「はじめまして。
僕、速水 厚志(はやみ あつし)です。」
やさしそうな、ぽややんな雰囲気の人だ。
「…?
なにか困ったことがあったら、僕に相談してね。あんまり役に立たないけど、一緒に悩むことぐらいは出来るよ。」
「…。
朝ご飯、ちゃんと食べてる?
なんだか、元気なさそうだよ。」
速水は何か思い付いたようだ。
「そう、ちょっとまってね…。
はい、サンドイッチ。
僕が作ったものだけど、良かったら食べてよ。
え? 僕は、あんまりお腹すいてないから。
大丈夫だよ。
なかなかイケると思うよ。
僕、小さな頃は、お嫁さんとパン屋さんになろうかなって、本気で思ってたくらいだから。
それを幼稚園の頃に仲良しの娘に話したら、男の子はお嫁さんになれないって、いぢめられたけどね。
…あの子、元気でいるかな。
こんな御時世だから、無事でいてくれればいいんだけど。いろいろ泣かされたけどね。」
「本田先生にね、この間怒られたんだ…。
この間、射撃でわざと外したろうって。
だってあの時、かわいい犬がいたんだよ。
そりゃ当てる自信はあったけど、敵が倒れた時に、犬がつぶされると思ったんだ。
そう言ったら、殴られちゃった。
幻獣だって、植物や動物は傷つけない。
その危険性があるときは攻撃も控えるしね。
それをチャンスって言う人間の方が悪いよ。
あの時、味方が損害をうける可能性と、自分の被害と、犬の命と、我ながら一瞬で良く考えたと思うんだけどなぁ。
…僕が怒られるのは計算してなかったけどね。
と言っても、同じことがあったら、やっぱり同じことすると思うけど。
人間が戦うにも、ルールはいると思うけどな。
でなきゃ、何のため戦うのだか分からないや。」
速水は、死んだ小鳥を持って歩いていた。
「さっき大きな猫が、ブータが連れていってくれたんだ。死ぬのを看取っていたみたい。
お墓作ってあげなきゃね。」
[選択1-1]
(優しいな。)
「…優しい? 僕が?
違うよ、優しいのは、ブータだよ。
人と争うのは、あんまり好きじゃないんだ。
人とだけじゃないよ。
出来るなら、幻獣とも仲良くしたい。
…でも、仲良くするためには、幻獣と人間と、双方が疲弊する必要があるね。
自分が不幸にならない限り、仲良くしようなんて、考えないから。
人間は今のところ、十分不幸だから、後は、幻獣が不幸になれば、どうにか出来るよ。
こんなこと考える人は、多分優しくないな。」
[選択1-2]
(戦争中になにをのんきな。)
「戦争だからさ。
…人類がまずい手をうった結果戦争が起きた。
そのまずい結果を正当化して、さらに失敗する理由にするつもりかい。」
「うーん。
どうも、君は、僕があんまり気付きたくない本性に気付かせる行動をとるね。
…いや。
僕は今まで、自分のことをお人好しなだけの、仕事向きでない、家庭的な人と思ってたんだけど…。」
[選択1-1]
(その通り。)
「ところが、さ。僕は…、」(以下※に続く)
[選択1-2]
(違うの?)
「どうも、違うみたいだね。」(以下※に続く)
※
「家庭的でお人好し…。
そういうのが好きなだけで、それだけしか出来ないわけじゃないみたいだ。
…出来るなら、一生気付きたくなかったけどね。
まあ、気付いたのは仕方ないから、仕事するけど。
…このまま君の後ろについて行ったら、僕はそのうちスゴイことになるんじゃないかなあ。」
「…そろそろ、生き方を変えようかな。
え、いや、なんでもない。
そろそろ、疲れて…ね。
適当にへらへら笑うのに、疲れちゃった。
…だから、これからは前を見て生きて、死ぬことにするよ。
僕はただの速水 厚志だけど、だからと言って歴史の波に飲み込まれる気はない。
いや、さっきまではそれもいいと思っていたけどね。
…君の顔を見たら、気が変わった。
…僕は、たった今からこの国を変えることにする。何年かかっても力を溜め、どれだけ傷つこうと自由の国を作ってみせる。
君は僕を笑うかい?
僕はこの瞬間から、この国の守護者を名乗るんだけど。」
[選択1-1]
(笑うね。)
「だろうね。でも、そのうち笑えなくなるよ。
僕は、君とこの部隊を、この国を守る。」
[選択1-2]
(分かった…手伝いましょう。)
「いい返事だ。僕を支えてくれると嬉しい。」
「とりあえず、ちょっと偉くなってみたよ。
なにをするにも立場というものがあるからね。
…。
…この戦争を早期で終わらせるためには、九州に足がかりを残す必要がある。
でなければ国土回復に時間がかかりすぎる。
国内難民の問題もあるしね。
だから、ここで僕たちが自然休戦期の夏までに優勢に勝てるかどうかが勝負だね。
僕たち20人で最大限戦争を変えようとするなら、転戦しまくって、敵の頭を叩きまくる、その方法しかなさそうだ。
毎回、強い敵を相手に戦うことになるけどね。
…それしか、なさそうだ。
悪いが、これから苦労かけることになるよ」
[選択1]
(動けってことか?) / (分かった。)
「いい返事だ」
「…新型機と、ウォードレスと士魂号の予備、どっちが、今部隊に欲しいと思う?」
[選択1]
(新型機かな。) / (ウォードレスと士魂号。)
「…そうか。分かった。ではそうしよう。」
「…食糧と、バズーカ。どちらが部隊に必要だと思う?」
[選択1-1]
(食糧でしょう。)
「…そうだね。分かった。
関係各所と話をして、陳情して、なんとか十分数を用意するよ。」
[選択1-2]
(バズーカ、あと、弾薬も。)
「そうかい? まあ、そっちなら、結構簡単に手に入るよ。陳情しよう。
今日中に手配する。」
「…来須先輩は、ずっと一人だろうね。
あんな人だから…
きっと、好きなひとからの好意に気付くことはないよ」
※強運+2Lv Up。
速水「なに?」
速水の肩の上に小神族が居る。
今、深々とおじぎをした。
イトリ「火の国の宝剣に仕える巫女神のイトリです。
主より、強運を預かってきました。
三姉妹の中でもっとも力の強い私を、良く見えましたね。
さすが、もっとも新しい伝説。
この方は心優しく、勇気知る方。
私は、この方を守護しようと思っています。」
速水「…あの、ねえ。僕の肩、いや後ろ?」
イトリ「安心してください。
この方は竜ではありません。
妹達がつく者も違うでしょう。」
速水「なに? どこ?」
イトリ「火の国の宝剣は、あなたが竜を倒すと運命を決定しました。
それだけは、覚えておいてください。
あなたは最終的に、剣が決めた通りに動くでしょう。
それが、剣と言う名の運命。
…幸運を、異世界の人。
火の国の宝剣が、そうお伝えしろと。」
速水「ねえ。何か、僕の肩にいるの?」
笑って首を振りました。
「…僕はね、幻獣を嫌いになれないんだ。
どこか、僕たちに似ているような気がする。
僕たちが気付きたくない自分に。
…ごめん。変なこと言っちゃったね。」
無線機から、小さな声が聞こえた。
○○「速水、速水?」
速水「腹をやられているな…。
聞け! ○○!
そろそろ僕は死ぬが、君はまだやることがあるはずだ。
君には、能力がある。僕よりも。
君は何年かかっても、政治家になってこの国の首相になるべきだ。
…戦争を終わらせ、自由と平和の国を作る為に。
…。
戦え…○○。
この国と人には、それだけの価値がある。」
速水はにっこりと笑うと、死んだ。