旅の始まりは「サンダーロード」 | |
中学3年でビートルズに目覚め、ロック狂いになった僕はエレキギターを1日じゅう抱え、いろんなロックアーチストを聴きまくる高校時代を迎えた。おりしもパンク・ロックが華々しく登場した時期だったが、僕には粗削りなサウンドにしか聞こえなかったし、破壊的なメッセージがポジティブに感じられず、あまりのめり込みはできなかった。 そんな高校時代のある日、友達が「これはいいぞ」と貸してくれたレコードがブルース・スプリングスティーンの「ボーン・トゥ・ラン」(邦題は明日なき暴走)だった。僕はこのアルバムの歌詞と疾走するサウンドに、すっかりやられてしまった。 タイトル曲の「ボーン・トゥ・ラン」は「陽の当たる場所を歩いて行こう、俺達のような放浪者は、走るために生まれてきたんだぜ!」という内容の唄だ。「この街は罠だらけで、若いうちに抜け出さないと、背骨までうばわれてしまうぜ」なんてフレーズも心にガツンと効いた。 エレキギターにバイクが加わったのも「ボーン・トゥ・ラン」を聴いてからだ。自分でもなんて単純な奴だと思うけれど、疾走する道具が欲しくて、夏じゅうアルバイトをして中古の50ccのバイクを手に入れた。小さなエンジンだけど、バイクに乗っていると自分の知っている世界が驚異的に広がっていく気がしたものだ。 高校3年の冬、ジョン・レノンが銃弾に倒れた。すごいショックだったから、テレビやラジオから垂れ流されるジョン・レノンの曲に耳を傾けることは、悲しすぎてできなかった。だから、僕は「ボーン・トゥ・ラン」を繰り返し聴いた。やりきれない気分をなんとか立て直してくれるのは、この曲しかなかった。 フェリーは使わないで、陸路で北海道を目指し家を出た。北海道までの距離を体で感じたかったからだ。大阪から少しずつ離れていくにしたがって、今までの生活のしがらみが消えていく。しばらくの間、バイクで知らない場所を旅するだけの生活、そして空には真っ白な夏の雲。気分は「ボーン・トゥ・ラン」だ。 ぼちぼち眠るところを捜そうかなと思い始めた初日の夕方。抜けるようだった夏の空が急に暗くなってきた、夕立の予感だ。「降ってくるな」と思ってたら、すぐに雨がゴーグルに当たりだした。「このまま夕立の中をずぶ濡れになりながら走るのもいいか」とも考えたが、道端にちょうど小さなバス停があったので、雨宿りをすることにした。 荷物にゴミ袋をかぶせ、タンクバックをはずして、バス停に入った途端にすごい夕立になった。しばらくやみそうにないので、ベンチに腰をかけ、暇つぶしに音楽でも聞こうとタンクバックからウォークマンを取り出す。イヤーホーンからは、偶然にもアルバム「ボーン・トゥ・ラン」の一曲目の「サンダー・ロード」が流れてきた。 この帰る予定のない旅は、結局1年半に渡った。その時にアルバイトを見つけ、しばらく居着いてしまった網走に今、再び住んでいる。旅は今も続いている。 |
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・おすすめのブルース・スプリングスティーンのアルバム 左の写真はグレーテストヒット。ブルース・スプリングスティーンをとりあえず知る一枚。「ボーン・トゥ・ラン」も「サンダー・ロード」も収録されている。 |