サンタクロースは怖い?
クリスマスというとイエス・キリストの誕生日というよりは、サンタクロースがプレゼントを運んでくれる日ということの方がよく知られているのではないでしょうか。
でも、そのサンタクロースは子どもに怖がられるということを皆さんはご存知でしょうか。特に、新米パパはよく覚えておいていただきたいと思います。怖がられても動揺しないために。
サンタクロースは怖がられるというのは本当です。以前にわたしはサンタクロースになることを神さまに命じられて、五年ほどその仕事をいたしました。わたしの行く先は保育園でした。二階では、園児たちが「真っ赤なお鼻のトナカイさんは…」と歌いながら、わたしの出てくるのを今か今かと楽しみに待ってくれています。これが普通です。みんなサンタクロースが楽しみです。ところが、園長先生が、二階の子どもたちの所に行く前に、乳幼児にもプレゼントを届けてほしいと言われるのです。承諾して、保母さんの手に抱かれた乳幼児にサンタクロースの顔をぐっと近づけて、「クリスマスおめでとう」と声をかけると、最初はキョトンとして、それから、ギャーと泣き出すのです。初めてぬいぐるみを着た人に出会うと幼い子は怖がるのです。たとえそれがディズニーランドのミッキーであってもそうなのです。サンタとの最初の出会いは子どもにとっては衝撃的です。しかし、二、三年すると、その同じ子どもが二階でサンタを待ち望んでいるのですから不思議なものです。
クリスマスの名著の一つに「サンタクロースっているんでしょうか?」(偕成社)という本があります。これは、バージニアという八才の子どもが友達からサンタクロースはいないと言われて、新聞社に真偽を尋ね、その返事が社説になった実話を物語にしています。そして、その中の「そう、バージニア、サンタクロースはいるのです( Yes, VIRGINIA, there is a Santa Claus.)」という言葉がその後全米中で愛唱されました。
その本の中の一節に「目に見えない世界は、一枚のカーテンで覆われていて、…そのカーテンを開けることができるのは、信じる心、想像力、詩、愛、夢見る気持ちだけなのです」というところがあります。
幼子が、サンタクロースが怖いという世界からサンタクロースを待ち望む世界に移り住むときにも同じことが言えるのだと思います。
ところが、わたしたち大人はいつの間にかせっかく得た「見えないものを見るめがね」を再び失った中で毎日の生活に追われているのではないでしょうか。
昨年の教会でのキャンドルサービスでページェント(宗教劇)を取り入れたところ、会衆の皆さんから初めてクリスマスに何が起こったかが分かりましたと感謝の言葉をいただきました。その人にとってはサンタクロースを待ち望んだ幼い頃の心を取り戻された一瞬だったと思います。今年は皆さんもキャンドルの中で「そう、バージニア、神さまはいるのです」という声に耳を傾けてみませんか。
(沼津朝日「言いたい放題」 2005年12月16日掲載)