信じがたい事態の必然性

ジョン・ピルガー

 

今回のアメリカへのテロ攻撃がイスラム世界によるものなら、あまり驚くには値しない。

 

事件の二日前、イラク南部でアメリカとイギリスの戦闘機が非軍事地帯を爆撃し、8人の民間人が死んでいる。私の知るかぎりでは、イギリスのマスコミは、この事件について一言も触れてはいない。

 

ロンドンの保健教育トラストによると、「湾岸戦争」の名でよばれる大虐殺で死亡したイラク人の犠牲者の数は、約20万人にのぼる。しかし、このニュースが西側諸国の良心に触れることはなかった。

 

アメリカとイギリスによって課せられた古めかしい経済制裁の結果として、イラクでは少なくとも100万人の一般市民が死亡している。そのうちの半数は子どもである。

 

狂信的なタリバン派の母体となったパキスタンとアフガニスタンのムジャヒディンは、主にCIAによって創り出された。今、アメリカ最大の「おたずね者」であるオサマ・ビン・ラディンがテロ攻撃を計画したとされるのテロリスト養成キャンプは、アメリカの資金と後援によって設立された。パレスチナでのイスラエルによる不法な占領は、アメリカの支援がなければ当の昔に崩壊していただろう。

 

イスラムの人々は、"世界のテロリスト"からは程遠い。イスラム世界の人々は、主にアメリカ原理主義によるテロの犠牲者である。軍事、戦略、経済などのあらゆる形態のアメリカの権力こそが、地球上のテロリズムの最大の源なのだ。

 

この事実は、西側のメディアからは検閲により削除されている。マスコミは、せいぜい帝国主義権力の非難すべき行いを最小限に見積もって伝えるに過ぎない。

 

プリンストン大学で国際関係論を教えるリチャード・フォーク教授は、「西側諸国の外交政策は、西欧的なよい価値観や無罪潔白さが脅かされているという、独善的で一方的な法的・倫理的な形でしか提示されていない。それは、好き放題の政治的暴力を正当化するものである」と述べている。

 

ト二ー・ブレアの政府は、イスラエルに殺人兵器を売り、イラクとユーゴスラビアに集束爆弾をまきちらし、ウラニウムを大量投下で使い果たし、インドネシアでの大量殺戮への最大の武器供給者だった。そのブレア首相が今回の事件に関して、「大規模テロをおこなう新しい悪」を「恥じ」と言及し、世論に真剣に受けとめられうるという事態を見れば、我々の集合的な世界観がどのような検閲を受けているのかがよくわかる。

 

まったく、ブレアのお気に入りのフレーズのひとつの「ばかげている」という言葉が浮かんでくる。しかし、あまりにも凄惨な死をとげた数千人のアメリカ一般市民の遺族にとって、この苦しみをもたらした犯人が西側諸国の政策の産物かもしれないということは、なんら慰めにもなりはしない! アメリカの権力機構は、自ら、あるいは罪のない自国民が犠牲を払うことなしに、中東での事件に資金を提供し、操作できると信じていたのだろうか。

 

911日のテロ攻撃は、アラブ・イスラム圏の人々が裏切られ続けた長い歴史の果てに起きた。オスマントルコ帝国の崩壊、イスラエルの建国、第一次〜第四次中東戦争、そして34年にわたるイスラエルによるアラブ国家の残虐な占領。こうした歴史のすべてが、「西側諸国の祖国への介入による犠牲者の代表」を名乗る者による11日火曜日のすさまじい残虐事件によって、短時間の間に跡形もなく消え去ってしまったようだ。

 

「アメリカは近代戦による自国の被害を体験していなかったが今、2万人に及ぶかもしれない犠牲者の数を得た。」ロバート・フィスク教授が指摘するように、中東の人々は罪なき人々の死を悲しむだろう。しかし同時に、西側の新聞やテレビは、今回の報道のほんのわずかな量でも、これまでにイラクで50万人の子どもたちが死亡していることや、1982年のイスラエルのレバノン侵攻で1万7500人の民間人が死亡したことを報道しているか? と問いかけるだろう。答えはノーだ。アメリカで起きた残虐なテロ行為には深い根っこが存在し、今回の事態はほぼ必然的に起きたとも言えよう。

 

原因は、中東と南アジアの怒りと悲嘆だけではない。冷戦終結以降、アメリカとその主要な共犯国であるイギリスは、その富と権力をこれみよがしに行使し、濫用した。その間、アメリカやイギリスは、かつてない規模で人類の分断を押しつけ、その手先は増え続けた。

 

現在、10億人に満たないエリート集団が、全世界の富の80%を使っている。「自由貿易」「自由市場」と婉曲表現されるこの力と特権を守るために、計り知れない不公正が行われている。

 

それは、キューバの違法封鎖に始まり、主にアメリカが牛耳る殺戮兵器の取り引きから、基本的な環境問題に対する良識の欠如、アメリカ財務省とヨーロッパ中央銀行の代理人に等しいWTOのような機構による経済的弱者への攻撃、世界銀行やIMFによる最貧国への支払い不可能な債務の返済の強制、コロンビアの新たな「アメリカのベトナム」化、北朝鮮の「ならず者国家」としての地位を確保するための南北対話のボイコット等におよぶ。

 

西側のテロは、帝国主義(報道関係者が表現する勇気を持ちあわせない言葉だが)のごく最近の歴史のひとこまだ。イギリスのウィルソン政権が1960年代にディエゴ・ダルシャの人々を追放したことは、ほとんど報道されなかった。彼らの母国であったこの土地は現在、アメリカの核兵器の臨時集積場と基地とを兼ね、米軍爆撃機が中東パトロールを行う拠点となっている。

 

19656年のインドネシアでは、アメリカ政府とイギリス政府の共犯行為によって、100万人が殺されている。アメリカはスハルト将軍に暗殺リストを渡し、暗殺予定者が殺されるたびにリストの名前を消していった。

 

BBCの東南アジア特派員だったローランド・チャリスは、「世界銀行とイギリス企業を当地に再び置くことが取り引きの一部だった。」と語っている。イギリスがマライ半島で行なったことは、アメリカがベトナムでしたことと変わらないどころか、むしろ感化を与えたと言える。食糧供給を停止し、村落は強制収容所と化し、50万人の人々の財産を強制的に没収した。

 

ベトナムで、財産を没収し、全土を痛めつけ、枯れ葉剤で汚染した行為は、ヨハネ黙示録のこの世の終末に等しい。にもかかわらず、ハリウッド映画やエドワート・セッドが正に「文化的帝国主義」と呼ぶもののおかげで、我々の記憶のなかで矮小化されていく。

 

べトナムでの「フェニックス作戦」で、CIAは5万人の殺戮を企てた。現在、公式文書が明らかにするところによると、このフェニックス作戦は、民主的に選ばれた指導者サルバド−ル・アレンデの殺害でそのピークに達したチリでのテロ行動や、さらに10年後のニカラグアでの弾圧のモデルとなっていたのである。

 

これらは全て法に反した行為であり、このような事例は多すぎてとても書ききれない。今や、帝国主義は復興の最中にある。米軍は、現在50カ国の基地で、罰則を受けることなく軍事行動を行なっている。

 

ワシントンは、「全領域の支配」が目的であると明言しているし、アメリカ空軍関係の文書を読んでも明らかだ。イギリスでは、貪欲なブレア政権が、「イギリスの国益追求」のために平和維持活動の衣を着せた4つの危険な行動に乗り出した。これらの行為は、国際法上の根拠はほとんどないに等しい。過去50年間のイギリス政府に前例のない行為である。

 

これが、11日にアメリカで起きたテロとどう関係するだろう。世界の大半を占める貧困地域を訪れたら、全てが関係していることが解るだろう。民衆は愚かでも、静止したままでもない。彼らは、自分たちの自治を危うくされ、自分たちの土地と資源と子どもたちの命が奪われているのを見ている。その責任追及の矛先は、特権と略奪を欲しいままにする北の国々へ向けられる。テロが更なるテロと狂信を呼ぶことは避けられない。

 

しかし、抑圧された人々の何と忍耐強かったことか。イスラム原理主義グループが、イスラエルやニューヨークでの自爆を覚悟して結成されたのはわずか数年前のことで、アメリカとイスラエルがパレスチナ国家設立の望みと、帝国主義によって傷つけられた人々への正義を完全に否定した後のことである。

 

遠く離れた彼らの怒りの声が、今届いた。残虐行為の行われる遠い地での日々の恐怖が、ついに、その生まれた場所へ戻ってきたのだ。

 

 

(翻訳:黒田真理子、監修:枝廣淳子)

 

===

 

第二次世界大戦後に、アメリカが爆撃を行った国

中国 1945-46

朝鮮 1950-53

中国 1950-53

グアテマラ 1954

インドネシア 1958

キューバ 1959-60

グアテマラ 1960

コンゴ 1964

ペルー 1965

ラオス 1964-73

ベトナム 1961-73

カンボジア 1969-70

グアテマラ 1967-69

グラナダ 1983

リビア 1986

エルサルバドル 1980年代

ニカラグア 1980年代

パナマ 1989

イラク 1991-99

スーダン 1998

アフガニスタン 1998

ユーゴスラビア 1999