001【それまでの歴史】

 1945年
 全世界規模で行われた人類同士の戦い、すなわち第2次世界大戦は、意外な形で終結を迎えることとなった。
 黒い月の出現。
 それに続く、人類の天敵の出現である。
 人類の天敵。
 これを、幻獣と言う。
 神話の時代の、獣達の名を与えられた、本来、我々の世界にありえない生物である。
 生殖もせず、口もなく
 幻のように現れ、
 身に貯えられた栄養が尽きるまで戦い、死んで幻に帰る。
 ただ、人を狩る、人類の天敵。
 人は、それが何であるかを理解する前に、そして人類同士の戦いの決着を見る前に、まず自身の生存のため、天敵と戦うことを余儀なくされた。
 それから、50年--------。
 戦いは、まだ続いている。
 [ガンパレード・マーチ タイトル]
 [世界地図。幻獣勢力の増加。]
 1973年
 [世界地図。幻獣勢力の更なる増加。]
 1997年
 1945年から続く幻獣との戦いは、ユーラシアでの人類の後退という形で、続いていた。
 焦土作戦を採用し、核の炎で自らの街を焼きながら後退するユーラシア連合軍は、ついに海岸線に追いつめられた。
 同年4月 仁川防衛線。
 [世界地図。ユーラシア大陸陥落。]
 人類は4千万の死者を残してユーラシアから消滅した。
 人類の生存圏は、南北アメリカ大陸とアフリカ南部、そして日本のみとなる。
 [日本地図。]
 同年9月
 自然休戦期明け、ユーラシアからついに人類を墜逐した幻獣は、ついに九州西岸から日本に上陸を開始。
 ここに人類と幻獣の幾度目かの防衛戦争が開始された。
 [九州地図。]
 1998年
 もはや恒常化した日本国土における幻獣との戦争において、一つの事件が起きる。
 記録的な惨敗である。
 九州地方南部の八代平原で行われた、この会戦において、投入された自衛軍の兵は陸自のほぼ全力にあたる48万。
 一方の敵幻獣は1400万。
 人類は、生物兵器を使って同地の8割を焦土にして戦術的勝利をものにしたが、同時に30万以上の将兵を、一挙に失うことになった。
 人は、この穴を埋めるために、戦いつづけることになる。
 [九州地図。熊本が赤く。]
 1999年
 日本国国会において二つの法案が可決された。
 一つは、熊本要塞を中心とした防衛ラインの設置である。
 本州への幻獣上陸の絶対阻止を計る時の政府は、時間稼ぎのために、九州中央部に位置する熊本県を中心として戦力増強を行う。
 こうして、単なる47都道府県の一つであった熊本は、本州防衛、その最後の砦となった。
 例え九州の他の全県が陥落したとしても、幻獣は熊本というトゲを陥せない限りにおいて、つねに後背に刃を向けられることになるはずである。
 もう一つの法案は、少年兵の強制召還である。14歳から17歳までの、徴兵規定年齢に達していない子供たちが、学籍のまま、かき集められた。
 その数は十万人。
 これを即席の兵士として熊本要塞に投入し、本土防衛のための「大人の兵士」ず練成されるまでの時間を稼ぐ。
 これら少年兵のほとんどが1999年中に死亡すると、政府は、そう考えていた。
 物言わぬ、幻獣との戦争に飲み込まれた子供達。
 これからの物語は、その子供たちの一人が、主人公である。
 [ぽややん笑顔な速水。]
 速水厚志。
 1984年生まれ 性別男。15歳。
 世界を救う能力があるわけでも、勇者でもない。
 学兵と呼ばれ、厳密に言えば兵士でもなく、過年の強制徴募に対し、生き残る確率が少しでも高い方と、戦車兵を志願した少年である。
 この物語は、速水厚志、この少年の目を通して描かれる。
 戦車兵志望の学生として訓練を重ね、戦時急造の部隊と、同世代の少年達と共に、パイロットとして戦火を潜りぬける物語となろう。
 時は、熊本を6月まで、本州防衛の態勢が整うまで守り切れるか。
 軍首脳が真剣に考えていた頃。
 物語の主人公は、未だ、戦車兵にもなっていない。
 1999年3月4日。
 桜の咲く、前であった。


002【芳野/初登校】

 停車して走り去るバスの前には、一人の女性が待っていた。
「あなたが速水 厚志(はやみ あつし)さんですか。」

[選択1-1]
 (はい、そうですけど。)
「よかった。入学式ですし、きっと早く来るだろうと早く来るつもりだったんですけど…。
 実は30分ほど遅刻しちゃって、誰も来ないし、どーしようと思っていたんです。
 すみません。
 …一応目覚まし時計三つ使ったんですけど。
 ………。
 (いけないわ、春香。駄目よ、このままでは、いくら自分が新任教師で相手が軍人さんのタマゴでも、ここでガツンと、教師の威厳を、そう、威厳をしめさないと、いぢめられるわ。ええそう赴任早々黒板消しが落ちてくるとか、背中に定規を入れられるとかええと)」

[選択1-1-1]
 (あの、もしもし…?)
「………。
 は?
 ご、ごめんなさい。先生。よくなんか、時間が飛んじゃって。
 そ、そう。」(以下に続く)

[選択1-1-2]
 (一人で歩いて行く。)
「………。
 は? あ、ちょっと待って!
 え、ええと。」(以下に続く)

[選択1-2]
 (あなたは一体?)

「申し遅れました。わたしの名前は、芳野 春香(よしの はるか)です。
 あなたの副担任になります。
 …その、軍属じゃなくて、民間人の代用教員ですけど。
 皆さんには、国語を教える事になっています。
 ようこそ、第62高等戦車学校に。
 先生が、あなたを、学校まで案内します。
 ついてきてください。
 なんで、戦車学校なんかに入学されたんですか?

[選択2]
 (徴兵ですよ。) / (南では、日本が負けたんでしょう?) / (戦車、好きなんです。) / (黙っている。)
「…そう。
 関東の方は、徴兵拒否も多いそうです。
 九州は幻獣のせいで火の海になっているのに。
 …それとくらべたら、あなたは偉いわ。
 先生なんか、ぼんやりした性格だから、徴兵検査に落ちちゃって。
 …ごめんなさいね。
 だらしない大人ばっかりで。
 さ、行きましょう。
 …熊本には、馴れましたか?」

[選択3]
 (はい。) / (いいえ。)
「ここ熊本は、別名、森の都と言うんです。
 今は東京より緑が少ないけど、明治の頃までは、本当に森が多かったんですよ。
 あとは、火の国という別名があります。
 自分達を火の国の火の一族と言う土地の人もいます。
 先生は広島だけど、ここの人がそんな風に言うのは、阿蘇山のせいかしら。
 これから、教室までの道のりを案内します。
 明日からは自分で登校してもらいますから、ちゃんと道順を覚えておいてくださいね。
 ここが売店。あそこのおねーさんのところに行ってボタンを押せば買い物が出来ますよ。
 育ち盛りですものね? 訓練をした時は、お腹がすくでしょう?
 先生もね、忘れっぽいから時々教科書とかノートとかシャーペンとか、それからお弁当も忘れるときがあって…買ったりするんです。
 校舎はこの先です。
 規模が小さいので、女子戦車学校に間借りしているんです。
 あなたを入れると、4人で発足することになると思います。ちょうど特機小隊の一個分のパイロットになります。
 ええと、特機って、あなたが乗る戦車のことだそうですよ。
 私…先生はお侍と呼んでます。
 こちらが校舎。
 この小さな建物は、今は使われていないけど、あなた方が戦車学校を卒業したら、合同訓練の小隊設立委員長の執務室になります。
 [チャイム]
 あ、予鈴だわ。ごめんなさい…急ぎましょう。
 朝は8時45分からです。
 つきました。ここです。
 ここから先は、担任の先生が指導されます。
 その、やっぱり先生と言っても軍籍にある専門の軍人さんだから、ちょっと恐いけど、かみつかれたりはしないから、安心してね。
 それから…それから、国語。
 ちゃんと勉強しましょうね。
 戦争が終ったら、きっと役に立つときがあると思うの。心を豊かにする必要が…。
 は、いけない。遅刻しちゃう。
 い、いそいで、急いで。」


003【教師/初日HR】

本田「やっとこれで全員揃ったか。
 よーこそ。
 飛んで跳ねて大砲をぶっぱなす、現代の侍を育成する学校に。
 急遽編成された速成教育部隊、小さな学校だがな。おめーを一人前の侍にしてやることは保証する。
 今日はノン・ペナルティだ。
 好きなところに座りな。
 俺は、本田 節子(ほんだ せつこ)。
 お前達の実技教官だ。
 教官はあと二人だ。坂上先生。」
坂上「坂上 久臣(さかうえ ひさおみ)です。
 戦術理論を教えます。」
本田「後は、代用教員の芳野先生だ。
 戦闘以外のことを教える。
 速水、おめーはさっき会ったな。
 朝から、引率をお願いしてたんだが、他の奴等は勝手に集まっているし、やっぱ、あれだな。遅刻してきたんだろ。あの人。
 …まあ、朝弱いからな。
 ああいうのが規律正しいことが商売の兵士を育てると思うとうそ寒いが、人材不足は仕方ねぇ。お前、ああいう大人にはなるなよ。
 レッスン1だ。
 遅刻するな。軍隊ってのは、タイミングが命だ。バラバラと遅れて戦力が入っても、連携がとれない。各個撃破される。
 百人が一斉に掛かってきたら一人では負ける。
 だがその百人がそれぞれ一人、五分づつ遅れてくればオメー、一人でも結構やれる。
 そいつは一対百じゃない。一対一が百回だ。
 そういうこった。だから遅刻するな。
 へぼい学校のように、理屈もなく遅刻するなと言っているんじゃない。
 テメーと仲間の命がかかってるんだ。
 あの民間人の先生は、それがどうしてもわかっちゃいないのさ。
 …よし、以上、オリエンテーション終わり。
 こっからは授業だ。ノートはとらんでいい。
 俺が言うことを確実に覚えろ。
 戦場じゃ、ノートなんて読む暇ねえぞ。」


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