「牽制」

久し振りの宇賀谷家。
学校では、昨日まで期末試験が行われていた。
珠紀から、試験勉強を理由に、宇賀谷家への立ち入りを禁止されていたのだ。
まぁ、中間試験の頃は、鬼斬丸を巡っての戦いの最中だったからな。
その影響が、出席日数と成績に、モロ反映されちまったらしい。
 「試験期間が終るまで、私、真弘先輩断ちします!!」
試験期間前日。珠紀がそう宣言した。
 「は?お前、何言ってんだ?」
 「だって、このままだと、実家へ強制送還されちゃうんですよぉ」
珠紀に泣きつかれたら、さすがに俺も文句は言えない。
珠紀が実家へ帰っちまったら、困るのは俺だ。
朝と昼休み以外は逢えない期間が過ぎ、解禁日の今日、
さっそく珠紀を誘いに宇賀谷家へやってきた。
 「珠紀、邪魔すんぞー」
迎えに出た美鶴の話では、珠紀は庭に居るらしい。
居間を通って庭に出ようとした俺は、縁側で眠っている珠紀を見つけた。
干してあった布団を取り込んででもいたのだろうか?
ふかふかの布団に上半身を預けるような体勢で、気持ち良さそうに眠っている。
そういや、毎日遅くまで勉強してる、って言ってたもんな。
 「お前、んなとこで寝てると、風邪引くぞ」
 「・・・ん」
俺の声に反応してか、一瞬声を漏らす。が、そのまま、また眠りに落ちていく。
か、可愛いじゃねーか。
ほんの少し口をあけて眠る珠紀を見て、思わず顔を赤くする。
 「ったく、こんな無防備な顔してよ。襲うぞ、ばか」
 「・・・真・・・弘、せんぱ・・・」
夢でも見てるのだろうか。珠紀の口から、微かに俺の名を呼ぶ声がする。
あー、もう、どうなっても知らないからな。
俺は、眠っている珠紀の顔に、自分の顔を近づける。
 「んな顔、他の連中には絶対見せらんねーな。
 あいつら、何するか判ったもんじゃ・・・」
 「私は大人ですからね。一応、理性にそった行動を取りますよ」
俺の呟きに呼応するように、上から声がした。
珠紀と唇を重ねる一瞬手前で、俺は体勢を固まらせる。
 「では、子供には理性がないと?」
 「こん中で、一番子供って言やぁ・・・」
 「ぼ、僕は、年齢的には一番下ですけど、でも、精神的には大人です!!」
次々と聞き覚えのある声が降ってくる。
 「それなら、精神的に一番子供なのは・・・」
視線が痛い。全員が俺を見ているのが判る。
 「あー、そうだよ。精神的に子供で、理性がないのは、俺様だ!!」
やけくそ気味にそう怒鳴ると、何とか顔を上げることができた。
くそー。珠紀は俺の彼女なんだぞ。キスくらい、したって良いじゃねーか。
 「あの、みなさん、どうかなされたんですか?」
大蛇さん、祐一、拓磨、慎司。
更にその後ろには、お盆を手にした美鶴が立っていた。
 「まぁ、珠紀様。こんな所でお休みになられては・・・」
持っていたお盆をテーブルに置くと、美鶴はすぐさま珠紀の所へやってくる。
 「確かに、こんな所で寝ていては、風邪を引いてしまいますね。
 それでは、私が部屋まで運びましょう」
大蛇さんが、そう提案した。
 「いや、それには及ばない。珠紀は、俺が運ぼう」
更に、祐一も参戦する。
 「いやいやいや。力仕事なら、俺に任せて下さいよ。
 珠紀、こう見えて、結構重いっすよ」
拓磨、何でお前が知ってんだよ。珠紀の体重。
 「あっ、あの、それだったら僕が。こういうのは、若手の仕事ですから」
慎司。お前、さっき、大人だって言ってなかったか?
 「あー、お前らうるせー。珠紀は、俺が運ぶ!!」
こいつらに先を越されてたまるか!! 
 「フフッ」
守護五家全員で牽制しあっていると、後ろで小さな笑い声が聞こえる。
振り向くと、美鶴が珠紀の耳元に口を近づけていた。
 「軽くなれ」
そう呟くと、美鶴は珠紀を軽々と持ち上げる。言霊の力か!!
 「どなたか、そのお布団、運んでくださいませんか?」
にっこりと微笑んだ美鶴は、そのまま珠紀の部屋へと歩き出した。
もしかして、俺の一番の強敵は、守護五家なんかじゃなく、美鶴なのか?
俺は、得体の知れない恐怖を感じた。

完(2009.11.08) 
 
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