「…こんにちは。
遠坂 圭吾(とおさか けいご)と言います。」
遠坂は、微笑んで手を出した。
「…あ、失礼。
…悪く、思わないでください。
少し変わった境遇でしてね。
握手とか、食事のマナーとか、ちょっとしたところで、戸惑うときがあります。
おかげで、少し浮き気味で…ほんとは、布団を干したりするのが好きな、ただの男なんですけれど…ね。」
(布団干すのが趣味の普通の男って…。)
「よろしく。」
遠坂は上着を着るところだ。
手伝いますか?
[選択1-1]
(手伝う。)
「…ああ、ありがとう。」
遠坂は自然な動作で、袖を通してもらった。
しばらく考えている。
「…すみません。つい…癖で…すみません。
痛恨でした。」
(ひょっとしたら、…このひとってすごいお金持ちなのかな。)
「あー、その、そうですね。あなたには天性の執事の才能を感じます。
…変なこと言ってしまいましたか。
ひょっとして…。
痛恨でした。…すみません。
…僕は、あなたの前ではミスばかりですね。
…普段はもう少し…
たとえば、布団を干したりするときは立派なんですが。」
[選択1-2]
(ほっとく。)
遠坂は、ひどく苦労しながら上着を着た。
実は不器用かもしれない。
「どうしました?
…それにしても、最近はお互い、よく話しますね」
着信音が聞こえる。遠坂の携帯電話かな?
「…失礼。」
遠坂は、携帯電話をとった。
「私です。
…学校にはかけてこないでくださいと、言っているはずですが。
…はい。
フルセン殿下の件は了解しています。
きちんと、時間までには帰宅して、お相手をつとめますよ。
…ええ、はい。スピーチの草案は英語で、私のデスクの右引出しの一番上に入ってますから。見たければどうぞ。
それから、その下の帳簿はまだチェックしてませんから、手をつけないでください。
チェックしたら第二執事の方に。…はい。
言っておきますが、今度そういうことを言ったら、私は怒ります。
…はい。それでは。
…。
すみません。
…あー、ええと、実はフルセン殿下というのは、うちの犬、そう、犬でしてね。
スピーチっていう英国のドッグフードしか食べないんです。
あー、その。
まいったな。…本当です。信じてください。」
[選択1]
(信じる。) / (信じない)
「[…そうですか。
よかった…。
ほんとうによかった。]
…。
…。
…僕は、家が嫌いなんです。
同じ年頃の皆が戦っているのに…。
家が違うだけで、僕だけが戦場から離れることも…。
金儲けと権力しか考えてない人のことも、気に入らない。
…。
すみません。…もう、あなたにはなるべく話しかけませんから…許してください。」
「最近、新聞はどこを見ても、幻獣派弾圧、許せないのキャンペーンですね。
幻獣派狩りに関しては、私は、反対です。
いくら戦争中だからと言っても、基本的人権は守られてもいいと思っています。
だいたい…親が幻獣派だからといって、その子供の進学にまで影響があるのはおかしいはずです。
子供のあっせん先を子供が選べない以上、悪いのは親であって子供ではないはずです。
…まったく。」
遠坂は、手を振ると、なにもないところから花束を出現させた。
「これをどうぞ。
フッ……ああ、魔法ですよ。
超常能力…超能力です。
本来人間が普通に持っている能力です。
同調と言ってね、何かと何かを結ぶ技能です。
今は、どこかの花畑と私の手を同調させたんですよ。
プログラムでも、同じようなことが出来ます。
あっちは直接、別の場所に飛ぶ能力ですが…。
幻獣派や、あるいは昔の技術を保っているところでは、今でも使う人がいます。
もう少し高位になれば、それこそおとぎ話のように、姫君にドレスをプレゼントすることが出来るんですが。
…。
…人は、訓練さえすれば、こんな能力ですら持っているのに、楽をしたいと言う理由でこの星を汚染している…。
…人間とは、つくづく度しがたい愚かな存在ですね。」
「…最近、幻獣の本を読んでいるんですよ。
僕の家には、発禁処分になった幻獣の本が結構あってね。
父が、若いとき警官で、押収して、研究の為に読んでいた書物なんですが…。
幻獣派は、別に人類絶滅なんて唱えてませんよ。
それどころか、この惑星の浄化と再生を謳っている。人は、もう一度自然と向き合うべきだと。
…敵意を持たねば幻獣は襲ってこないと…。
…そんな内容で…なんで、弾圧されるのか、分からないな。」
「やあ。
…。
最近、幻獣派について良く考えるんですよ。
彼らは、いや、幻獣は本当に悪なのかって。
本当は我々が悪で、彼らが善ではないか、と。
…幻獣派は、幻獣をこの惑星の意志と見ています。
幻獣が破壊した後には、自然がすごい速度で回復するでしょう。
それに幻獣には口がない。
つまり、食べない。あれはある目的のために短時間だけ生み出される生体機械だと。
ある目的というのは、もちろん、母なるこの惑星の再生です。
…そうなると、生み出す母は地球自身ですよ。
…幻獣は人間を襲っているんじゃなくて、母なる地球を蝕む文明を攻撃しているんです。
まったく、なんでこんな簡単なことにみんな気付かないんだろう。
いや、わざと気付きたくないのか。
文明を壊されて一番困るのは、先進国。
それも、金持ちですからね。
…我々は金持ちや権力者を守るために、戦わなくてもいい敵と戦っているかもしれませんよ。」
「聞いてください。この部隊に幻獣共生派が居ました。
彼と話をして、僕はますます幻獣共生派の正義を確信しましたよ。
彼、ですか? いや、非常に用心深い人なんで、名前は言えませんけど、いや、あなたならいいか。狩谷くんです。彼は幹部ですよ。
今度、もう少し詳しく話を聞いてみようと思います。…まったく清廉潔白な人だ。
それにしても最近の父の、遠坂家の動きは面白くありませんね。幻獣共生派弾圧を叫ぶ政府に協力して、議員を目指している。
…いや、すみません。
少し、興奮してたかもしれません。」
「僕には、妹が居るんですよ。
14になるんですが、かわいくてね。
化学物質アレルギーで身体が弱いんですが、花を育てるのが好きなんですよ。
あと、小さな猫を飼っていてね…。」
[選択1-1]
(妹が、好きなの?)
「ええ、そりゃもちろん。
これで化学物質が減れば、部屋に閉じ込めずに、自由に学校に行かせたり、遊ばせたり…。
人類が文明に頼って幻獣と戦争する間は、だめでしょうけどね。」
[選択1-2]
(何で急に?)
「…あ、いや、そういう話じゃなくて、今度、妹と会ってくれませんか。
あなたの話をしたら、興味をもってね。
お兄様がお友達なんて、珍しい。
聡子も会いたいなって。
…そ、そのよろしかったらですが、今度会ってくれませんか。
妹は、お兄様が好きになるなら、きっと私も好きになると思いますって言っていて。
ああ、いや、それで家族みたいなひとが増えたら…なに言ってるんでしょうね、私は。
どんなスピーチでも交渉でも、こんな気分にはならないんですが。いや、だから、お願いします。今度、妹と会ってください。
あー、ええと。いや、いいです。やっぱり。
…返事は、今度聞きますよ。
そちらの気持ちもあるでしょうし。
…そんなにあせってませんから。」
「今度、幻獣派の地下集会があるんです。
そこで、自然とその復活をテーマにした詩を発表する予定なんですよ。
…場所、ですか。ここの近くですが。
地図でも書きましょうか。」
[選択1-1]
(書いてもらって先生に届ける)
「はい。興味があったら、来てください。
それでは…。」[イベント終了、011に接続]
[選択1-2]
(いや、いいよ。それよりも気をつけて。)
「ええ、
分かってますよ。それよりも詩の成功を祈ってください。」[イベント終了]
[職員室]
「…ああ、遠坂くんですか。
あれはね、いいんですよ。
あれは、準竜師の飼い犬ですよ。
あなたより、ずっと役に立つ、ね。
彼の親は彼が幻獣派であるという事実で、もう、芝村一族のいいなりですよ。
愉快なぼっちゃんだ。
自分は人助けしていると、いい気になって、家族を熊本でも有数な一門を崩壊させている。
人類優勢なら、最後に狩ればよし。
幻獣優勢なら、講和のための平和の使者。
どちらも、芝村には悪くない話です。
…底の浅いヒューマニストは、一人を助けて家族を殺す。近々、準竜師と彼の妹あたりの結婚でも決まるのではないですかね…。
…それはともかく…。
ごくろう、これは少ないが、今後の工作費です。仕事にはげみなさい。」
所持金が200000円増えました。
「僕は思うんですけど、幻獣というのは、それほど悪くはないんじゃないでしょうか。
いや、その、ただそう思っただけなんですが…」