようになったけれど、
初めて逢ったときは、何て嫌なやつなんだろうって思った。
そのせいで、拓磨にはあまり遠慮しないで、言いたいことが言えてる気がする。
 「今日から俺も同い年だ、っつってんだろ!!俺にも気を遣うな。それから、敬語も禁止だ」
 「禁止って、そんな・・・。急になんて、変えられませんよ」
 「禁止っつったら、禁止なんだよ。・・・それに、その敬語ってやつでしゃべられるとな。
 俺との間に距離があるみたいで、ずっと嫌だったんだよ。
 拓磨は良くて、どうして俺はダメなんだ?俺は、お前の彼氏じゃないのか?」
 「ダメ・・・とか、そんなんじゃ・・・」
真弘先輩は初めて逢ったときから、『先輩を付けろ』とか『俺様を敬え』とか言って、
やたらと上下関係に厳しかった。だから自然と、敬語で話すようになっていたんだと思う。
今更、普通に話せ、って言われても、そんな急になんて変えられません。
 「ダメじゃないなら、呼んでみろよ。俺の名前」
 「・・・どうしても、ですか?だって私、今日、誕生日なんですよ」
さっきまでお祝いムードだったのに、何でこんなことになっちゃったんだろう?
 「知ってる。同い年になった記念に、許可してやるんだ。ありがたく思え。ほら、呼んでみろって」
少しも、ありがたくなんてないです!!
真弘先輩の期待を込めた視線を一身に受け止めると、私は観念するしかないことを悟る。
 「・・・ま・・・ひろ
覚悟を決めて呟いた声は、消え入りそうなほど小さなもの。もちろん真弘先輩は許してくれそうにない。
 「あー?聞こえねーぞー」
もう、どうなっても知らないから!! そう覚悟を決めて、大声で名前を呼ぶ。
 「・・・真弘!!」
 「おぅ」
私に名前を呼ばれた真弘先輩は、とても嬉しそうに笑った。
 「これからも、ちゃんとそう呼べよな」
 「二人きりのときだけですからね」
真っ赤になって照れている私は、そうお願いするのが精一杯だった。

完(2010.06.28)  
 
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