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つよい子を育てるこころのワクチン 

(ダイヤモンド社)

bottun 訳者 まえがき

 つよい子を育てるこころのワクチン

私がアメリカの書店で本書に出会ったのは、日本で「キレる」という言葉が使 われ始めたころのことでした。それから数年。これまで成人の病気と考えられて きたうつ病が、子どもに広がってきているのではないかと、新聞や雑誌でも大き く取り上げられるようになっています。

子どものうつ病の症状は、イライラしてすぐキレるようになったり、頭痛や腹 痛などの体の異常を訴えたりするなど、大人のうつ病とは出方がちがうことが多 いこともあって、本人はもちろん、親や教師も、うつ病を見のがしているのでは ないかといわれています。キレたり、ひきこもったり、不登校になったりする子 のなかには、うつ症状が一因である例もあるようです。アメリカと同様に、日本 でもうつ病の低年齢化が進んでいるという報告もあり、子どものうつの実態を調 べるために、文部科学省は大規模な実態調査をおこなうことをきめるなど、社会 の関心が高まっています。

著者のマーティン・E.P.セリグマン博士は、アメリカ心理学会会長も務め た「理論と実践の研究者」として有名な心理学者です。同じように挫折や失敗を 経験しても、うつになる子もいれば、ならない子もいます。何が違うのでしょう? うつにならないための心の強さとは何でしょう? それをどうやって身につけさ せてやればいいのでしょうか?

こうした考えから、博士は、成人を対象にした認知療法をもとに、対症療法だ けではなく、うつの予防を目的にした子ども向けのプログラムを開発しました。 そして、うつにかかるリスクの高い子どもたちを対象に、このプログラムを実施 した結果、実施直後だけではなく、数年後も子供たちはうつにかかる割合がずっ と低く、このプログラムが、接種を受ければ一生涯、体を守ってくれるワクチン のように、長期的な効果をもっていることを見事に証明したのです。

本書は、この“心のワクチン”プログラムの家庭版として書かれたものです。

家族・社会問題、環境の悪化など、子どもたちはかつてないほど、大きなスト レスにさらされています。親として、そのようなストレスから、わが子を守りた いと強く願います。でも、「箱入り」で育てることは、答えではありません。親 としてできる最大にして最善のことは、子どもが一生のうちで何度も経験するで あろう困難に、めげたり落ち込んだり、キレたりすることなく、のりこえられる 力を身につけさせてあげることです。

本書は、その手引書となってくれるはずです。堅苦しいお勉強でも訓練でもあ りません。親と子どもがいっしょに物語を読んだり、マンガの吹き出しに言葉を 入れたり、対話をしながら、楽しく進めていくうちに、子どもだけではなく、親 にも自然と“ワクチン”が接種されるようになっています。

本書と出会い、翻訳出版の企画書を作って、ある出版社へもち込んだのですが、 実現にはいたらず、とても残念な思いをしました。その後、自分が発信している 環境メールニュースで紹介したところ、反響があり、ダイヤモンド社で出版にこ ぎつけることができました。めげずにキレずに、粘り強く行動できたのも、本書 のおかげといっていいと思います。

原書は三三〇ページを超える大部ですが、日本向けにということで、セリグマ ン博士に要約することを許可していただきました。本書で使うワークシートは、 ダイヤモンド社のホームページ(http://www.diamond.co.jp/~PB1/tsuyoiko/ ) にPDFファイルとして掲載されていて、ダウンロードして使っていただけるよ うになっています。ご活用ください。

最後に、編集者の佐藤和子さん、有沢重雄さん、いつも私をサポートしてくれ ている橋本裕香さん、訳稿の整理を進んで手伝って下さった中小路佳代子さんに 感謝します。

本書が多くの大人や子どもの人生を少しでもラクに、自分らしく生きられるよ うにしてくれることを祈って。


二〇〇三年夏                                 枝廣淳子

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