「独り占め」

お昼休みの屋上。そこには、いつもの風景が広がっている。
テーブル席に、私と拓磨と慎司くん。
ちょっと離れたフェンスの前に、お昼寝を楽しんでいる祐一先輩。
それから、もうちょっとテーブル寄りのフェンス前に、バイク雑誌を眺めている真弘先輩。
私の座っている場所からは、真弘先輩がよく見える。
バイク雑誌に飽きた真弘先輩は、時々校庭を眺めていた。
あの視線の先には、きっと可愛い女子生徒がいるんだろうな。
付き合っている彼女が目の前にいるってのに、まったく失礼な話よね。
趣味みたいなもんだ、って真弘先輩は言うけど、やっぱり気になるものは気になるよ。
私って、独占欲が強いのかなぁ。
 「珠紀先輩、どうかしたんですか?ぼぉ〜っとして・・・」
 「えっ、ううん、何でもないよ。ごめん、何の話してたんだっけ?」
慎司くんに声を掛けられて、慌てて真弘先輩から視線を外す。
 「いえ、あの・・・。拓磨先輩のクロスワードの答え、考えてたんですよ」
そうだった。拓磨がやっているクロスワードパズル。
たまには一緒にやろう、ってことになったんだっけ。
 「このヨコの答え、絶対『パンダ』だろー。だって、ヒントはユーカリを食う、ってんだから。
 でも、入んないんだよ。タテが『ン』になんねー」
 「違うよ、拓磨。だって、ユーカリ食べるの、『コアラ』だもん。『パンダ』は、笹」
 「それより、拓磨先輩。そのタテの答え、最後の一マス、余ってますよ」
 「えっ?何処だ!!」
一冊の雑誌を真ん中に置いて、あーでもない、こーでもないと、
三人でパズルの答えを言い合っていた。
キーン・コーン・カーン・コーン。
そうこうしてる内に、お昼休み終了を告げるチャイムの音が聞こえる。
 「続きは、俺が全部やる!!」
 「じゃあ、明日までにできてなかったら、お昼にたいやき、奢ってよね」
 「拓磨先輩、ご馳走様でーす」
笑い声を上げながら、私たちは出入り口に向かった。
ふと気になって振り向くと、真弘先輩が、まだフェンスの前に座っている。
 「珠紀、どうかしたか?」
立ち止まってしまった私に、拓磨が声を掛けてくれた。
 「ごめん、先に行ってて」
拓磨と慎司くんを見送った後、私は真弘先輩の傍まで歩いていく。
途中ですれ違った祐一先輩は、ポンっと私の肩を叩くと、そのまま出て行った。
 「真弘先輩、どうかしたんですか?授業、遅れちゃいますよ」
 「あー、わりぃ。みんな、行っちまったのか。授業始まるから、お前も先に行け」
真弘先輩、何だか元気がない。朝は普通だったのに・・・。
 「先輩は?授業、出ないんですか?」
座っている先輩の顔を覗き込むように、ちょっと体勢を屈ませる。
すると、真弘先輩が、私の手を思い切り引っ張った。
 「きゃあ!!」
バランスを崩した私は、そのまま真弘先輩の腕の中に、抱きしめられるように落ちていく。
 「ま・・・ひろ先輩?」
 「やっぱり、ダメだ。我慢できねー。珠紀は俺んだって、叫びそうになった」
抱きしめる力を更に強めると、真弘先輩は小さく呟いた。
 「お前は玉依姫だから、他の守護者との関わりも大事だ、ってのは判ってる。
 俺ばっかりが、玉依姫を独占しちゃダメだってことも・・・。
 でも、あんな風に、他の連中と楽しそうにしてると、何かムカツク」
 「真弘先輩、それって・・・」
拓磨たちに嫉妬してる、ってことですか?
 「いつもは、気にしないようにしてるんだ。お前が楽しそうなら、それだけで良いって・・・。
 でも、お前の笑顔が他に向けられてると思うと、やっぱ気に入んねー。
 時々、無性に腹が立ってよ。イライラして、叫び出したくなる。
 珠紀は俺んだ、誰にもやんねーって」
トクン、トクン。腕の中に抱きしめれていた私は、真弘先輩の心臓の音を聞いていた。
先輩の腕の中は居心地が良く、心臓の音を聞いているだけで、とても安心する。
この場所を手放すなんて、私だって、絶対に嫌だよ。
 「真弘先輩、私だって一緒です。先輩が、校庭にいる女子生徒を眺めてたりすると、
 真弘先輩は私のだって言いたくなるし、私だけを見てて欲しいって叫びたくなる。
 真弘先輩を独り占めしたいって、ずっとそう思ってるんだから」
真弘先輩の背中に腕を回す。もう離れないって意思表示するかのように、腕に力を混めて・・・。
 「なんだ、そっか・・・。お前の心は、独占してたんだな、俺」
 「心だけじゃ・・・ないですよ」
そう言うと、私は真弘先輩の唇に、自分のそれを重ねる。
拓磨たちとは友達だし、これからも仲良くしたい。守護者とか、そんなこと関係なく。
でも、真弘先輩には、それ以上の私を独り占めしていて欲しい。
ずっとずっと、永遠に、真弘先輩だけのものに・・・。
 「すげー、安心した。サンキューな」
ホッとした声で言う真弘先輩は、嬉しそうに笑っていた。
その笑顔も、私だけのものですからね。真弘先輩。

完(2009.12.12)  
 
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