「エイプリル・フール」

暖かい春の陽気に誘われて、桜の木の下でピクニックをしていた。
手作りのお弁当を食べ終えて、真弘先輩は傍でお茶を飲んでいる。
私はデザート用の林檎を剥いていて・・・。
手元の果物ナイフが、春の日差しに反射して、キラリと光った。
これは、言えって合図だよね。
勝手な理屈を考えると、私は思い切って、顔を上げた。
 「真弘先輩、大変なんです!! 実は、鬼斬丸が復活しました!!」
用意していた言葉を、一気に口にする。
そんな私の顔を見て、真弘先輩は心底呆れた、という表情を浮かべた。
 「お前、陽気に中てられて、頭おかしくなったんじゃねーのか?
 だいたい、あるわけねーだろ、んなことよ。
 鬼斬丸は封印したんじゃなくて、破壊しちまったんだろーが。
 無くなっちまったもんを、どうやって復活させんだよ」
 「あっ、そっか」
失敗した。真弘先輩の返事に、あっさり納得した私は、次に進むことにする。
 「じゃぁ、これではどうですか。
 鬼斬丸が消えた影響で、カミ様たちが叛乱を起こしたみたいです。
 大量のカミ様が、私たちの住む世界に押し寄せてきます!!」
 「それも、ねーなぁ。んなことになってたら、俺たちが判らないわけねーしよ。
 お前と違って、カミ共の異変には敏感だからな」
 「何か・・・バカにされた気分です」
真弘先輩の返事に、私はムッとした表情を浮かべる。
これもダメかぁ。次は何だったかな?
夕べ、おーちゃんと一緒に考えた(一方的に私がしゃべっていただけだけど)、
エイプリル・フール用の嘘を思い出す。考えた内の、これが最後の一つ。
 「・・・あの、実は私たち、血を分けた兄妹だったんです」
内容に合わせるように、少し暗い声を出してみる。
会心の作だと思ったのに、真弘先輩は、ガックリと頭を下げた。
 「ったく、次から次へと・・・。いったい何だっつーんだよ。
 それもあり得ねーな。俺の親は、息子の俺が言うのもおかしな話しだが、
 今でもラブラブなんだよ。んな間違いは、絶対にない!!」
 「・・・判ってます。家だって、似たようなもんですから」
だから良いんじゃないですか。
絶対に嘘だって判ることでもなければ、口になんて出したくない。
 「今日はエイプリル・フールなんですよ。ちょっとくらい驚いてくれても・・・」
 「んだ、そんなことかよ。でもなー、急に驚けって言われたって、
 もうちょっと現実っぽい話じゃなきゃ、ムリだろ。
 例えば、他に好きな奴ができたから、別れてくれ、とか」
それも、思いつかなかったわけではない。でも、何となく言えなかった。
真弘先輩を、試すみたいな気がしたし・・・。
それに、驚くよりも喜ばれたりしたら、それはそれで悲しくなる。
でも、真弘先輩にとっては、言われても良い嘘なんだ。
気にしていたのは私だけ?
何となく淋しい気分になりながら、真弘先輩の言葉を受け入れた。
 「じゃあ、それにします」
 「んだよ、それ。・・・あっ、でも、やっぱダメだ。お前は、言うな」
 「どうしてですか? 私はダメ、って・・・。
 真弘先輩なら、言っても良いんですか?」
 「俺は良いんだよ。100%嘘だって、判ってるからな」
 「・・・ズルイ」
自分だけなんて、本当にズルイです。私が言っても、それは100%嘘なのに。
でも、悔しいからそんなこと、教えてあげません。
その代わりに、可愛くない憎まれ口を叩いてみる。
 「・・・それも、嘘ですか?」
 「ちげーよ、ばーか。俺様は、嘘は言わねー主義だ」
嘘つき。でも、さっきの言葉は、信じてあげます。
剥き終えた林檎を、美味しそうに頬張っている真弘先輩の横顔を眺めながら、
私は、いつの間にか幸せな気分に浸っていた。
 「おっ、お前の嘘が当たったぞ。カミが大量に押し寄せてきた」
 「もう良いです。そんな、判りやすい嘘なんて・・・」
何処か揶揄う口調で言う真弘先輩に、私はツンっとそっぽを向いた。
 「ホントだって!!ほら、見てみろ」
無理矢理視線を向けさせられた先には、供物を抱えた小さなカミ様たちが、
山の方へと向かって歩いていた。
更に小さなカミ様が、自分も持ちたいとでも言っているように、
供物を抱えたカミ様の間を飛び跳ねながら回っている。
 「なっ、当たっただろ!!」
まるで自分が当てたかのように、胸を張って笑う真弘先輩に、
私も思わず笑みが零れる。
明日になったら、言ってみようかな。
私も、100%あり得ません。
嘘じゃないって、信じてくれますよね。

完(2010.04.03) 
 
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